表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/14

追われる男

映画のプロローグ的な展開を目指しました。

 真嶋優作まじまゆうさく山岡満やまおかみつるはごくりと息を飲んだ。

 今、二人の目の前には瀕死の男が倒れている。髪は金色、ほりの深い顔に無精ひげを生やした白人男性。年のころは四十といったところか。

 男は、腹から大量の血を流しながら突然暗い路地裏から転がり出てきて帰宅途中の二人の前に倒れこんだのである。


「………」

「………」


 真嶋と山岡は互いに顔を見合わせた。

 その目は(やっべえ、どうするよこれ)と語っている。金髪の男は今にも死にそうな顔で息を切らしていた。


「だ、大丈夫ですか……?」


 真嶋が声をかける。男は「ううう」と今にも死にそうな顔をしていた。大丈夫ではなさそうだ。


「お、おい山岡。なんか言ってやれよ」

「やだよ。オレ、英語しゃべれねーし」

「オレだってしゃべれねーよ」


 二人がためらっていると、瀕死の男は真嶋たちに手を差し伸べてきた。


「ううう……」


 はずみで腹から大量の血があふれ出る。


「うわあ! ちょ、出てるよ出てるよ!」

「腹からブラッド! ブラッド、ぶしゅー!」


 真嶋と山岡は慌てて駆け寄った。


「し、しっかりしてください! えーと山岡、しっかりしてくださいって、英語でなんだっけ?」

「How are youじゃね?」

「あ、ああ、そうか。How are you!?」


 どう見ても元気ではない。


「今、救急車呼びますからね!」

「救急車わかります?きゅ・う・きゅ・う・しゃ」


 男は首をふりながら今にも消え入りそうな細い声で答えた。


「オーゥ、けっこうデース……。私、もう、助からない……」

「日本語しゃべれるんだ!」

 真嶋たちは(あーよかった)とホッと胸をなでおろした。


「そ、それよりも、あなたたちに頼みがありマース……」


 男は血に染まった懐からスティック状のメモリーチップを取り出した。よほど重要なものらしい。黄色いテープでぐるぐる巻きにされていた。


「このメモリーチップをある男に届けてほしいデース……」

「なんすか、これ」

「それは知らないほうがいいデス……。知れば、あなたたち狙われマス……」


 男の口から恐ろしいセリフが飛び出した。


「そ、そんなに危険なものなんですか?」


 二人は恐怖に顔を歪めた。そんなもの、受け取りたくはない。


「そうデース。これ、世界的犯罪組織のアジトを突き止めたメモリーチップなのデース」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「あ、言っちゃった♪」

「言っちゃったじゃねーよ!」


 まさかの展開だった。


「私、もう、助からない……。ここで会ったのも何かの縁ネ。このメモリーチップをあなたたちに託したい……」

「いや、そんな。いきなり言われても……」

「お願いしマスよ! 世界の命運、このメモリーチップにかかってるんデスよ!」

「でっかいよ! スケールでっかいよ!」


 突然、世界の命運を託された二人。どうしていいかわからずにいると、男は言った。


「残念だけど、メモリーチップの秘密を知ってしまったから組織が黙ってないネ。もう、命狙われてるネ。引き受けてくれないと、死んじゃうネ」

「マジかよ!」

「引き受けてくれるネ?」

「やるよ! やりゃ、いいんだろ!?」 

 

 真嶋と山岡は男からメモリーチップを受け取った。


「あ、ありがとネ……。これで、心置きなく天国へ旅立てるネ」

「ていうか、これ、どうすればいいんですか?」


 山岡は素朴な疑問をぶつけてみた。


「ああ、言い忘れてたネ。これを、南米ジャングルの奥深くに住むルワンダという男に届けてくだサイ」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「うん、これ外国製♪」

「外国製♪ じゃねーよ! ジャングル行くのかよ!」


 まさかの国境越えだった。


「そ、それから二人にもう一つお願いがあるネ……」

「まだなにか?」


 男はふところからペンダントを取り出した。銀色に輝くきれいなロケット型のペンダントだ。


「こ、これを私の妻と娘に渡してほしいネ……」

「妻と娘ですか……」

「つ、妻と娘とは、ずいぶん前に喧嘩をしてネ。10年前に私が家を出て以来会っていまセーン」

「はあ……」

「二人に伝えてほしいネ。スミスは……あ、私スミス言うんだけど、スミスは立派に任務を果たしましたと。死ぬ時も最期まで妻と娘のことを想っていましたと。彼は立派な男ですと。自分もスミスのように偉大な男になりたいですと!」

「そ、そこまで言わなきゃダメっすか……?」

「彼は、彼は……うぐふう~~。と泣いてもらえるとなお一層効果的♪」

「どんな効果狙ってんすか!」

「ついでに伝えてほしいネ。私は間違っていないと! 謝るのは君の方だと!」

「なにやらかしたんだよ!」

「た、頼みましたネ……」


 スミス氏はすでに虫の息だったが、二人はすっかりやる気がなかった。

 いっそのこと二つとも宅急便で送ろうかと考えて、はたと気が付いた。


「ていうかあなたの奥さんと娘さんてどこにいるんですか?」

「ああ、言い忘れてたネ。フランスにいるネ」

「どんだけ世界めぐらせたいんすか!」

「スミス一生のお願いネ……」


 瀕死の男から一生のお願いをされては無下に断るわけにもいかない。


「ま、まあ、行けるかわかりませんけど、善処します」

「あ、あり……がと……ネ………」


 スミス氏は安心したように目を閉じた。


「スミスさん、安らかに眠ってください」


 真嶋と山岡はなんとなく胸の前で十字をきった。


「あ、私、クリスチャンじゃないから」

「うおおおっ! 生きてるのかよ! 死んだかと思ったよ!」

「あ、あともう一つ頼みがあったのを思い出したネ」

「まだあんの!?」

「こ、この指輪を愛するマリアに届けてほしいネ……」

「また知らない人が出てきたんですけど……?」

「マリアは私が妻と生活しているときに、心の支えとなっていた女性ネ」

「浮気相手かよ!」

「ち、違う違う、そんなんじゃないネ。マリアは、平たく言えば愛人ネ」

「浮気だよ! 平たく言っても浮気だよ!」

「頼むネ、この指輪を愛するマリアに届けてほしいネ。そして伝えてほしいネ。私に妻と娘がいたことは謝る。でも、心から一番愛していたのは君だったと!」

「あんた、私生活はメチャメチャだな!」


 スミス氏は指輪を真嶋の手に渡して安心したように笑顔を浮かべた。


「これで、心残りはないネ……」

「あんたはいったい、何がしたかったんだ」

「では、頼んだネ……。せ、世界の命運を二人に………ガクッ」


 スミス氏は自分で「ガクッ」と言いながら首をもたげた。


「スミスさん、なんとか頑張ってみます。高校生なんで、どこまでできるかわかりませんけど……」

「あ、そうだ。思い出したネ」

「あの、ちょくちょく復活するのやめてくれません?」


 真嶋は真剣に伝えた。


「言い忘れてたネ。ルワンダに会った時には合言葉が必要なのネ」

「あ、合言葉!?」


 だんだんうさんくさくなってきた。


「えーと、確か『かえるぴょこぴょこみぴょこぴょこ、あわせてぴょこぴょこむぴょこぴょこ』」


 まさかの早口言葉だった。


「あんた、ほんとに瀕死なの!? やけに滑舌がいいんだけど」

「訓練したからネ……。こう見えても早口言葉は得意ネ。私の特技は変装、潜入、早口言葉」

「聞いちゃいねー」

「で、でも、最後の最後でミスをおかしたネ。まさかお魚くわえたドラ猫を追いかけていた主婦の包丁に刺されるなんて……」

「犯罪組織にやられたんじゃないの!?」

「日本の主婦は……強い」


 スミス氏はガクッとうなだれた。その目にもう生気は感じられない。


「スミスさん……今度こそ本当に……」

「あ、思い出した」

「でしょうね! そうくると思いましたよ!」

「最後にもうひとつ頼みが……」

「まだあるのかよ!?」

「やっぱ、救急車呼んでくれまセン?」

「最初から言えよ!」


 スミス氏は、救急車で運ばれメモリーチップとペンダントと指輪は救急隊員に託されたのであった。

 その後、一命をとりとめた彼はナンパした日本のナースとともに第二の人生を歩んでいるらしい。

最後までお付き合いありがとうございました。つづきます!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ