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僕のかわいいまどかちゃん

下村しもむらくーん! お待たせー!」


 僕の可愛い彼女が息を弾ませながらやって来た。

 そんな彼女を見て思わず「ぐはあ!」と叫びそうになってしまった。


 ノースリーブのワンピースを着た僕の彼女のまどかちゃん。


 いや、もう可愛すぎだろ。

 天使か?

 天使なのか?

 天使がノースリーブのワンピースを着て走ってるのか?



「ごめん、待った?」



 手を合わせて片目をつむる姿に胸ズッキュン。



 この近くにお医者様はいらっしゃいませんか!?

 可愛すぎて悶え死にそうな男がここにいます!



 ドキドキする僕にまどかちゃんは言う。


「今日のデート、何着て行こうか迷っちゃって」

「ままま、まどかちゃんは、ななな何を着ても、ににに似合ってるよよよよ!」


 緊張しすぎてラッパーみたいになってしまった。

 でもまどかちゃんはまったく気にしたふうでもなく、にっこりと笑ってくれた。


「うふふ。嬉しい」


 押忍!

 その笑顔、押忍!


「それじゃ、どこ行く?」


 まどかちゃんは心の中で悶えてる僕のことなど気づきもせず、腕を絡ませて聞いて来た。


「まままま、まどかちゃんの好きなところでいいよ」

「私の好きなところ?」

「うん! まどかちゃんの行きたいところ!」


 するとまどかちゃんは口をとがらせて言った。


「えー。私は下村くんの行きたいところに行きたいのにー」

「ぼぼぼ、僕の行きたいところ?」

「下村くんと一緒ならどこでも楽しめるよ」

「おおお、押忍! 僕の行きたいところだね、押忍!」


 まさかそんな答えが返ってくるとは思わなかった。

 嬉しいけど、答えに困る。

 嬉しいけど。


 僕は考えた。

 一生懸命考えた。

 天使なまどかちゃんに似合う場所と言ったらどこだろう。


 空を見上げて僕は「あっ」と思い付いた。 


「じ、じゃあカラオケなんてどうかな?」

「カラオケ?」

「まどかちゃんの綺麗な歌声が聴きたいなー、なんて」


 天使の彼女の天使の美声を聴きながらうっとりしたい。

 するとまどかちゃんはギュッと胸を押し付けてきて「行きたい行きたい!」と言ってきた。


「……」



 ああ、親愛なるお母様。


 今日、僕は天に召されるかもしれません。

 先立つ不孝をお許しください。



「私ね、歌うの大好きなの!」

「そうなんだ!」


 そりゃ天使だもの、当然だよね!


 僕はまどかちゃんの手を引いてカラオケ店に向かった。

 道行く人たちがみんなまどかちゃんに目を奪われている。

 そりゃそうだ、まどかちゃんはこの辺りじゃ有名な美少女なんだから。


 名門の女学校に通い、ボランティアにも参加し、スポーツでも注目されている。

 まさに才色兼備。


 正直、地域ゴミ拾いボランティア活動で一緒にならなければ僕のようなミジンコはお近づきにすらなれない存在だった。

 まどかちゃんの方から「下村くん、付き合ってください」なんて言われなければ一生口もきけなかっただろう。

 ボランティア万歳。



 カラオケ店に入ると、顔を赤く染めた店員さんがまどかちゃんに「どのお部屋がいいですか?」と尋ねていた。

 隣にいる僕には気づいていない様子だ。


「下村くん、どのお部屋がいい?」

「まどかちゃんの好きな部屋でいいよ」

「ええー、下村くんの好きな部屋がいいよー」

「おおお、押忍! 僕の好きな部屋だね、押忍!」


 そんなイチャコラを店員さんの前で見せびらかせられる幸せ。

 正直、「チッ」という舌打ちが聞こえたような気がしないでもないけど、僕は普段選んでる機種の部屋を指定した。


「お時間はどうされますか?」

「フリータイムで!」


 まどかちゃんの歌声を聴けるなら、1時間や2時間じゃきっと足りない。一日中聴いていてもいいくらいだ。


「ごゆっくりどうぞー」


 店員さんから案内された部屋に入った。

 辺りを薄暗くして雰囲気づくりもバッチリにする。


「下村くんと個室で二人きりだなんて。ドキドキするー」

「そそそそ、そうだね! ドキドキするね!」


 ドキドキどころか爆発しそうです。


「下村くん、どんな歌うたうの?」

「僕は……アニソンとか……」

「へえ、すごい!」


 すごいかな?


「まどかちゃんは?」

「私は童謡とかかな。よく口ずさむから」

「童謡!?」


 なんてこった、天使に輪をかけて天使な答えが返ってきた!

 天使が童謡を歌ったら、それはもう童謡じゃなくて神の啓示だよ!(意味不明)


「それはすっごい楽しみ!」


 さっそく僕はまどかちゃんにマイクとリモコンを手渡した。

 正直、僕なんぞの歌は流さなくていい。

 この部屋はまどかちゃんの歌声だけで十分だ。


「えー、私から?」


 恥ずかしそうな顔をするまどかちゃんに僕は「早く早くぅ」と子供のようにせがむ。


「えーと、じゃあ、これにしよ。どうやって操作すればいいの?」


 おそらくカラオケは初めてなのだろう。

 まどかちゃんは僕に機械の操作を求めてきた。


「これはねー」


 そう言ってリモコン操作をして送信する。


 流れてきたのは童謡「もみじ」だった。


 渋い! 渋すぎるよ、まどかちゃん!

 カラオケで「もみじ」最高だよ!

 今は夏だけど、季節を先取りしてるね、まどかちゃん!


「ああ、ドキドキする。音痴でも驚かないでね?」

「うん、もちろん!」


 前奏が終わり、まどかちゃんが歌い出した。



「ぼえ~~~~~~~~~~♪」

「ぎゃーーーーーーーーーす!!!!」



 はい、期待通りの展開でした。



 容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能、非の打ちどころのない性格。

 そんな彼女の唯一の弱点が、まさか歌だったなんて。


 天使の歌声が悪魔の歌声に変わった瞬間だった。




「ぼえ~~~~~~~~~~~~~♪♪♪」




 僕はその日、別の意味で天に召されそうになった。

お読みいただきありがとうございました。

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