腐男子山岡と男の娘・弥生ちゃん
「なあなあ真嶋、聞いて聞いて!」
ある日の放課後、親友の山岡が目をキラキラと輝かせながらオレのもとへとやってきた。
「なんだ、山岡。聞いてやるから、その手を離せ」
「あ、いつの間に……」
気が付けば、山岡の手がオレの二の腕をがっしりとキャッチしている。
「んもう、ミギーったら。テヘッ」
「………」
オレの中に若干殺意が芽生えた瞬間である。
「山岡、用件だけを話せ。30秒以内に。簡潔に」
オレの言葉が怒気をはらんでいることに気が付いたのか、山岡は
「いやん、怒らないで」
と言いながら(ここで、オレの怒りはさらに燃え上がるのだがそれはさておき)、本当に簡潔に述べた。
「実は、2組の如月くんが3組の弥生ちゃんに告白したんだ!」
…………。
だれ?
「如月くん?」
「如月くんだよ、如月くん。あのスポーツ万能な」
「ほうほう、あのスポーツ万能な……」
だれ?
「いや、ちょっと顔が思い浮かばないんだけど……」
「『愛するが如く』でいうところの間宮っちだな」
うん、余計わからん。
「背が高くて、メガネかけてて、華奢な体つきなのに、意外とマッチョで。さらには勉強も出来るスーパーマン」
「かっこいいのか?」
「うん。メンズ雑誌のモデルやってるから、女の子から超モテる」
「ああ、そう」
そんなヤツ、いたんだ、この学校に。
スポーツ万能で、勉強も出来て、モデルやってて、女の子から超モテるのかぁ……。
………。
地 獄 へ 落 ち れ ば い い の に。
「真嶋?」
「え、あ、すまんすまん」
やばい。
完全に目がイッてた。
「で、その女の子から超モテる如月くんが、3組の弥生ちゃんに告白したってなんでお前が知ってるんだ?」
「噂になってるんだよ、それがものすごく」
「噂?」
まあ、確かに雑誌のモデルをつとめるようなイケメンくんが女の子に告白しようものなら、話題にはなるわな。
かなりどーでもいいけど!(←強調)
「で、弥生ちゃんはOKしたのか? モデルの世界ってよくわからんけど、そういうのって、アリなのか?」
「あれ、真嶋。おまえ弥生ちゃんのことまったく知らないだろ」
山岡の言葉に、オレはちょっとカチンときた。
そういう「え~、知らないの?」みたいな言い方がムカつく。
「知らねえよ、他のクラスの顔と名前なんか。まだ自分のクラスメイトすら把握してないんだから」
「2年にもなって、それはそれで問題アリだな」
いまさらだが、オレは高校2年生だ。
あまり他に関心がないため、仲のいい友人というものは皆無といっていい。
唯一、話せる相手が幼馴染の山岡だけなのだ。
まあ、友人がコイツだけというのも、なんだかなあという感じだが。
「弥生ちゃんはなあ、名前こそ可愛いが、男だよ」
その言葉に、オレは固まった。
オレの聞き間違いか?
男だよ?
名前こそ可愛いが……
オトコダヨ?
「………な、なあ山岡、悪いがもう一度言ってくれないか?」
「だーからぁ、弥生ちゃんはぁ、それはかわいいかわいい男の娘」
………。
ぶほおおおぉぉぉ!?
そうか、そういうことなのか!?
これはまさに山岡の大好物なパターンなのか!?
「如月くんは、その、なんだ。あっち系なのか?」
「そう、こっち系」
その手の甲を口に当てる仕草をやめろ。
「モデルで超イケメンの如月くんが、まさかこっち系だなんて……。ああ、オレこの高校入ってよかった!」
「あ、ああ、ほんと、よかったな」
そんなんで喜べるなんて。
「実際、その場面は見てないんだけどさ、もう、告白のシーンを想像しただけでご飯3杯はイケるッス!」
「ご飯の前によだれをふけ、よだれを」
「うッス!」
「で、肝心の答えを聞いてないんだが」
「答え?」
「弥生ちゃん……いや、弥生くんはOKしたのか? その、如月くんの告白に」
「ああ、お友達でいましょう、だって!」
弥生くん、仏だな。
会ったことないけど、なんとなくこっちは好きになれそうだよ。
「まあ、それが噂になって、今じゃ二人仲良くべったりなんだけどな」
「べったり?」
「友達同士はこうするんだぞ、って如月くんと手をつないで歩いたりしてる」
「………」
それ、もう友達じゃないだろ。
「いいなあ、如月くんと弥生ちゃんみたいな友人関係。真嶋、オレたちも手つないで帰ろうぜ!」
「なんでそうなる!」
「いいじゃんかよぉ。オレたち幼馴染だろ、親友だろ」
「親友は手なんかつながん! ええい、離れろ! ひっつくな!」
「恋人だろぉ」
「誰が恋人だ!」
オレは半ばキレ気味に教室を抜け出した。
そのあとを、楽しそうに山岡が追いかけてくる。
ほんとにこいつはもう……。
まあ、悪いヤツではないんだが、オレは声を大にしてまわりにこう言いたい。
「オレの親友が、腐男子で困ってるんだが!」
と。