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29.モデル

「あれ~?もしかしてビンゴ?」

「な、何がですか?」

 佐々木は、動揺なんてしてませんよという風に、ニッコリと一ツ橋さんの前に真っ直ぐに立った。

 一ツ橋さんも、佐々木の堂々とした態度に自分の居住まいを正して向かい合う。

「あなた達、男でしょう。」

 俺達に向かって真っ直ぐに腕を伸ばして、ピシっと指を指す。

 まるで、名探偵の子供のように、片方の口角だけをあげて、目を細め、反対の手を眼鏡に充てている。

「何を根拠に?」

「骨よ。冬なら誤魔化せたかもだけど、あなた達の上腕骨の骨がゴツ過ぎるのよ。あと、足もね。黒い二―ハイ履いているから、パッと見ても腕程は目立たないけど、やっぱりゴツいわよ。喉仏も、そのボブのウィッグで目線を隠しているつもりでしょうけど、斜め向かいに立ったら、少し喉に影がみえるわよ。女装は、八十点。残念ねぇ、私じゃなかったら百点満点だったのに。」

 先に攻撃から立ち直ったのは、やはり佐々木だった。見た目は小さくて弱々しい、小心者の正直者だと思っていたが、俺が思っていたよりも随分とガッツがあるのだろう。

「僕達を脅すんですか?」

「そんな気持ちは無いけれど、あなた達がこの学校に来た理由にもよるかなぁ。だって、女子高に侵入して制服を盗んだり、隠しカメラを仕掛けたり、どれだけ学校が防犯に努めても、犯罪者って結構多いんだよね。」

「僕達は、そんな理由でこの学校に来たんじゃありません!」

 佐々木は、そんな犯罪者と一緒にされるなんて心外だと声をあげる。

 先ほどのロリボイスでは無くて、地声に戻っている。

「僕達は、どうしても会ってちゃんと話さないといけない人がいて、でも会う事ができなくて、ここに来たんです!」

 興奮しているのだろう、佐々木の声は所々上ずっている。

 俺は、震える佐々木の肩を持って、一ツ橋さんを真っ直ぐに見つける。

「確かに、俺達は不審者に見えると思います。でも、俺達は、どうしても会いたい人がいるんです。正しい方法じゃないけれど、今できる最善の方法だと思って、こんな見っとも無い格好をして、この学校に乗りこんできました。貴方が、今から俺達を警備に突き出すのなら、それも仕方がありません。傍目には、ただの変態ですもんね。でも、この佐々木は無関係なんです。困っている俺に付き添って来てくれただけなんで、こいつだけは許して下さい。」

 佐々木は、ビックリしたように俺の顔を見る。俺は、佐々木の頭を撫でる。

「お前は悪く無いよ、ごめんな、付き合わせて。」

「タカナシ…!」

 一ツ橋さんは、困ったように俺達を見ている。

 さて、警備に突き出されて説教ですめばいいが、警察にでも突き出されたら、どうしよう…。

 この年で犯罪者かぁ。

「うーん、どうしてそうなるのかなぁ?別に、突き出すなんて言って無いじゃない。私は、吹奏楽部が終わるまでの間、女装男子のクロッキーを描かせてもらえればいいのよ。安いもんでしょ♪」

「そ、それでいいんですか?」

「いいわよ、だって私が何か被害にあった訳でも無し、面倒じゃない?ねえ、それよりもさ、早速そこに座ってポージングして欲しいんだけど。」

 一ツ橋さんは、随分とあっけらかんと言うと、俺達の腕を掴んで、教室の後ろに寄せてあった台座の上に無理やり座らせた。

「あ、あの。ありがとうございます!」

 佐々木は、安心したのか満面の笑みを浮かべて一ツ橋さんにお礼を言う。

 自分の体を好きにベタベタ触られた上に、不自然な格好をしいられているというのに、凄い事だ。

 俺も、釈然としないものの、犯罪者を免れた安心感で、一ツ橋さんのいうがままの姿勢をとった。

「いいねぇ、お姉様とその妹って図じゃない?それなのに、実は二人とも男なんて、面白い題材だわっ!」

 佐々木は、俺の膝の上に頭を乗せて膝枕をして、両手を俺に向かって突き出すようにして横たわる。俺は、正座を崩すように座って、下を向いて佐々木の顔に右手を充てて、左手は、上げている佐々木の右手を持っている。

「しばらく、その体勢でいてね。あとで、窓際に立っている所をそれぞれ描かせてね。」

 一ツ橋さんは、興奮したようにスケッチブックを鉛筆を走らせている。

「なあ、佐々木。」

「何?タカナシ。」

「まあ、最終の難関は突破できたんだよな。」

「そうだね。絵のモデルになれば見逃してくれるみたいだし、よかったんじゃないのかな。」

 なんだかこの体勢で見つめあうと、変な気分になってくるが、とりあえずラッキーってことだよな?


 

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