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25.鬼がいない間に

  短い間に、色んな豆知識を身につけた俺は、一歩大人の階段を昇って、って、昇れるか―――!

 佐々木の涙ながらの説得も、断固拒否して、折衝の末、短いスパッツなるもので折り合いをつけることができた。

 佐々木が、あそこまで女装にこだわりがあるなんて思わなかった。

「これでいいだろう。これ以上は俺、無理だから。」

「わかった、わかった。そろそろ昼か。お前の彼女は夕方まで学校に居るんだろう?」

「うん、多分。この間も自宅に帰って来たのは四時過ぎだったから、三時位までは確実だと思う。」

「そうか、じゃあ、行く前に腹ごなししようぜ。」

「えっ!嫌、無理だから!こんな格好で食事に行く勇気無いよっ!」

「大丈夫だよ、綺麗にできているから問題無いよ。」

 佐々木は、仲間ができたと嬉しそうにしている。

 それは、お前なら、女装したままファーストフードやファミレスで食事もできるだろう。

 だが、俺は素人なんだぞっ?

 こんな格好で飯が喰えるかっ!

「俺も、お前にそこまで要求しないよ。昼時だし、俺も腹が減った。この部屋で食べようぜ。今日は、お弟子さん達用に食事が多く用意されているから、ちょっと、待ってろ。」

 最後に、部屋から出るなよと言うと、サドは階下に降りて行った。

「佐渡ヶ島君って優しいよね。」

 誰が優しいって?

 お遊びで、こんな格好にされた俺から言わせれば、昼食位出して当然ってもんだ。

「タカナシ、何してんの?勝手に佐渡ヶ島のパソコン触ったら駄目だよ!」

 佐々木が、慌てたように近づいてくる。

「煩い!ちょっと黙ってろっ!」

 俺は、サドのPCを開けると電源を入れた。省エネモードになっていたソレはすぐに立ちあがった。不用心な事に、ロックもかかっていない。俺は、写真のデータの入ってそうなフォルダを片端から開いていった。

 しかし、俺が探しているあのデータは見つからなかった。それならと、何かネタになるようなデータは無いかとPC内を荒らすが、たいしたものはなかった。俺達で見たDVDのコピーや勉強に使うようなデータしか見当たら無い。

 サドは、PCは扱わないのか。そういえば、俺達が遊びに来た時にも、PCは触っていなかった。扱うのは精々オーディオ機器位だ。

 だが、どこかにあるばずだ、俺の黒歴史…。隠しフォルダか?

「タカナシ、もう止めろよ。佐渡ヶ島君も戻ってくるよ。」

 後ろで、責めるように俺を見ていた佐々木が、再度注意をしてきた。

 確かに、サドが出て行って五分以上立っている。これ以上はマズイ。慌てて痕跡を消してPCを閉じた。

「佐々木、今のは黙ってろよ。」

「なんで、そんな事するんだよ?」

「この間、あいつが俺を撮った写真のデータを探してたんだ。ここにあるばずだろ。」

「あんなの、佐渡ヶ島君がふざけて言っただけで、本当に保存していると思ってるの?そんな事しないよ。」

 いや、あいつならする!

 佐々木、お前は騙されているんだ!

「とりあえず、見つからなかったよ。だから、佐渡ヶ島には見てたこと言わないでくれよ。」

「…わかったよ。」

 佐々木は、しぶしぶと納得してくれた。素直な性格で助かる。性的達人である事には驚いたが、俺が思っている小動物のような素直な面は元々なのだろう。

 丁度、その時に、部屋の扉がノックされた。佐々木は、佐渡ヶ島だと思ったのだろう、確認もせずに、すぐに扉を開ける。

「まっ…」

「あら、可愛らしいお客様ですね。」

 俺の制止も聞かずに、開けた扉の先には、人の良さそうな御婦人がトレーにいっぱいの食事を乗せて立っていた。


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