24.女性ってすごい
「佐々木は、その格好でよく買い物にも行ってるんだぜ。」
ベッドに横になって、俺達を静観していたサドは、出来を確認するように俺達に近づいてきた。
「へぇ、これは完璧。男には見えないわ。さすが佐々木だな。」
サドは、俺の顎を持って上を向かせて、俺の顔を覗きこむ。
爬虫類に似た冷たい眼差しで見てくるから、こっちは蛇に丸のみにされるカエルの気分だ。
「佐渡ヶ島には、中学生の時に街で買い物している時にバレてね。気付かれた事無かったから、あの時は心臓が止まるかと思ったよ。」
「こいつ、その時、下着売り場でブラ見てたんだぜ。」
「や、やめてよ、そういうの。」
佐々木は、頬を赤らめて下を向いた。仕草まで、女子のようだ。
「同じクラスの奴とソックリの顔が、挙動不審に、下着売り場をウロウロして居たからな。よくよくみたら、本人じゃないか。声かけた訳よ。」
そういう佐渡ヶ島は、なんでそういう場所に居たんだろうか?
「佐々木とは、それからの付き合いだ。家も近くだし、こいつ、家に置いておけない荷物とか俺んとこに置いているんだぜ。」
「佐渡ヶ島が、空いている部屋が多いから、荷物位かまわないって言うから…。」
「佐々木、佐渡ヶ島に何を要求されているんだ?」
「え?そんな、佐渡ヶ島君はただ親切で…。」
「おい、タカナシ、俺がそんなに悪い人間に見えるのか?」
サドは、ソファに座っている俺の上に乗るようにして顔を近づけてくる。
「心外だなぁ。俺は、わざわざ佐々木にまで頼んで、お前の念願成就のために骨を折ってやっているのに。どうして、そう裏を読むんだぁ?悪い教え子だなぁ?先生は悲しいぞ。」
サドは、そういいながら、人の悪い顔で俺の太ももを撫でまわすようにして手を中へと入れていく。
「うそ、嘘!や、やめて下さい!」
短い期間で、どうして続けて男に太ももやらを撫でまわされなくちゃならんのだっ!俺は変態じゃないぞっ!
力の限りをかけて、抵抗をするが、筋肉のあるサドの拘束は解けない。
今日から腕立て伏せを百回するっ!
「マジで、本当にごめん!や―めて!やっ!佐々木、助けてくれ―――っ!」
サドが、可笑しくて堪らないという風に、パッと手を離した。
「本気な訳無いだろう。しかし、これ、上手くいけば素人ビデオ作れそうだな。顔に線入れて、局部写さなかったら、気付かないだろうし。」
「何いってんの?馬鹿じゃないの?胸が無いんだから、気付くわっ!」
その時のビデオの主演女優は、間違いなく俺にされそうで怖い。
本気で、サドならしそうで怖いです。
「まあまあ、泣くな泣くな。せっかく佐々木がした化粧が崩れるだろ。それよりよく見てみろ?完璧じゃないか。男にはみえないぜ。大体、メイク次第でどんな顔にでもできるんだよ。男を女にだって可能さ。」
サドは、泣きそうになっている俺を再度、鏡の前に立たせた。化粧を施された俺の顔は、よくよく見れば男顔っていう感じの女子高生に見えない事もなかった。マジマジと観察しないとわからない程度に、そこにいるのは女子だった。
眉も整えられて細めになっていて、いつのまにか付け睫毛まで付いているようで、目を閉じる度に、重たげな睫毛がフサフサと上下する。色の薄い大きい口は、口紅でピンク色にテカテカ光っている。頬も血色の良いオレンジ色に色づいている。中々可愛いな。俺のタイプでは無いが、佐々木が女装にはまるのがわかる気がしないでも無い。
鏡に写る女子高生は、俺がくるりと一回転すると同じように一回転をする。その時に、スカートが少しだけめくれて、中が見えそうで見えない感じだった。胸に手をやると、布を詰めているのだろう、相坂よりもやや大きめのソレは柔らかい感触がする。
「一応、パッドで、形を整えているけど、激しく動いたら取れたりするから注意しろよ。」
「僕がつかっているヤツ、予備が無いからごめんね。」
佐々木が申し訳なさそうに自分の胸の膨らみを抑える。そういえば、佐々木の胸はこんもりと盛り上げっている。Bカップはありそうだ。
「佐々木は、胸に何つめてるの?」
「ヌーブラってあるだろ。それ付けると胸が無くてもあるように見えるんだ。」
へー。知らなくてもいい豆知識だ。
「あと、靴下と靴も、それに下着も用意してるから履きかえろよ。」
サドが、別の紙袋を手渡してきた。
中には、俺の足のサイズの黒いローファーと黒の二―ハイ、そして、女性用のパンツだった。
「佐々木、これ用意したのお前?」
「靴と靴下は、僕と同じサイズだったから僕のを持って来たよ。」
じゃあ、下着はどなたが用意したんですか?
「そのパンツは、俺からお前にプレゼントだ。」
「セクハラだ―――っ!」
「そんな事無いよ、佐渡ヶ島君は、僕にも下着をくれたことがあったよ。きっとタカナシ君の事を考えてよかれと思って用意してくれたんだよ。そんな言い方無いよ。」
「佐々木、いいんだ。タカナシの中で、俺ってきっと悪いヤツなんだよ。」
サドは、佐々木の肩に手をやると、悲しげに俯いて、空いた手を口元に充てている。
「そんなっ!佐渡ヶ島君はいい人なんだよっ!泣かないで!タカナシ君、それは誤解だよっ!」
そうですか?
誤解ですか?
佐々木の後ろで、口に手を充てて肩を震わせて涙を浮かべてこっちを見ている。あの大笑いしている男が悪人では無くてなんだというんですか?
こんな、両端に紐のついた白いレースがふんだんの、女性用下着をどうやってつければいいと?
「タカナシ君。僕も、スカートは短めだから万が一の事を考えて、トランクスをつけるよりも、こういった女性ものの下着を身に付けた方がいいと思うよ。」
「それだけは嫌だっ!」
「タカナシ、俺は悲しいぜ。」
「…タ、タカナシ君。僕も、実は、今つけているんだ。」
へっ?
佐々木は、恥ずかしそうに、そぉーと、自分のスカートをめくった。
「こ、これ、佐渡ヶ島君にもらったやつだんだけど…。」
佐々木の下着は、確かに女性ものだった。面積の小さめなレース作りのソレを、佐々木は履きこなしていた。
「なんで?無い?へっ?佐々木、お前、股の間に、イチモツが無いんだけど…。」
そんな馬鹿な。俺は今まで何度も佐々木の息子を見かけた事がある。学校のトイレやプールの着替え、映画鑑賞会。本人に似て小さめなソレは、だが、確かに男性の証としてあった。それが見当たらないんですが?
「実は、股の間に隠しているんだよ。」
佐々木が可愛く、舌を覗かせて、ついでに下も覘かせて微笑んだ。




