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21.女子高生2

 部屋に入ってきたのは、背の低い女子高生だった。相坂と同じ学校に通っているのだろう同じ制服を着ている彼女は、大きな手荷物を抱えて入ってきた。恥ずかしそうに、俺とサドを見ている。サドが、顎をしゃくると、女子高生は、ビクッと体を揺らしてから、おどおどと俺に近づいてくる。

 それにしても可愛いな。伏し目がちの目は、くりんと大きくて、黒目がちの瞳をフサフサの睫毛が彩っている。多分、化粧をしているんだろうけど、それにしても可愛い。小さな鼻の下に、ぷっくりとピンク色に色づいている唇は、小さいが肉厚でサクランボみたいだ。味見してみたくなるような唇。小さな白い顔を包むのは、少し茶色がかった毛先の不揃いなボブ。全体的に小リスや小兎みたいで、保護欲を駆りたてられる外見だ。

 俺は、近づいてくる彼女を前にして、ハッとする。

 短いスカートから出ている俺の二本の足。

 いま、俺はスカートを履いているんだった。

 こんな可愛い子の前で、俺はなんてみっともない変態な格好をしているんだ!

 おい、サド!こんな俺の前に、こんな可愛い子を出してくるんじゃない!

「タカナシ、何見とれてるんだ?佐々木だぜ。」

 サドが、笑いを噛み殺すように言った。

「へっ?」

 俺の前で佇む女子高生が、ニッコリと頬を赤らめた。

「タカナシ、僕だよ、佐々木だ。」




 友人の隠し事を知るのは気分の良いもんじゃない。笑い話にできるもんだったらいいが、笑うに笑えないものや、知って後悔するもの、知る前と知った後での対応に困ってしまうもの等。とりあえず、事無かれ主義の俺としては、友人が隠している事があるならば、それにはなるべく触れないようにしてきた、つもりだ。

 そんな俺が何でこんな状況に。

 目の前で恥ずかしそうにして、俺に化粧を施している佐々木を見る。言われてよくよく見れば、確かに同級生の佐々木だった。化粧をして可愛くなっているが、俺と同じクラスで高校生になってからできた友人の、15歳の男子高校生の佐々木希望だった。

 ソファに座る俺の前に、佐々木が椅子を持ってきて座って、大きな手荷物の中から、意味のわからない細々としたものを出しては、俺の顔に塗りつけていく。何か手順があるんだろう、迷いの無い手つきで、雑多にあるものからものを取り出しては、ちょいちょいと俺に付けては、すぐに別のものをつけていく。ああ。これはあれだ、化粧をしている姉貴と同じだ。佐々木は、サドの言う通り、化粧の専門家のようだ。

「佐々木、」

「…何?」

「佐々木って、その、実は女とか?」

「ブッ!」佐々木が肩を震わせて笑い出す。あぶね、手に持ったペンが勢いで俺の目に刺さりそうになった。

「こわっ!」

「ふっ、ごめんごめん!だって、タカナシが悪いんだよ、ペンシル持っているのに、そんな質問するんだから。」

 佐々木は、まだ笑いが止まらないのだろう。手にもっていたペンを机に置くと、しばらく笑い続けていた。

「まさか、そんな想像をするなんて思わなくてさ。男子高校生に混じって男装している女子とか、はっ、さすが、ゲームばっかりしてるから。」

「な、関係無いだろう、そんなの。」

「ごめん、ごめん。タカナシなら、すぐにわかると思ったんだけど、最近よく聞かない?女装だよ、女装。ただの男が女性の格好をするってヤツ。」

「それって、あの病気のヤツ?なんていったけ…」

「ああ、性が違うとか、そういうんじゃない。僕は、ただ、純然と、女性の格好をしている自分に興奮するだけだよ。」

 佐々木は、胸を張って瞳を煌めかせて、俺にカミングアウトした。

 純然たる女装だと。


 友人の隠し事を知った時、どういった態度をとればいいのかいつも悩む。佐々木が、俺の思っていたお子様ではなくて、高度な性意識を持った達人であったと知った俺は、これから佐々木とどう付き合っていけばいいのか、マジで悩むんですが…。



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