20.女子高生
「女子高生になる?!」
「そうだ、残された手段はソレしかない。」
「いやいや、もっとあるでしょ。」
俺は、あの後、相坂に連絡を取ろうとするが、携帯もメールも繋がらなかった。相変わらず着拒になっているようだ。
もしかして、相坂の中で俺はもう、過去の人になっているのかもしれない。
そう思うと、いても立ってもいられずに、どうにかできないかと、再度、サドに相談に来たのだ。
で、なんでこうなるんだ?
「嫌、無い!よく考えろ童貞君。お前の彼女が通っているのはお嬢様学校だぞ。男子高校生が、正門前で出待ちしていたら、すぐに警備員や教師が来て事情聴取されて、運が悪ければ親に連絡がいくぞ。それに、彼女さんからまた逃げられる可能性も高い。」
た、確かに。今更、自宅訪問は恐怖心が強くてできないし…。
「だ、だからって、女子高生の格好をしていくとか無理だろっ?制服はどうするんだ?大体、すぐにバレる!俺の人生終わるじゃないか!!」
「問題は無い。そこの制服なら俺が用意できる。卒業生と知り合いなんだ。実は、すでに借りてきている。それに、お前なら、多少の化粧をすれば女に見えん事も無い。」
サドは、隠し持っていた紙袋を俺に押し付けた。中を覗くと、見憶えのある制服が入っている。
何時の間に??
「いや、これは無理でしょっ!」
「これは決定事項だ。お前は、俺に全権を委ねたんだ。黙って、俺の言う事を聞いておけばいい。」
「イヤだーっ!!」
有無を言わせず、サドは俺の身ぐるみを剥がすと、窓を開けて、俺の服を投げ捨てやがった。手早すぎる!
「俺の服がぁぁ!なにするんだ!」
「お前、裸で服を拾いにいくのか?今日は、丁度踊りのお弟子さん達が来ているから、見てもらうのもいいな。きっと、喜んでくれるぜ。」
サドは、うすら笑いを浮かべて、窓の下を指さす。
俺は、窓の下を覗きこんだ。確か、この部屋の下は、教室になっている。言う通りに、庭に服を取りに行きたいが、パンツ一枚の格好を不特定多数の人に見られるなんて。それに、お弟子さんの多くが御年配の方々だ。万が一、俺の息子の貞操まで危なくなるかもしれない。
「っていうか、お前…。それは無いんじゃないのか?」
サドは、呆れたように俺の唯一の衣類を指す。
「高一が、キャラパンはどうよ?もしもの時に、そのパンツを見て彼女の気分が盛り下がったら駄目だろ?」
「これはたまたまっ!」俺は、慌てて青色の国民的アイドルのキャラが描かれたパンツを両手で隠した。
「今日は、たまたま親の買ってきたパンツ履いてるだけだっ!俺だって、そういう時には、とっておきのパンツを履くっ!」
この間の相坂との時には、お気に入りのパンツを仕込んでいたんだ。日の目をみなかったが…。その上、相坂の自宅訪問の際には、再チャレンジした俺のお気に入りのパンツは、相坂兄に見られるという体たらくであったが。
「バーカ、いつそういう状況になるかわからないんだから、いつでもOKな下着を履いてないと意味無いだろ?見せられないような下着を履くなんて、親の用意した白ブリーフを履いている小学生と一緒だ。」
随分と酷い事を言う。未だに、下着を親に買ってきてもらっている俺の立場はどうなる?
白ブリーフを履いて来なくて、マジで良かった。
「う、うるさい!わかったから!次から気を付けるからもう言うなっ!わかったよ!制服を着ればいいんだな!」
俺は、もうサドに歯向かう力も無く、言われたままに制服を着る羽目になった。驚く事に、サイズもぴったりで、成長期に入ったばっかりの俺には、やや大きめの制服なら問題無く着る事ができた。
しかし…。
「足がスースーする。」
「まあ、そうだろうな。」
スカートがかなり短めなため、随分と股間が心もとない感じがする。急所を出して歩いているみたいで、心細くなって、自然と内股になる。それに、短いスカートから出ている足は、やっぱり男子高校生の足で、毛深くて、下半身だけ見ると気持ち悪くなる。
「ほら、やっぱり無理だろ?もうやめようぜ。別の手を考えよう。」
「確かに、思ってたよりもお前の足は毛深いようだ。なら…、」
サドは、一旦部屋を出るとすぐに戻ってきた。そして、その手には、男子のマストアイテム、カミソリがあった。
「え…。お前、それ、何するつもり?」
「何って、カミソリなんだから、毛を剃るつもりだよ。」
「わーー!マジ、嘘、嘘だよね?毛を剃ったらしばらく生えないんだよ?体育とかどうするの?人がみたら変に思うだろ?」
「夏休みが終わるまでには、毛も伸びるから大丈夫♪それより動くなよ、危ないだろ。それとも、お前の大事な所を切ってやってもいいだぜ。その方が、女子に化けやすいだろ?」
ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃーーーー!
「まあ、こんなもんかな。」
「…終わったの?」
何時の間にか、サドの着せ替え人形も終わっていたようだ。色々とショックな事が立て続けに起こって、気付けば随分と時間が立っていた。
「ああ、鏡見てみろよ。」
サドは、クローゼットを開けて、内側に付いている鏡を向けてきた。
「!!」
そこには立っていた俺は、顔から下だけなら完璧に女子高生だった。
近郊では、清楚でレトロなのがまた良いと評価の高い制服は、ツーピースのセーラーだ。スカートは、丈の短い濃紺の大きめのプリーツ。上は、夏用の白い襟のセーラーに胸元に赤い大きなリボンが着いている。濃紺のラインが一本ずつ襟と袖に入っている。知らなかったがこのリボンって、簡単に着脱ができるようにクリップが付いてあるんだ。毎回リボンを結んでいる訳じゃなかったのか。ちょっと、男の夢が崩れてしまった。
「これ…。俺?」
「そう、なかなかいけるだろ。お前、手足に筋肉付いてないし、まだ成長期に入ったばっかりで育って無いから充分にいけるよ。後ろ姿だけなら、俺も声掛けるかもね。」
そういいながら、サドは鏡の前で俺をくるりと一回転させて、後ろ姿を見せた。顔だけ後ろを向いて鏡を確認するが、なるほど、サドの言う通り。
後ろだけみれば充分に声をかけたいレベルだ。身長も160センチちょいだからか、そんなに違和感が無い。下半身は、白くて細い足が、にょきと生えていて、半そでからみえる腕にも毛は残っていない。袖を引っ張って中を覗くと、なんと脇の毛まで無くなっている。
「何時の間に、脇まで剃ったんだ…。」
「お前、大人しく腕を上げていたじゃないか?覚えてないのか?」
覚えていない。トランクスの上から、カミソリを充てられた衝撃で、その後の記憶があやふやなんです。
「だ、だけど、やっぱり顔を見られたらバレるよ。やっぱり無理だって…。」
「顔も、化粧でなんとでもなる。」
「え、佐渡ヶ島って化粧までできるの?」
「いや、流石にソレはできない。だから、この道の専門家を呼んでやった、感謝しろよ。」
サドは、そういうと携帯で誰かに電話した。
すると、そんなに時間を待たずに部屋の扉がノックされて、ゆっくりと開いていく。




