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2.俺の思い、彼女の思い

2・彼と彼女の違い


 俺の彼女は可愛い。真面目で一生懸命。高校進学と同時に、眼鏡からコンタクトレンズに変えて、髪も少しだけ色を加えたら、後列から中列に前進する位に。

 だけど、俺と彼女の間には、男と女の間に流れる深く切り立った溝がある。それが、周辺の男女よりも溝が深いというか、周辺の男女間の溝が日本海溝だとすると、俺と彼女は地球のマントルまで深いと思う。

 ようは、彼女は、真面目なんだ。


「ほー、そういう惚気を俺の前でするお前との間に、マリアナ海溝が横たわっているようだが。水圧で潰されてしまうがいい。」

 イインチョーこと、岡田慶司おかだ けいじは、自慢の眼鏡を中指で押し上げて、不愉快極まり無いという風に、酷い事を言う。

 岡田は、中高が同じクラスメイトだ。真面目が服を着て歩いているという見本みたいな地味な外見だが、高校に入ってから、上だけ縁なしのお洒落眼鏡に変えたり、短めの黒髪をてっぺんだけをツンツンにするなど、本人なりに洒落っ気を出して頑張っている。

 しかし、その真面目な性格からか、くどくどと説教臭かったり、予習復習も欠かさない、制服も着崩さない態度をみて、クラスメイトからは、名前では無く、その肩書が呼び名となっている。

「いやいや、イインチョー。確かに、惚気に聞こえるかもしれないけどさ、こっちは切実なんだよぉ、悩みに乗ってくれよ。男子高校生の悩みっていうのは、彼女居ない歴イコール年齢のイインチョーにも分かってもらえると思うからさー。」

 なるべく、自分の思いを伝えようと、悩ましげに手を頬に当ててため息をつく。

 だが、俺のため息は、イインチョーの眉間の皺を深くするしか効能が無かった。

「ほほう。…今貸したノート、利子を付けて返してもらおう。」

 イインチョーの声変わりを済ませた低音ボイスが、更に低くなる。先ほど手渡してくれたノートを、俺の手から取り上げようとする。

 いやいや御冗談を。イインチョーのノートは、ただ黒板を写しただけでなく、自分が理解しやすいようにと、色々追記されたテスト攻略にお勧めの一品だ。これを鼻先にぶら下げた同級生なら、三遍回ってワンと鳴いた上に、お手までする代物だ。はいそうですかと返却できるものではない。

 大体、こっちは新作のソフト(もちろん攻略済)を貸す約束になっているのだ。

 イインチョーの魔の手から、果敢にノートを救出するべく攻防を繰り広げる事、数分。最後は、話し合いの末に無事にノートを取り戻すことができた。謝礼であるソフトにプラスして俺の自作攻略ノートを無料で貸すという破格待遇だ。全く感謝して欲しいよ。

 二国間の国交も回復したので、台所からかっぱらってきた姉貴の2リットルものダイエットコーラで祝杯をあげる。

「では、仕方が無いから相談に乗ってやろう。」

 どこまでも上から目線のイインチョー。彼女もいない癖に生意気な。

「ははーあ、お願いします!では、イインチョー様は、ヤったことありますか?」

「はっ?」

 あれ?

 声が遠かったかな?

「いやだから、彼女がさせてくれないんですよ。その、まだ高校生でそういった子供を作る行為をしてはいけないって言うんです。」

 男二人の狭苦しい暑苦しい空間が、いきなりの隙間風がピュルルーと吹いてきた。

 あれ、今、停止ボタン押した?

「えー、とぉ。お前らって付き合ってどの位なの?」

 停止していたイインチョーの時間が戻ったようだ。イインチョーらしからぬ、歯切れの悪さで質問が返ってくる。神経質そうに何度も眼鏡をなおしている。

「この間の失業式からだから、4ヶ月ちょいかな。」

「で、それはどういった状況で言われたの?」

「先週、キスもしたし、それ以上の行為もOKかなと思って、彼女の家に遊びに行った時に、それとなくそういう方向に持っていこうかなとしたら、彼女に言われました。」

 その時、彼女は申し訳なさそうに、俺の顔を見上げてごめんねと言われてしまい、なんだか俺のほうが申し訳無い気持ちになって、慌てて話題を変えてしまったのだ。

 というか、断られるとは思わず、息子が起立していて、あまつさえ彼女の申し訳なさそうな顔を見て、発射準備に入ってしまい、慌ててトイレを借りるしかなかったのだが。

「まだ早いって言う訳じゃなくて、卒業するまでは駄目って事は、お前、彼女とはこのままヤれないという事になるな。」

 固まっていたイインチョーの顔に、じんわりと、ゆっくりと、実に厭らしい笑みが広がっていく。

「そんな事はわかってるよ。だから、どうしたら彼女をその気にできるかを…。」

「ふ、ふ、ふ、まあ、まあ、焦るな焦るな。お互い15、6歳の子供なんだから、時間が解決してくれるさ。彼女の気持ちも変わってくるだろうし。まあ、それがお前と付き合っている間かはわからんが、気にするな。同士!」

 ドンドンと俺の肩を勢いよく叩いてくるイインチョーの顔には、ザマーミローとデカデカと書かれていた。

「大体、ゲームばっかりのインドアなお前に彼女ができただけでもラッキーなんだよ。お前には、二次元でラスボスを攻略するほうが合っていると思うね。」

 旨そうに、コーラをぐびぐびと一気のみしたイインチョーは、自分で更にコーラを継ぐと、貸したソフトでゲームを始めた。

 俺の攻略ノートを参考に、まずは、一番落としやすいキャラを選んだようだ。

「いやー、どんどん愚痴なら聞いてやるよ。しかし、ゲームの達人タカナシ様にも、攻略できないもんなんだね、三次元というものは。ハーッハッハッハッハッハッ。」

 バッドエンドキャラでもお勧めしとけばよかった。


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