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17.彼女の気持ち

  好き?

  

 SUKI?

 

 えっと、LIKEの事でしょうか?

 俺の前にある相坂の顔がだんだんと歪んでくる。子供が泣きだす寸前のような、顔全体で泣きだすようそんな感じだ。

「やっぱり、私の事、好きじゃないんでしょっ!」

「そ、そんな」

 そんな事、無い…?

 俺、相坂の事、好きじゃないのか?

「違うよ、そんな、どうも思って無い子に、俺は優しくしないし、勿論、学校が別れてからも、付き合ったりしないよ!」

「じゃあ、どうして?どうして、付き合っているのに、一度も好きって、言ってくれないの?」

「え、そんな、そんな恥ずかしい事言えないよ…。」

 好きなんて、そんな事を、恥ずかしすぎて言えない。

「…タカナシ君。覚えてる?」

 前のめりに俺に顔を近づけていた相坂が、下を向く。床に付いている手が震えている。その間に、液体がポツポツと落ちている。

 え、俺が泣かしたの?

「な、何の事?」

「私が告白した時の事。」

「覚えているよ。」

 忘れるものか。人生初めての告白だ。待たされた校舎の裏の風が強くて寒かった事。

 相坂が涙を浮かべて、まっすぐに俺を見た。

「あれ、本当は、悪戯だったんだよ。」


「……。」


「私、中学の時に、苛められてたの、気付いてたでしょ。…私の気持ちを知ったあの子達が、勝手に、あそこにタカナシ君を呼び出したの。」

 相坂は、過去を思い出しているのか、辛そうに声を出している。

「振られて、笑われて、それで私の恋は終わりだと思ってた。でも、違った。タカナシ君がオーケーしてくれて、ビックリした。だって、暗くて地味な私がよ?ねえ、タカナシ君、どうしてあの時に告白を受けてくれたの?私が好きだった?」

 相坂が、泣き笑いのような表情で俺を見る。無理やり笑みを浮かべたせいで、涙が零れ落ちる。不覚にも、この瞬間の相坂が、一番きれいに見えた。

「知ってたよ。」

「え?」

「あの告白が悪戯って、気付いてた。」


「な、ならどうして!」

 相坂の背後に、校舎の影に隠れて数人の女子がいた。日頃から評判の良く無い彼女達は、不似合いな化粧をして授業態度も良くなかった。なのに、間逆の相坂がいつも一緒にいた。肩を小さく落として俯きがち歩いていく。その背中には、一緒になんていたくないのにと書かれていた。

 彼女達の仕掛けた悪戯だと気付いてた。

「それでも良かったんだ。あいつら、俺が相坂を振るって思ってたんだろう。でも、俺、相坂に告白されて嬉しかったんだ。だから、オッケーしたし、その後も付き合ったんじゃないか。」

「それって…、私の事が好きってこと?」

「よくわからないだ。でも、保健委員を真面目にしている相坂のこと、気になってたよ。苛めも、本当は、あいつらから助けてあげたかった。勇気が無くて、何もできないままだったけど。」

「助けてくれてたよ。教科書隠されてたのを見つけてくれたのもタカナシ君じゃない。保健室に閉じ込められてたのを、開けてくれたのもタカナシ君。タカナシ君は、優しい。」

 そんな事しただろうか?俺にとって些細な事が、相坂には嬉しかったんだろうか?

「タカナシ君は、優しくて、……酷い人。」

「え?」

「私の事、好きでも無いのに付き合ってくれる位に優しい人。それって、酷いよ…。もう帰って。もう、会いたくないから。」

 相坂の顔は、泣き顔からまた笑顔になった。ぎこちない笑顔から、次々に涙がこぼれ落ちていく。

 俺が、相坂を泣かしているのか?

「そ、そんな事無いよ。」

 相坂の笑顔が消えた。今度は、きつく俺を睨みつける。

「帰ってよっ!……今まで、ありがとう…。でも、もう…無理だ。どれだけ努力しても、タカナシ君は私を好きになってくれない。…惨めになるだけ…。帰ってっ!」



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