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15.変態兄貴現る

 昔、TVの懐かしのアニメ特集とかで、顔の前を腕が交差すると、表情がガラリと変わって、仏のような顔から鬼のような形相になる正義の味方がいて、未だにそのシーンが忘れられない。今、目の前にその正義の味方ならぬ、相坂兄が居るんですが。

 相坂兄は、地を這うような、地底からの呻き声を出しながら、ゆっくりと顔を覆っていた手を外してこっちを睨んでいる。先ほどまであったスマイルマークの、弧を描いた目と口元は、憤怒の表情に変わっている。


 怖い。


 生まれて初めて、おしっこちびりそうになる程の恐怖というものを感じています。

 俺と相坂兄との間は、わずか3歩程しか離れていない。相坂兄が掴みかかってきたら、逃げる余地なんて無い。やっぱり、さっき逃げてればよかった。

「質問に答えろよ、糞ガキ!葵とお前は、どこまで進んでいるんだ?ああ?事と次第によっては、無事に家に帰れるとは思うなよっ!」

 いったい、どこのチンピラですか?という恐喝にも似た質問に、俺はガタガタと震えて、おしっこを我慢するしかなかった。

「どこって?何ですか?」

 ここは、シラを切るしかない。正直にAを済ませて、先日、Bをしようとして失敗しましたなんていったら殺されそうだ。

「何とぼけたこといってんだぁ?わかってるんだろう?葵に手を出してんじゃないかと言っているんだ!」

 相坂兄は、いきなり立ち上がると俺の襟元を掴んで持ち上げてくる。覚悟していたものの、その素早さに避ける事もできなかった。ああ、やっぱり少し位運動しておけばよかった。さっきも佳音に逃げられるし、俺ってマジで運痴だ。

 襟元が引っ張られて息が苦しい。相手の背が高いもんだから、俺はつま先立ちでもやっとという状態で苦しくなる。

「ちょ、苦しい…、お兄さん、止めて下さ…、」

「黙れ!お前なんかにお兄さんと言われる筋合いは無い!」

 相坂兄は、段々と興奮が増してきて、俺の言葉も耳に入って無いようだ。口泡を飛ばしながら、更に俺を持ち上げる。襟元のボタンが、一つ二つ音を立てて外れる。そんな事も気にも留めず、相坂兄は恫喝を続ける。

「ああ?お前の下半身に直接聞いてやってもいいだぜ?正直に答えろ!俺の可愛い可愛い葵に、お前の粗末なイチモツをどうこうしたのか聞いているんだ!」

「酷い!粗末じゃないです!」

「煩い!ガキのイチモツの癖しやがってっ!大体な、葵は、お前のようなそこら辺のつまらない高校生が付き合うには勿体無い子だ!昔から、素直で優しくて可愛い俺の妹なんだ!お前のようなつまらない坊主に獲られる位なら、俺が…俺が…。…とりあえず、もう二度と俺の葵に近づくんじゃないぞっ!」

 相坂の名前を呼ぶ度に、目前にある相坂兄の目が恍惚に浸っている。一見マトモそうに見えたが、こいつの内面はサド以上に腐ってやがる。絶対に重度のシスコンっていうか、もうこれは変態兄貴じゃないか!エロゲーか!相坂は、こんなヤツと一つ屋根の下で暮らしていたのか?

「い、嫌です!」

 なんだが、もう目が正気じゃないっていうか、殺意、というよりも嫉妬の炎がメラメラと燃えていて、今にもぶん殴られてボコボコにした上で、刺されるような気がするぞ。

 でも、絶対に、こんな変態ヤローに屈したくなかった。

 すでに、呼吸が満足にできず、つま先は宙に浮いている。まさに、捕えられた小動物のような状態。俺はこのまま、変態シスコンヤローに殺されるんだ。俺の人生もここまでか。思い返せば短い人生だったナ。まだ16歳になったばっかりだと言うのに、未使用のまま我が息子とあの世に行くのか?

 せいぜい、天使様と初のランデブーができるようにお願いしてみよう。いや、いっその事、次に生まれ変わる時は、ジャニーズ真っ青のイケメンにしてもらおう!神様も、鬼じゃないだろうし、きっと未使用の俺に憐れみをかけてくれるハズだ!

 さようなら、我が人生!


 相坂兄は、段々と力が抜けてきた俺に、冷徹なスマイルマークをみせた。

「生意気な糞ガキだ。…いいことを思いついた。二度と妹に会えないような事をしてやるよ。」

 相坂兄は、俺の耳元に口を近づけると、いきなり俺をソファに押し付けた。三人掛けのそれは、大人が横になっても十分な幅がありクッション性も高いようだ、勢い良く男二人が倒れ込んだのに柔らかく包み込むようにして、痛み無く押し返してくる。

 そんな優しいソファに押し倒された俺の上に、相坂兄が乗っかってくる。

 はい?

 一体、何をするつもりです?

 俺の両腕を、左手で一纏めにして押さえつけると、両足の上に体重をかけるようにしてきた相坂兄は、再度俺に耳元に口を寄せてきた。

「妹にしたことをお前にもしてやるよ。二度と女とできないようにな。」

 はあ?

 何いってるんです?

 相坂兄の脳内では、俺は相坂とエッチしていると?さっきは、否定しなかったけど、そんな!僕達はまだ健全な交際しかしてないんですよ!Bだって、失敗してるのに!

 この変態シスコンヤローの中では、きっと自分が相坂にしたかった変態行為のあれやこれやを俺がしていると思っているんだろう。ふざけるな!俺は、紳士に相坂に接しているんだ。常に相手に承諾を得てから、手順を踏んでやってるんだ!そして、初心者故に、失敗を犯し、こうやって敵地まで来て謝罪をしようとしているのに!

 俺は、猛烈な怒りが湧いてきた。それは、この変態ヤローに対してだけでは無く、俺が先日犯した愚行、サドに盗撮された俺の黒歴史、積りに積もった行き場の無い怒りも纏めてだった。

「ふざけんな!変態シスコンヤロー!俺は、お前と違って、無理強いなんてしてない!何考えてるんだよ!離せよっ!」

 あらん限りの声を上げて、手足をバタつかせて拘束を解こうとする。相坂兄も、急な猛撃に驚いたように一瞬、拘束がハズれそうになるが、慌てて力を込めて俺の動きを封じた。

「黙れ!」

 相坂兄は、手近にあった布を俺の口にねじ込むと、空いている右手で、急いで俺のベルトを外した。早くこの行為を終わらせようとしているようだ。

 口に入っている布がなんだかしょっぱい。これって、俺がさっき大量の汗を染み込ませたハンカチじゃないのか?気持ち悪い!舌を使って押し出そうとするが、更に奥まで詰められて嘔吐しそうになった。

 腰を左右に動かして、相坂兄の邪魔をしようとするものの、流石に大学生。手慣れたようにベルトを外すと、更にズボンのボタンを外していく。

 マズイ!非常にマズイ!

 このまま本当に、相坂兄にヤラれてしまったら、俺は二度と相坂に顔を見せることができない!それどころか、心に大きな傷を負った俺は、引き籠りになって、留年して、ニートになって、姉や妹から人間失格扱いを受けて、最後には両親に殺されるんだ。

 嫌だ!嫌だ!そんな人生!

 何で、俺が妹と付き合っているからって、その兄貴に犯され無いといけないんだ?

 大体、俺のバックバージンは、初任給を使って夜のお姉さん達にやってもらうって決めていたんだ!

 なんで、男なんかにされないといけないんだ!

 相坂兄は、モゴモゴ叫ぶ俺を無視して、先ほどの饒舌ぶりが嘘のように黙々と作業を進め、俺のズボンを引き下げ、その下のパンツにまで手をかける。

「うっうっううううう――――っ!」

 相坂兄は、俺のお気に入りのパンツを太ももまで下ろすと、チロリと俺の顔を見た。相坂兄の目は、すでに正気を失っているようで、俺のボタンの飛んだ襟元に手を差し込むとそのまま勢い良く引き裂くようにしてシャツを開けた。

 ああ、俺の3つしかない貴重な学生シャツが…。

 いや、その前に、これは、本当に本当に犯される?

 頭の隅では、これは冗談で、最後の最後に、相坂兄が人の悪そうな顔で笑いながら冗談だ、と言ってくれるのではないかという期待があったが、こんなにイってしまっていたら冗談では済みそうにない。

 相坂兄は、荒い息を上げながら、ゆっくりと俺の体を撫でまわす。

 ひぃぃぃぃぃぃぃ―――!

 気持ち悪過ぎて全身に鳥肌が立つ。

 フトシ君もこんな気持ちだったんだろうか?マジで悪かったよフトシ君。百二十円じゃなくて、千円払っておけばよかった…。

 そろそろと、相坂兄の手が俺の可愛い息子に触る。

 可哀想に、恐怖で小さくなって怯えているじゃないか。

 相坂兄は、鼻を鳴らして笑った。

「随分、可愛いらしいイチモツだな。なんだこれ、ウィンナーか?重たい皮に隠れてるじゃないか、可哀想に。」

 悪人よろしい笑い声を上げると、乱暴に、隠れていた俺の息子を引っ張る。

 屈辱と痛みで顔が赤くなる。声が出ていたら叫び声を上げていただろう。眉間の血管が浮き出ているのを感じる。

 確かに、俺の息子の背は低い。だが、立ちあがった時は、他の奴ら(イインチョー達)よりも僅かに数ミリ大きいんだ!それを同性に鼻で笑われるなんて!

 皮だって、日本人の多くが皮に隠れているっていう統計もあるんだぞっ!笑うんじゃない!

 鼻息荒く、目だけでもと睨みつけるが、相坂兄は、それらをガン無視すると、皮を無理やりにむいてくる。

 痛い、痛いです!俺の息子は敏感なんですから、乱暴に触らないで下さい!

 しばらく、いじくっていたが、それにも飽きたのか、今度は、相坂兄の手が俺の後ろに回る。

 おい、男の尻を触るなんて頭おかしいんじゃいか?

 え?ちょっと、どこ触っているんですか?

 そこは、間違っていますよ?

 

 止めて下さい!

 

 お願いします!

 

 ああ……!

 


 これで、俺の人生は終わりだ…。

 諦めに、目を閉じると液体がゆっくりと零れてくる。

 相坂…、ごめんよ。

 おれの貞操、せめて相坂にあげたかったよ。

 

「お兄ちゃん、タカナシ君に何してるの?」

 液体に翳んだ目の前に、扉を開いて立ちつくしている相坂と、そして何故だか佳音も居た。



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