12.失敗は成功の母です。
失敗をバネにして次に生かそうってよく言うけど、次が無い場合はどうなるんだろう?
昨日の一世一代の大チャンスを、俺は愚かにもツブしてしまった。あれから、電話や携帯をしても着拒で、連絡が一切できない。フォローのしようが無い。ああ、どうしよう!どうしたら相坂に謝れるんだっ!そうして、どうやったらあの時に戻れるんだ!いっそのこと、誰かタイムマシンを発明してくれないだろうか、30年ローンで買うから!ドラ〇もんっていつ売りに出されるんですか?
「独り言は、声に出すな。なんで、そういう相談を俺に持ちかけるんだ?サイテー童、貞、オトコ。」
ああ、サドの容赦無いカミソリさえも、今は甘んじて受けようでは無いか!愚かな童の貞!さぁっもっと俺を切り刻んでくれっ!
サドは、冷やかなな眼差しを最低ヤローに向けながら、ペットボトルを片手にして、ゆっくりとソファで寛いでいる。冷房の程良く聞いたこの部屋がサドの自室だ。一人部屋にしては広いそこは、元々祖父の書斎だったそうで、中々に立派な作りをしている。祖父が亡くなってから譲りうけたそこを、サドは時間をかけて自分好みに改造していった。部屋一杯にあった書物は、全て蔵に移して、むき出しの板の間に、大きなソファと一人用には大きなベッドを置いて、壁には薄型テレビを配置し、オーディオも完備している。これを目当てに、俺達は映画鑑賞会やゲーム大会をしに、一番遠いサドの家まで遊びに来るのである。
元々あった書き物机と椅子は、年代を感じさせる重厚な造りで、俺の家にあっても浮き上がる事必至だろう。その椅子に、遠慮無く腰掛けて、佐渡ヶ島と向かい合う。
「お願いです!佐渡ヶ島先生!先生を、男の中のオトコと見込んで相談に乗って欲しいんです!」
俺は、あの、最低で、冷血な佐渡ヶ島類に頭を下げた。サドに弱みをみせたら、俺は死ぬまでサドには逆らう事ができず、いいようにこき使われるんだろうな。それは、きっと死ぬ程の屈辱なんだろう。
しかーーーしっ!昨日の俺の失態を誰に相談できるというんだっ?
イインチョーも佐々木も児島も、俺と同じ道程男子(童貞の続く長い道のり、そこに生息する期間限定男子。時に三十路も四十路まで生息する)で、実践におけるアドバイスを求めても無意味だ!
しかして、佐渡ヶ島!黙って立っているだけで、チラホラと女子が近づいてくるという女寄せの香液でもしているんじゃないかと思うようなヤツだ。ということは、おそらくは、道程男子では無いと思われる。そして、お子様の俺とは違い、きっと有用なアドバイスも持っているはずだ!
ここは、恥を忍んで、佐渡ヶ島に弟子入りして、そのノウハウを習得、相坂の心を再度ゲットし、上手くいけば再チャレンジも夢では無い!!
俺はやるぞっ!
「人に物を頼む時に、椅子に座るってどうなのかな?僕に教えて欲しいなら、それ相応の態度で頼んでみてよ。」
とっても、感じの良い言い方で、サドは応えた。ようは、もっとサド好みに頼まないといけないということだ。俺は、椅子から素早く立ちあがって、直角90度に腰を曲げた。
「佐渡ヶ島先生!僕に恋愛のノウハウをお教え下さいっ!」
サドは、ソファから立ち上がると俺に近づいてきた。
頭を下げている俺の、髪の毛を頭皮ごと持ち上げるようにして、無理やりに顔を覗きこむようにしてくる。
「最低な童貞君を教育するには、骨が折れそうだ。その見返りにしては、頼み方が雑だなぁ。ど、げ、ざ、してみろよ。」
あの、サド君。目がマジなんですけど?
これが友人に対する態度ですか?
あまりの屈辱に手がブルブルと震えてくる。我慢だ!
ここは、我慢しろタカナシ!相坂の胸のためにも耐えるんだっ!
俺は、サドの足元に土下座すると、再度お願いする。
「佐渡ヶ島先生!ご教授宜しくお願いします!」
サドの足が、土下座している俺の頭を踏みつける。
「頭が高い。」
「はい!宜しくお願います!」
俺は、頭を床に擦りつける。耐えろ!耐えた明日には、きっと幸せが待っているハズ!
「ん~どうしようかな~。本当は、足の指を嘗めさせたい所だけど、ヤローに舐めてもらっても興奮できないから、いいや、及第点♪不肖の弟子にしてやろう!。」
「やった―!」
俺は、喜びを体で表現したいものの、一向に頭の上の足がどかないため、声だけで喜びを表現した。あの、重いんで、そろそろ退けてもらえないでしょうか?
「それで、具体的にどういう事が聞きたいんだ?」
サドは、俺の心の叫びが聞こえたのか、ようやく足を外すと、ソファに戻った。俺は、重さに耐えた頭を撫でながら、応える。
「あの、女子の胸って硬いとかってありますか?」
サドは、一瞬動きを止めて俺をみた。
「胸って、女子の?誰かの胸が硬かったの?」
はい、僕の二の腕並に硬かったのです。
サドにその時の状況を説明した。勿論、前後の話しは飛ばしてだが、とりあえず、思っていたよりも触った胸が硬かったので、思わず「硬い」と言ってしまい、相坂から殴られて、連絡が取れなくなった事を伝えた。
「馬鹿だ。」
サドは、人間椅子(俺)に座ると、吐き捨てるように言った。俺の上に居る、サドの表情まではわからないものの、おそらくは、普段のあの蔑みの表情だろう。俺は、床に踏ん張っている手足が震えてくるのをなんとか我慢して、サドにお伺いをたてる。
「どうしたらいいだろうか?謝りたいけど、連絡がとれないんだ。」
「連絡がとれなくても、相手の家や学校がわかるんなら、そこで待ってたらいつかは捕まるだろう。手紙って手段もある。それよりもお前、女子の扱い方がまるでわかって無いな。これだから、童貞は使いものにならないな。糞の価値も無い。」
サドは、わざと両足を浮かして、全体重を俺にかけるようにしてきた。一気に重くなって潰れそうになる。
「うっぐっ!さ、佐渡ヶ島!」
外見だけみたら、サドの体重は俺と変わりないようにみえる。しかし、思っていたよりも筋肉が付いているようで、俺よりも重い体重がかかると、ひ弱なゲーマーの俺には耐える事ができない。
固い板の間に、膝が押されて痛い。手足が震えてくる。
まるで、生まれたての子鹿のようにがくがくと。う、う、もう無理だ、耐えきれない。
俺は、潰れたカエルみたいにグッシャリと、力尽きてしまった。
「佐渡ヶ島―!」
「お前、フトシ君の胸の感触が、全女子の胸の感触だと思ってたろ?」
サドは、そのまま俺の上に乗ってまるで座布団のようにしている。下で苦しんでいる俺に労りの言葉も無い。
「え?それは、確かに…。」あの時の事を思いだして、俺は顔を赤くしてしまった。あの我を忘れる胸の感触は衝撃的だった。
ハッ、そうだ。ここには、あの黒歴史を納めたPCがあるはず。書物机の上に畳まれているノートPCにそうっと目をやる。多分、あそこに保存されているハズ。どうにか、チャンスを見つけて消去しなくては…。
「あの時、俺は言ったよな。脂肪の塊なら性別なんて関係ないって。二の腕に脂肪がついてないなら、同じように女子でも胸が硬いだろうし、成長期の女子の胸が、まだ平たかったり、硬かったりするのは当たり前だ。果物だって、未成熟なのは青くて硬い。かわりに熟女なら、落下前の果物のように熟れて、フトシのように柔らかいだろうさ。ちなみに、硬いのは、そこだけじゃない。俺は、未成熟な果実も好きだが、まるでバターみたいに包み込んで離さない、熟した果実もうまい。ああ、これだから童貞は、本当に糞にもならんな。糞なら、まだ地面の栄養になるが、お前たちは、勝手な願望を相手に押し付ける。リアル女子も俺たちと同じ、トイレにも行けば人の悪口もいう。風呂に入らなかったら臭くもなる。生きてるんだぜ、女の子は。」
サドは、中々真面目に俺に説明してくれる。女子への尊敬の念さえ感じる。人間を座布団にしていなかったら、もっと説得力もあるだろうがな。
しかし、俺と同じ年齢のはずなのに、お前はどれだけの女子もとい、最高齢はどこまでの女子と交際しているんだ?マジで謎なんですが?
「お、お前詳しいな。熟女なんてなんでわかるんだ?」
「フッ」サドは、さもおかしそうに笑った。
「果物は、腐る手前が一番甘いっていうぞ。」
さいですか。
サドは人間座布団から勢い良く立ちあがった。
「まあ、まずは謝れ。彼女の事を好きでこれからも付き合っていきたいなら、ちゃんとしないとな。男だろお前!それとも、股の間にぶら下がっているのは、ただの排泄のための器官なのか?」
いいえ、俺の股間にあるのは、愛と勇気の結晶を生み出す器官の、はずです。




