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11.では、実践にのぞみましょう。

 夏休みに入って、初めてのデート。今日は、相坂の希望で、CMで宣伝しているラブロマンスもののハリウッド映画を観に行く事になった。相坂の最寄り駅の近くに、大きめのモールがある。その中に大型映画館が入っているので、昼前に駅で待ち合わせをすることにした。


 待ち合わせ時間よりも5分程早く行くと、改札口の前にはすでに相坂の姿があった。

「タカナシ君。」

「相坂、早かったね。」

「タカナシ君こそ。私、近いから早くに着いたんだ。」

 相坂は、嬉しそうに笑っている。

 可愛いな。今日の相坂も可愛い。ピンクの花柄のキャミの上に、七丈袖のカーディガンを着ている。デニムパンツが、中々短い。足はこの間履いてあった編み上げのサンダルだった。それに、大きめのカゴ型のバックと紺色に白い水玉の日傘を持っていた。

 白い足が目に眩しすぎる。

「暑かったんじゃない?」

「ううん、構内は、日陰だから大丈夫。」

 そういいながら、相坂の額には僅かに汗が光っていた。

「うーん、まだ時間に余裕もあるし、どっか入ろうか?」

「あ、なら、モールの中にあるトコに入ろう。入ってみたかったお店があるんだ。」

「いいよ。」

 相坂が、楽しそうに提案してくる。

 その顔を見るとなんでも叶えたくなるな。あー、恋愛ってこんなにも楽しいもんだったんだ。今までやった、恋愛シュミレーションゲームが彼方へと遠のく。あれって、全然シュミレーションになってなかった…。

 二人で、モール直通の周回バスに乗ると、五分程揺られて目的地へ着く。少し郊外に建つソレは、数年前にできたばかりで、まだあちこちピカピカと新しい。駐車場も広くとられていて、週末には遠方からも家族連れが多く来て、車が渋滞している。平日の夕方とかは、逆に若者の方が多い。近場に遊技場とかが碌に無い、地方都市のそのまた離れた街ならではだ。夜10時を過ぎると、若者達さえ、自宅へとちりじりに帰っていく。

 若者の非行化や低年齢化が進むとか言うけど、それって都市部の現象なんだと思う。TVが面白可笑しく騒いでいるだけ、と俺は思う。

 モールの中に入ると、フードショップが並ぶ区域に向かった。相坂の入ってみたかったお店はすぐにわかった。丁度、昼時だからだろう、店外に並んでいる椅子には、ずらりと人が並んでいる。

「ああ、多いね。」

「うーん、相坂、よかったら先にチケット買っておこうよ。戻ってきたら丁度いいかもよ。」

「そうだね。」

 落ち込み顔の相坂だったが、その提案に、顔を明るくした。こういう素直な所がいいな。

 映画のチケットを購入して戻ってくると、表に並んでいた人ごみもいなくなっていた。

 相坂の入ってみたかったというお店は、どちらかと言うと女性好みのメニューが並ぶ、お洒落なインテリアのお店だった。一人では絶対に入らないなと言う感じ。メニューも、なんだかよくわからないがヘルシー&ビューティーと銘打っている。隣のテーブルに運ばれた料理を見ると、俺達男子高校生は、選ばないようなプレートに小さく料理がいくつか盛り付けされている。お洒落だが、腹は満たされ無い感じだ。

 相坂って、こういうのが好きなのか。覚えておこう。

 相坂は、目の前に運ばれたヘルシーというか野菜の盛り合わせ(?)のプレートをみて、顔を輝かせている。そんな野菜の何がいいのかがよくわからない。

 俺の前には、大きい器の割に、中身の無い少量のカレーが運ばれてきた。数日に渡って煮込んだ特製ルーと書いてあったが、肉もじゃがいもも入って無かった。

 相坂は、美味しそうに小さくもしゃもしゃと野菜を食べている。その姿は、まるで兎が食事しているみたいだ。そういえば、小学校の頃、裏庭で飼われていた兎に、昼休みによく草を上げてたな。

 兎が小さく口元と、手を動かして食事をするのを、ただじーと眺めるのが好きだった。

 可愛いな。うさぎ。

 相坂は、擬人化する前は、きっと兎だったんだ。子兎だな。

 どうせ擬人化するなら、頭の上には長い耳残したままが良かったな。

 片耳は半分折れ曲がっていて、歩く度に、耳がパタパタする。

 そして、夜は俺がプレイボーイになって、相坂を…。

「タカナシ君食べないの?」

「あ、うん。」

 ヘルシーカレーから湯気がみえなくなっていた。

 相坂は、不思議そうにしていたが、俺が食べ出すのを見て、もしゃもしゃと食事を再開した。

 俺が食べ終わっても、プレートの上にはまだ三分の一位残っていた。

 相坂は、俺が食べ終わったのをみて、頑張って手を動かしだした。

「ゆっくりでいいよ。デザートに何か甘い物も頼む?」

「ううん、いい、もうお腹いっぱい。」

「そう、時間もまだあるし、のんびり食べよう。」

 相坂は、小さく頷く、先程よりもゆっくりと兎の食事を再開した。

 俺は、食事をしている相坂をのんびり見てるから。

 あー、屈んでいるから、キャミから少しブラが見えてる。

 鼻血出そうだ。俺のプレイボーイがおっきするよ。


 映画はまあまあだった。というか、あんまり観て無かった。隣に座る相坂の方をチラリチラリと観ていたら、いつの間にか終わっていた。

 クライマックスで、椅子の手すりの上にあった相坂の手に俺の手を充ててみた。一瞬、ビクッと大きく体が跳ねたけど、手を振り払われる事も無く、エンディングまでそのままお互いの手を握っていた。。

 相坂の手は俺の手よりも、一回り位小さくて、指も細い。非力な俺が、力を入れたら折れそうな感じだ。

 本当は、もうちょっと先までしたかったけど、そんな事はできなかった。

「あ、相坂。あの、今日はありがとう。」

 映画館から出ても、俺も相坂も手を握ったまま。結局、バスの停留所までただ黙って歩いた。本当は、これから俺の家に来ないかと言いたかったけど、勇気が無かった。頭の中で、イインチョーが、格好付けとかヘタレヤローと罵っている声が聞こえる。ああそうだ、俺は、格好付けで、ヘタレだよ。わかってるさ。

 相坂は、ずうっと下を向いていたけど、俺の言葉を聞いて、頭を上げて俺を見た。

「あ、あの、よかったら、今からタカナシ君の家でゲームしにいってもいい?」

「えっ!」

「私、学校の友達に、この間のゲーム習ったんだよ。前よりも強くなったから、よかったらタカナシ君とまたやりたいな。駄目?」

「ううん、大丈夫。あ、相坂の方こそ、時間いいの?」

「うん、今日は、遊んでくるって言ってるから、少し位遅くても大丈夫だよ。」


 相坂が俺の部屋に居る。今までも何度か遊びに来た事はある。

 でも、今日はなんだか、お互いを包む空気というか、そういったのがなんだか甘い、これってそういう状況とか言うのだろうか。さっきから、心臓の音が五月蠅い。相坂にまで聞こえているんじゃないかと思う程だ。

「きょ、今日は妹さんはいないの?」

「友達の家族とキャンプに行ってる。明日まで。母さんも、今日は友達と外食って言ってた。」

 だから、今、この家には俺と相坂の二人だけだ。

「そ、そうなんだ。」

 心なしか、相坂の顔も赤いような気がする。

 狭い俺の部屋が、いつもよりも狭く感じる。俺の隣りにいる相坂からは、この間とは別に香りがする。シャンプー変えたのかな。

「げ、ゲームしようか。」

「あ、相坂!」

 俺は、隣りに座っている相坂の方を向く。

「な、何?どうしたの、タカナシ君?」

 相坂の顔が緊張でこわばっている。多分、俺の顔も。

「その、お、俺。相坂に、この間言ってたことの理由を、その、教えてて欲しい。相坂が嫌じゃなかったらだけど…。」

 俺は、段々と声が小さくなり、最後には、下を向いてしまった。

聞いてしまった。聞いてしまった。こんな事を聞く俺って、もしかして最低とか思われないだろうか、もしかして下半身に脳みそがあると思われないだろうか。

 相坂は、黙っている。ああ、決定的だな。これ、ついさっきまで、リア充だったはずなのに、オタに逆戻りかもしれない。

…ああ、ドラ〇もん、過去に戻してください。

「た、タカナシ君。あの、怒らない?」

「え?」

 相坂が、口を開く。しばらく、口を閉じては開いてしていた相坂が、つっかえながら話し出した。


「…あの、友達から、言われたの。その、すぐに体を求めるような男なら、私を大事にできないよって。その、そう言ってみても、大事に待ってくれるような男を選べって…。でも、その、別にそれだけじゃなくて、りょ、両親とか、兄も、そういう相手と付き合いなさいって昔から言われてたから。…タカナシ君のこと、試すような事してごめんなさい。」

「そ、そうだったんだ。」

 なんだ、よかった。本気で、卒業するまでエッチができないかと思った。

 目の前の相坂が、罪悪感いっぱいという顔で俺を見ている。

 確かに、試されたようでいい気はしないが、相坂の家族の気持ちは尤もだし、相坂の友達だって、相坂のために言ったんだろう。

「怒って無いよ。その、全然怒って無いとかじゃないけどさ、相坂の考えもわかったし、そのもう気にしなくていいよ。」

「本当?」

 相坂が、少し目を潤ませてみてくる。

 う、可愛いじゃないか。

 近くに居る相坂の香りが、強くなった気がする。

「あ、あのさ、相坂さえ、よかったらなんだけど、その、あの、胸だけ。胸だけ触らせて下さい!」

 がばりと、床に頭を付ける。

 足元に土下座する俺に、ビビる相坂。だが、今こそ、俺の気持ちを伝える時だっ!

「胸だけ、胸だけでいいんで、触らせて下さい!」

「え、……いいよ。」

「え!」

 俺は、思わず頭をあげた。頭上には、困ったような少し嬉しいような表情で相坂が俺を見下ろしていた。

「優しいねタカナシ君。いいよ、その、少しだけならいいから。」

 相坂が、顔を赤らめると俺の向かいに座る。そして、ゆっくりと自分のカーディガンを脱いだ。

「そ、その本当にいいの?」

「…うん。」

 相坂の声は僅かに震えている。その声を聞くと、更に緊張がする。ヤバい、手が震えてきた。大丈夫、大丈夫。今までの脳内シュミレーション通りにやれば問題無い。

 遠くで、子供達の声が聞こえてくる。狭苦しい部屋は、赤い夕陽が入り込み燃えているようだ。カーディガンを脱いだ相坂は、俺をじっと待っている。二の腕や胸元の肌がやけに白く見える。俺の赤くなった手で、触ったら汚してしまいそうだ。

 目の前にある、ピンクの花柄のキャミから、僅かに白いブラジャーが見えていた。

 それを見るだけで、局所に血が回って、脳貧血になりそうだ。

 ああー!耐えろ、耐えるんだジョー!

「さ、触るよ。」

 相坂に再度確認してから、ゆっくりとキャミの上から、相坂の胸を触る。

 俺の手のひらに収まって、少しあまる位のささやかな大きさ。

 あれ、でもなんかこれ…。

「…か、硬い。」

 その瞬間、目の前に星が瞬いて目の前が真っ赤になった。続けて鈍い音がしたかと思うと上下が逆転した。遠くに相坂が階段を下りていく足音が聞こえた。

 ああ、俺ってバカだ…。


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