Part2:逃げる者と追う者
孝は帰り支度を済ませて、周囲に「アイツ」がいないことを確認すると、すばやく教室を飛び出した。
校門を出るまでは安心できないと常に周囲に気を配りながら昇降口を目指したのだが……孝は自分の行動が遅かったことを痛感した。
「ここで待ってればかならず孝くんは来るはず。教室まで行って追いかけっこになるよりこの方法のほうが確実よね。しかも今日はまだ靴があるから帰ってない。今日こそ孝くんを捕まえるんだから♪」
孝が「アイツ」と呼んで恐れる女、古川 明日実が孝の下足箱のところで待ち構えていた。
(さて、どうしたものか……このままじゃ間違いなく捕まるな。何か逃げ切るための作戦考えないと……)
孝が物陰に隠れて様子を伺っていると、いつの間にか孝の下足箱の前から明日実がいなくなっていた。
(よっしゃ! 今のうちに逃げるぞ!)
喜び勇んで孝が物陰から飛び出した直後、上からド○フのコント並みの「タライ」が降ってきて孝の頭を直撃した。タライの直撃は肉体的というよりは精神的なダメージが大きく、孝はヘコみつつも上を見上げた。
「いってえ……なんでタライが……」
そう言った孝の顔が青ざめていく。
「たーかーしーくーん? やーっと捕まえた♪」
下足箱の上からタライを落としたのは、ほかならぬ明日実なのであった。明日実は下足箱から飛び降りると、タライの直撃でまだふらついてる孝の腕をがっちりと捕まえた。
「待って、古川さん? あなたはいったい何がしたいの?」
どうにかタライの精神的なダメージから復帰した孝が明日実にたずねる。
「え? 私は婚約者である孝くんと帰りたいだけよ? でも孝くんが逃げるんだもの、追いかけて捕まえないと一緒に帰れないじゃない♪ それとね、私のことは“明日実”って呼んでね♪」
明日実は「婚約者」の部分を妙に強調して孝に言う。
「ちょい待った。誰が誰と婚約したって?」
孝はまだタライで痛む頭を押さえながら聞き返す。
「だーかーらー、私と、孝くんが、よ」
どうやら孝が聞き間違えたわけじゃないようだ。だが……
「オレはまだキミと出会ってから1ヶ月ほどしか経ってないと思うんだが……しかも隣のクラスで全然話したことも無かったのになんでオレなの?」
孝にはまったく婚約などした覚えが無く、昔からの知り合いというわけでもないのに顔は学年でもかなりいいほうに入る明日実がなぜ孝に言い寄るのかわからなかった。
「孝くんはまずそこの認識が間違ってるのよ。私たちの出会いは1ヶ月前じゃなく、9年も前の話よ。覚えてないの?」
明日実がそうたずねる。
「9年前? そんなに前に出会ってた? まったく記憶に無いんだが、いったい9年前に何があってふるか……いや、明日実はオレを追いかけるようになったんだ?」
孝は9年前のことなんてまったく覚えてないと明日実に言った。
「それはね……」
と、明日実は9年前のことを話し始めた。
今回は半分以上フィクションになっております。(逃げる作者にぶつけたのはタライではなく掃除用のバケツだったりとか)




