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NINE GRID ―ナイン・グリッド―  作者: asnt2026


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第13話 外のない場所

壁の継ぎ目を見つけてから、全員の会話が減った。


見なければ。


巨大な壁はただの障害物だった。


出口がない。


登れない。


それだけ。


けれど動く可能性があると知った瞬間、意味が生まれてしまった。


誰かが。


開け閉めするために作った。


人間を通すのか。


車両を通すのか。


それとも、もっと別のものなのか。


「操作盤とかないの?」


航平が壁を見ながら言った。


「分かりやすく付けてくれてたら助かるけど」


朱里。


「探せばあるかもしれん」


大庭は継ぎ目の周囲を調べている。


「ただ、こっち側から開けられるとは限らん」


「外からしか?」


莉子。


「牢屋の鍵を中に置く馬鹿はいないだろ」


三崎。


莉子が少し顔を曇らせた。


「例えだ」


三崎が言う。


「そんな顔すんな」


謝ったわけではない。


それでも以前の三崎なら、わざわざ付け足さなかった気がした。


沙耶の墓を離れてから。


ほんの少し。


何かが違う。


本人が一番認めたくないだろうけれど。


「壁の高さを測れるか」


榊原が蒼真に聞いた。


「俺に?」


「距離感、得意なんだろ」


「配送してただけだぞ」


「だいたいでいい」


蒼真は上を見る。


影の長さ。


太陽。


壁からの距離。


昔、荷物の搬入口で高さ制限を目測することはあった。


だがこれは桁が違う。


「三十……いや、四十近いかも」


「登るのは無理だな」


航平。


「最初から分かってる」


三崎。


「夢くらい見させろよ」


「悪いな」


九人はさらに壁沿いを進んだ。


途中。


等間隔で細い溝があることに気づいた。


雨水を逃がす排水口に見える。


朱里がしゃがんで覗く。


奥は暗い。


幅は人間が入れるほどない。


「全部同じ形」


彼女は数個を見比べた。


大庭も頷く。


「造りが綺麗すぎる」


「綺麗なのは良いことじゃないの」


航平。


「山の中に何十メートルの壁作って、排水まで完全に設計してる場所が普通か?」


大庭は壁を軽く叩いた。


「ここは最初から何かを囲うために作られてる」


「俺たちを?」


莉子の声。


大庭は答えなかった。


三崎が代わりに、


「俺たちだけとは限らない」


と言った。


蒼真はその言葉で。


少し先の景色を見る。


林。


草地。


壁。


広い。


あまりにも。


九人を閉じ込めるには広すぎる。


ロボットを何台か走らせるためだけに、こんな土地を作るだろうか。


「誰か住んでた形跡がない」


黒瀬が言った。


珍しく自分から。


全員が見る。


「何?」


航平。


「この広さなら道路くらいあるはずだ」


黒瀬は壁沿いの地面へ視線を落とした。


「電柱もない。民家もない。古い基礎もない」


「山の中なら普通だろ」


三崎。


「山にしては平らすぎる」


黒瀬。


蒼真もそれは感じていた。


起伏がないわけではない。


でも。


歩きやすい。


林の密度も極端ではない。


まるで、人が移動することを前提に自然を置いたような。


そこまで考えて。


自分で馬鹿らしいと思った。


自然を置く。


そんな言い方。


「何か変です」


朱里が言った。


壁ではなく。


足元を見ている。


「何が」


澪。


「土」


朱里が指で掘る。


数センチ。


さらに。


その下から。


灰色のものが出た。


コンクリート。


「道路?」


航平。


「上に土を被せた?」


朱里。


大庭が別の場所を掘る。


同じ。


「昔ここに舗装路があったのかもしれん」


「じゃあ廃施設?」


澪。


三崎が壁を見る。


「廃施設の割には、あのロボット動いてるけどな」


風が吹いた。


草が一斉に倒れる。


一瞬。


土の下に隠れた直線が、ずっと先まで続いているように見えた。


蒼真は妙な感覚を覚えた。


自分たちは野原を歩いていたと思っていた。


でも。


もしかすると最初から道路の上を歩いていたのかもしれない。


知らなかっただけで。


「人工的に作ってる」


朱里が呟く。


誰も否定しなかった。


空。


木。


土。


草。


全部本物に見える。


たぶん本物だ。


それでも。


配置されている。


そんな考えが。


一度浮かぶと消えなかった。


「戻ろう」


澪が言った。


「暗くなる」


榊原も同意した。


九人は来た道を戻り始める。


帰り道。


蒼真は何度も振り返った。


灰色の壁。


どこまでも続く。


空を切る線。


出口を探しに来たはずだった。


なのに。


見つけたのは。


ここが普通の場所ではないという証拠ばかりだった。


しばらく歩いて。


莉子がふと聞いた。


「外って、どっちなんでしょうね」


航平が振り返る。


「壁の向こうだろ」


「そうじゃなくて」


莉子は上手く説明できないらしく、何度か口を動かした。


「私たち、外に出たいって言ってるけど……ここがどこかも分からないのに、何が外なんだろうって」


誰も答えなかった。


蒼真も。


その言葉が。


妙に胸の奥へ残った。

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