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なぁ、君は気づいてますか?

作者: 春暉


季節感を気にしないこの仕業・・・、まさに僕ですね(笑)


『大好きと言えなくて』シリーズの派生物語


『なぁ、君は気づいてますか?』


どうぞ、ご覧ください♪

 陽だまりが溢れる今日は、俺らの中学校の卒業式だ。・・・と言っても、もう式は終わって今は各教室で担任の先生との最後の授業があっている。先刻の式で涙を流したやつらは、目を真っ赤にしたまま最後の授業を聞いている。

 俺の席は一番前の一番右側、つまり、ベランダへ通じるドアの目の前だ。窓から零れてくる暖かい陽だまりは、俺を眠りへと誘うかのように優しい。

 そんな、世界で一番平和そうな場所とは裏腹に、俺の心の中は湿った気持ちでいっぱいだ。


(・・・今日で最後か・・・)


 情けない気持ちを遣る瀬無いまま、俺は目を閉じる。

 そして、意識は少しばかり昔の記憶へ戻る・・・。


 Φ~


 いつもより少しばかり暑い空気にウンザリしながら、俺は理解に苦しむ数学の方程式が書かれてある黒板と睨めっこをしていた。正直なところ、眠った方が楽だ。

 そういう訳にもいかずに、俺はただただ授業を受けていた。


「じゃ、次の問題を、木月きづき、お前が解いてくれ」


 ・・・あんまりじゃないか?

 解けません、なんて言うことも出来ずに、俺は数学の先生の年々薄くなっている頭に睨みを効かせ、問題が書かれてある黒板へと向かう。


(・・・・解けない・・・)


 俺は困り果てて、チョークも持てずに突っ立ったまま次のアクションが起こるのを待った。しかし、そんなことは起こりそうにもない。・・・・困ったなぁ。


「ねね、木月くん」


 と、俺は背後から名を呼ばれた。

 振り向くと、そこには眩しい笑顔で俺を見ている女子がいた。


「そこの問題ね、こんな感じに解くんだよ」


 彼女は、自分のノートを俺に見せながらそう言ってきた。

 ノートには可愛らしい丸っこい字で、黒板の問題が解かれていた。地獄に仏とはまさにこのことだ。俺は軽く礼を言った後、そのノートを借りて問題を写させてもらった。


「よし、席に戻っていいぞ。今度は自分で解けるように、な」


 ハゲ頭を汗で光らせながら、先生は笑って言った。


「ありがと」


 俺は借りていたノートを彼女に返した。


「どーいたしまして♪」


 彼女は笑って言った。

 そんなこんなで、暑さと難しさで苦しんでいた数学の授業が終わった。俺は普段以上に使った頭を冷ますべく、蛇口がある男子トイレに向かった。


「ねね、木月くん!」


 べとべとする汗を一刻も早く水で洗い流したいが、声の主が分かっている以上、無視するわけもいかない。

 先ほどノートを借りた女子、“仲野夕夏なかのゆうか”だ。夏の風に軽く靡くショートヘアーとくりくりとした目が特徴的で、身長は中ぐらい。可愛い柴犬を連想させそうな声は、割と好きだったりもする。


「仲野か。さっきはありがとな」


「ううん。全然大丈夫だよ!」


 そう言いながら、仲野はピースをしてきた。


「木月くんって数学苦手なの?」


「ん・・・、苦手・・・だね」


 他の教科は全く問題ないのに、数学だけが出来ないのである。まったく不便な頭脳を持ったものだと、詮無いことに悲しむ。


「そっか~・・・そうなのか~・・・」


 仲野はそういうと、黙りこくってしまった。早くトイレに行って顔を洗わないと、俺の頭は蒸発しそうだ。額から頬に流れる汗を手の甲で拭いながら、俺は仲野の次の言葉を待った。そして数秒後、俺は驚愕の一瞬を味わうことになる。


「決めた!」


 仲野は人差し指をビシッと俺に指しながら、こう言って来た。


「私が数学を教えてあげる!!」


「・・・は?」


 キッカケなんてこんなもんなのかな?なんて今は思うが、それでもこれが始まりだったんだ。

 それから俺は、授業の合間や部活に行く前などに、仲野から数学を教わった。仲野は、覚えが悪い俺に、熱心に教えてくれた。時にはアホらしい話をして盛り上がったりもした。毎日が楽しい、そう思えた。


~Φ


「恭介くん」


「・・・ん・・・」


 俺は誰かに揺さぶられ、意識を記憶の中から引き戻した。

 火照る顔に涼しい風が滑る。

 目を開けると、そこには仲野がいた。


「夕夏か・・・、もう授業おわった?」


「うん、あんまり恭介くんがグッスリ眠ってるから、みんな恭介くんの寝顔を写真で撮ってたよ」


「・・・あとで処刑もんだな・・・」


 あはは、と仲野は笑った。それにつられて、俺も笑みを零す。

 もうこの笑顔は当分見れないんだな・・・、そう思うと悲しくなるが、今は忘れることにしたい。


「みんな門で待ってるよ?集合写真撮りたいって」


「ああ、分かった」


 俺は机の中の卒業証書を取り出し、ゆっくりと立ち上がった。

 ずっと言わなかった気持ち。これからも言わないと誓った気持ち。

 立ち上がると共に、心の奥底に閉まった。


「木月ー!仲野ー!早く来いー!」


 外に出るとみんなが門の前にきれいに並んでいた。いつもバラバラにしか並べないやつらにしては、上出来だ。


「ほら、恭介くん。行こう?」


 仲野が手を差し出す。俺は笑いながら、その手を取った。


「あぁ、今行く」



俺の気持ち、君へだけの気持ち。


なぁ、君は気づいてますか?


小さな想いと共に、俺は最後の写真を笑って写った。


END


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― 新着の感想 ―
[良い点] せ、切ない!! [一言] うーん、思いを言ったら付き合う事が出来たかもしれないのにねぇ
[良い点] 全部ですかね♪ [気になる点] ありぁせん [一言] psp使い勝手悪いからコメ遅れるかもだけどよろしくです(^^) なんか「メルト」みたいな小説でテンションあがりました
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