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第一章:剣を突きつける番人と、動じない「迷い子」
紺色の着流しをはだけ、不気味な黒の狐面の奥から光る眼。 用心棒・黒錆は、獲物を仕留める獣のような殺気を放っていました。
「生きたままここへ入れば、魂は石炭より先に燃え尽きるぞ。失せろ。それとも、その細い首を今すぐここで撥ねてやろうか」
並の人間なら失神するような状況。しかし、千沙子は首筋に刃が食い込むのも構わず、真っ直ぐに狐面の奥を見つめ返しました。
「名乗る必要はありません。どうせ、もう忘れてしまいましたから」
千沙子の声には、怯えではなく、奇妙なほど澄んだ「芯」がありました。
「でも、あなたの手。そんなに冷たいものを握っているからか、少し震えてます。……本当は、人を斬りたくないんじゃないですか?」
「なんだと?」
黒錆の動きが止まりました。 剣を突きつけられている少女が、あろうことか「死の番人」である自分の内側を見透かそうとしている。
「ふん。──名前すら捨てた空っぽの『器』か。面白い。なら、貴様の魂が消え果てるのが先か、俺が斬るのが先か、試してやろう」
黒錆が剣を引き、鼻で笑ったその時。 客車の奥から、空気を震わせる巨大な足音が響いてきました。千沙子はふぅ……と息を吐いて、一号車へと乗り込みました。




