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ソイラテベンティとアメリカーノトールー十年の誤読ー  作者: fudo_akira


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2025年11〜12月 ― 接近禁止

 秋が終わるころ、

 11月。


 ユキの帰宅時間に合わせるように、

 薬局の目の前でよく見た人影を見た。


 はっきり確認できる距離ではない。

 けれど、同じコート。

 同じ立ち方。


「……ユキ」


 名前を呼ばれた。


 その声を聞いた瞬間、

 全身の血が引いた。


「ちょっとでいい。話したい」


 距離は、三メートルほど。


 近づいてこない。

 けれど、逃げ場もない。


 ユキは、震える声で言った。


「……なんで、きたの?」


 ユキは、スマートフォンを取り出し録画ボタンを押し撮影した。


「俺、何も悪いことしてない」


 その言葉で、

 ユキの中の恐怖が、確信に変わった。


 ——話が通じない。


 悪意がないことが、

 一番怖かった。

 「向こうで待ってて」

 

 たくまたバッグを抱え十字路へ向かっていった。

 

 結局たくまと2時間ほどスターバックスで話し込んでしまった。

 たくまの妻が私の事を訴える?そんな事あるの?

 

 たくまが放ったそんな話を考えると、

 その夜、ユキは眠れなかった。


 娘の寝顔を見ながら、

 初めて、本気で思った。


 ——この人は、私の人生を壊すかもしれない。


 それは、憎しみではない。


 愛の残骸が、

 暴力に変わる瞬間を、

 目の当たりにした感覚だった。



 帰宅するとき、

 駅の改札を出る瞬間。


 夜、マンションのエントランスに入る前。


 視線を、無意識に後ろへ送っている。


 ——気のせい。

 ——考えすぎ。


 そう言い聞かせながらも、

 胸の奥が、じわじわと冷えていく感覚は消えなかった。


 11月は、2回だった。


 ——たくま。


 心臓が、強く跳ねた。


 ユキは、返事をしなかった。


 これは、もう会話ではない。


 そう判断できるほど、

 彼女はこの一年で、冷静になっていた。


 六月に別れを告げたあの日から、

 ユキは何度も、自分に問い直してきた。


 ——私は、間違っていないか。

 ——逃げただけではないか。


 その問いに、

 今ははっきり答えられる。


 これは、人生を続けるための別れだった。


 だが、たくまは違った。


 彼の中では、

 別れは「未完了」のままだった。


 返事がないことが、

 終わりではなく、保留に見えていた。


 ——拒絶じゃない。

 ——まだ話せていないだけ。


 そう解釈することで、

 自分の行動を正当化していった。

 ユキは、自分の生活に「緊張」が混ざり始めていることに気づいた。

 そして警察に相談した。 


 12月。


 たくまはまた薬局にいた。


 『会わないなら、せめて理由を』

 『十年、何だった?』

 『俺だけが悪者なの?』


 その一つ一つが、

 ユキの心を削っていく。


 説明すれば、理解してもらえる。

 かつては、そう信じていた。


 でも今は、違う。


 説明は、希望を与える。

 希望は、執着を強める。


 ユキは、警察に相談した。


 事情を話しながら、

 自分の声が震えていることに気づく。


「元交際相手です」


 そう言った瞬間、

 胸の奥が、少し痛んだ。


 十年が、

 一言で要約される。


 それでも、言わなければならなかった。


 守るために。


 娘を。

 生活を。

 自分を。


 警察から連絡が入り、

 たくまは事情聴取を受けた。


 彼は、認め

「はい、私に間違いありません」

「ストーカー行為をしました」

「十年も付き合ったからです」


 その言葉が、

 すべてを物語っていた。


 過去が、

 現在の許可証になると、

 本気で信じていた。


 接近禁止命令が出た。


 ユキの生活圏への立ち入り禁止。

 連絡の一切を禁ずる。


 正式な書面を受け取った日、

 ユキは、安堵と、喪失が、同時に押し寄せた。


 ——。


 それは、

 望んだ未来でもあり、

 一番避けたかった形でもあった。


 たくまは、命令書を握りしめ、

 しばらく動けなかった。


 理解できなかった。


 なぜ、ここまで拒絶されるのか。

 なぜ、話す権利すら奪われるのか。


 ——愛していただけだ。


 その思考が、

 彼をさらに孤立させていった。


 こうして、

 二人の関係は、完全に断ち切られた。


 別れではない。

 対話でもない。


 遮断だった。


 愛は、

 終わり方を選べない。


 選べなかった者だけが、

 その後の人生で、

 罰のように向き合わされる。

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