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ソイラテベンティとアメリカーノトールー十年の誤読ー  作者: fudo_akira


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10月末― たくまの崩壊

 数か月前、6月にユキからのメッセージを読んだ瞬間、

 たくまは、理解したと思った。


 数日後。

 妻から、短いメッセージが届いた。


 『息子を連れて、しばらく実家に戻ります。

 今後のことは、弁護士を通してください』


 読み終えたあと、

 たくまは、しばらく動けなかった。


 音が消えた。


 家の中が、急に広くなった。


 ユキに振られ、

 同じ月に、家庭も失った。


 偶然だと分かっていても、

 心は、そう受け取らなかった。


 ――俺は、全部失った。




 ――冷めた。


 そういうこともある。

 十年も続けば、なおさらだ。


 頭では、そう処理した。


 スマートフォンを伏せ、ソファにもたれかかる。

 深呼吸をひとつ。


 大丈夫だ。

 これは、想定内だ。


 そう思おうとした。


 しかし、その夜。

 何も手につかなかった。


 テレビをつけても内容が入ってこない。

 仕事の資料を開いても、文字が滑る。


 胸の奥に、じわじわと広がる違和感。


 ――冷めた、だけ?


 理由が、それだけなのが、逆につらかった。


 怒りも、責めも、泣き言もない。

 説明も、説得の余地もない。


 「考えた結果」という一文が、

 たくまの中で何度も反芻される。


 考えた。

 その末に、俺はいらないと判断された。


 それは、別れ以上に、

 存在を否定された感覚だった。


 別れを告げられた次の日から、どうやったら戻れるのか、

 それしか考えることができなかった。


 家庭では、同じ屋根の下で別居状態。

 ――俺は、どこにも居場所がない。


 家では夫として機能していない。

 職場では役割をこなしているだけ。


 唯一、名前を呼んでくれた場所が、

 もうない。

 7月、8月となんだかんだと理由をつけ、ユキとLINEのやりとりができた。

 8月末のライブにもいけそうだったが、ユキにフラれたショックで体調を崩し

 持病の心臓が悪化してしまった。


 一度会って話がしたかった。会って話せば何とかなるのではないか、そんな思いでいた。

 しかしユキから荷物整理と送られたサプリメントとELLEGARDENのストラップは、

 そんな思いとは裏腹にユキの気持ちを整理するひとつにしからならなかった。

 「図々しい人」

 「別れた後にこんな荷物を送らせるなんて」

  そんなメッセージが届いた。

 「この住所で良い?」

 それはたくまが数年前ユキに渡した株主優待のチケット。たくまの住所がはっきりと書かれている。

 ん?そんなものをずっと持ち続けているのか?別れたのに?

 

 たくまは夏休みの帰省で実家にいた為、実家の住所を教えた。

 数日後しっかりと荷物は実家に届いた。

 

 9月は 


 たくまは、ユキに返信を書いた。


 『急すぎる。やっぱり理由がわからない』


 既読はつかない。


 数時間後、また送る。


 『何か俺がしたなら、直す』


 返事はない。


 その沈黙が、たくまを追い詰めていった。


 冷めた、という言葉を、

 たくまは「一時的な判断」だと解釈し始める。


 体調が悪かった。

 手術が怖かった。

 今は気持ちが沈んでいるだけ。


 時間が経てば、戻る。


 そう考えなければ、

 正気を保てなかった。


 夜、ユキとの十年が、断片的に浮かぶ。


 車の中での重なったあの時。

 はじめて会った日のカラオケボックスでの出来事。

 指輪を作った日。


 ――あれは、失敗だったのか。


 今になって、すべてが「間違い」に見えてくる。


 だが同時に、

 あれほど確かな時間が、

 なかったことになるはずがない、とも思う。


 だったら。


 終わり方が、間違っている。


 そう感じ始めたとき、

 たくまの中で、何かが歪み始めていた。


 その夜から、

 たくまの中で「確認したい」という衝動が膨らむ。


 本当に、終わったのか。

 本当に、もう会えないのか。


 メッセージを送る。

 返事はない。


 電話をかける。

 出ない。


 それでも、

 ユキの生活が続いていることだけは、

 SNSの断片から分かる。


 ――生きている。

 ――普通に。


 それが、耐えられなかった。


 たくまは、自分をストーカーだとは思っていなかった。


 確認したいだけだ。

 話せば分かる。

 十年が、そんな簡単に終わるはずがない。


 そう信じていた。


 信じることで、

 崩れた自分を、必死に支えていた。


 六月の終わり。


 たくまは、完全に孤独になった。


 ユキは、人生を続ける選択をした。

 たくまは、失われた人生にしがみついていた。


 この時点では、

 まだ誰も知らない。


 この執着が、

 やがて「事件」と呼ばれる形に変わることを。


 ただひとつ確かなのは――


 別れは、

 同じ速度では訪れない、ということだった。

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