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雨宿りオメガ

作者: 森の手
掲載日:2025/12/01

 今日の撮影は、主人公の男女が初めて出会う場面から。


 突然の雨。軒先に偶然入った二人。

 そこへ通りがかった私。

 ずっこけ、ヒールが折れる。二人がそれを助ける。出会いのきっかけになるのだ。

 だけどそれだけ。もう出番はない。

 何度もオーディションに落ち続け、やっとつかんだ役がこれ。


 勝算はあった。

 昨日監督から直接、演技指導を賜ったのだ。


 物語世界においても、その場にポンと生まれいでた人はいない。

 彼らにも生活があり、仕事があり、人間関係がある。

 通行人Aの私も。もちろん。

 それを作りこむことによってこの一瞬の絵に厚みが生まれる。


 ということで、私は300歳だ。

 地球から遥か彼方、ポメラニアン星のある町で投資信託の利息で食べていた。しかし襲撃を受け、地球へ逃れてきた。

 地球暮らしはまだ一年と少し。


 今日は300歳の誕生日。

 だが体調が思わしくない。

 もしかして、ポメ星のリード紐星人から卵を産み付けられていたのかもしれない。


 100万歩歩いた瞬間、それは孵る。生まれたヒナは初めに目にしたモノを餌として食べてしまう。

 私は雨で急いでずっこけたのではない。


 主人公とヒロインを横目に、私はカウントを開始する。十歩歩いたとき、雛が私の体を食い破る。


 ……8、9、10!


 いまだ!


「がはっ」


 腹を押さえ、うずくまる私。


「や、やっぱり」


 銃を片手に自分の家に上がり込んできたリード紐星人のいやらしい顔が脳裏によぎる。

 あいつらの生物支配の仕方は知っていた。だから私は、素早くバックを持って宇宙船で逃げたのだ。


 だが、やはり何かやられていたのだろう。


 どうすればいい。


 今卵が孵ったら、私以外の誰かが食べられるかもしれない。

 300歳の私に栄養なんてない。


「どうしたの?」


 近くの女の子(ヒロイン)が声をかけてくる。


 かまわず走り出す私。


「おい!!」


 呼びとめる男(監督)


 卵が完全に孵りきる前に、ここから去らなければ!!


「カット!! 撮りなおし!! 戻れ!」


 走る私の背中にそんな声がかかる。


 撮りなおし? くやしい。


 だがそのすぐ後でハッと自分の落ち度に気づいた。

 監督の判断は正しい。

 300歳の女は、こんなに早く走れっこなんてないのだから。

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