雨宿りオメガ
今日の撮影は、主人公の男女が初めて出会う場面から。
突然の雨。軒先に偶然入った二人。
そこへ通りがかった私。
ずっこけ、ヒールが折れる。二人がそれを助ける。出会いのきっかけになるのだ。
だけどそれだけ。もう出番はない。
何度もオーディションに落ち続け、やっとつかんだ役がこれ。
勝算はあった。
昨日監督から直接、演技指導を賜ったのだ。
物語世界においても、その場にポンと生まれいでた人はいない。
彼らにも生活があり、仕事があり、人間関係がある。
通行人Aの私も。もちろん。
それを作りこむことによってこの一瞬の絵に厚みが生まれる。
ということで、私は300歳だ。
地球から遥か彼方、ポメラニアン星のある町で投資信託の利息で食べていた。しかし襲撃を受け、地球へ逃れてきた。
地球暮らしはまだ一年と少し。
今日は300歳の誕生日。
だが体調が思わしくない。
もしかして、ポメ星のリード紐星人から卵を産み付けられていたのかもしれない。
100万歩歩いた瞬間、それは孵る。生まれたヒナは初めに目にしたモノを餌として食べてしまう。
私は雨で急いでずっこけたのではない。
主人公とヒロインを横目に、私はカウントを開始する。十歩歩いたとき、雛が私の体を食い破る。
……8、9、10!
いまだ!
「がはっ」
腹を押さえ、うずくまる私。
「や、やっぱり」
銃を片手に自分の家に上がり込んできたリード紐星人のいやらしい顔が脳裏によぎる。
あいつらの生物支配の仕方は知っていた。だから私は、素早くバックを持って宇宙船で逃げたのだ。
だが、やはり何かやられていたのだろう。
どうすればいい。
今卵が孵ったら、私以外の誰かが食べられるかもしれない。
300歳の私に栄養なんてない。
「どうしたの?」
近くの女の子が声をかけてくる。
かまわず走り出す私。
「おい!!」
呼びとめる男(監督)
卵が完全に孵りきる前に、ここから去らなければ!!
「カット!! 撮りなおし!! 戻れ!」
走る私の背中にそんな声がかかる。
撮りなおし? くやしい。
だがそのすぐ後でハッと自分の落ち度に気づいた。
監督の判断は正しい。
300歳の女は、こんなに早く走れっこなんてないのだから。




