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Ep.20 「再会、再開」

 工場は突破した。背後には幾つもの人工知能たちが死んでいる──もはやそれも、どうでもいい。

 如何にして京夏を千冬まで送り届けるか、如何にしてローゼが「悪い意味での人工知能」にならないか。そのことだけを考えながら、私はトボトボと歩いていた。


「澄嶺? 大丈夫ですか?」

「うん、あぁ……」


 私の右肩に寄り添うようにローゼは隣を歩いてくれる。彼女の腕の中には、今でも奪った銃があるけれど。


「みんな、こっち来て!」


 京夏が興奮しながら向こうへ走っていく。 

 そうか。遂にか……!


「抜けたぜ……工場!!」


 工場の外は昼だった。太陽が眩しくて、私たちに熱を突き刺してくる。明るかった。それ故に、向こうに見えるあれも、猩々色に輝いている。


「千冬……!!」


 京夏は走り出す。少し前まで生死を彷徨っていたとは思えないほど速く、速く。私たち3人はそれに追いつくことを諦めて、彼女ら2人の世界を眺めることしかできなかった。


「千冬……ごめん、ごめんね……! 私、千冬のこと大好きだったのに……!! 」


「ちが、それは──」

やめてください」

「え?」

「京夏の中では、京夏は人殺しなんです。今は……裁いてあげましょう」


 私の言葉を遮るローゼの瞳は何故か潤んでいた。彼女の初めての涙はもう、奪われてしまったのだ。

 京夏があれだけ叫ぶのにこんなことを思う私は、やはり誰かの死を悲しむ資格がないらしい。


「千冬……ごめん……寒かった、よね……」


 ネグレがそっと京夏に近づく。

 背中に掌を置いて、周期的にポンポンと叩き始めた。母が子にするように静かで優しく、言葉すらいらないものだった。


「……ねえ、京夏」

「なに……?」

  

 私はいつの間にか京夏に話しかけていた。

 なにかを話したかったわけじゃない。

 ただ、右手を差し出していたのだ。


「その……これで、よかった?」

「うん……ありがとう……!」


 彼女が私の右手を取って立ち上がる。ネグレがそれを支える。ローゼが全員を包み込むように抱きしめる。

 

「3人とも……ありがとう、私の我儘に付き合ってもらっちゃって」

「気にすんなよ。困ったらお互い様だ」

「良いんです。必要な旅の道中ですし、ね?」

「うん。それになんか、その……私に必要なことがわかった気がするから」


 京夏と出会ってから1週間も経っていない。過ごした時間だけで言えば、ローゼにも遠く及ばない。

 けれどこの遺されたものを求める道は、私に光を示してくれた。

 人は大切な人が死んだとき、あのように泣く。泣く京夏と、泣けない私。そのどうしょうもないくらい深い溝を埋めようとして、やめた。


「どうする? 千冬はここで寝かせておくか?」

「いや……私の家に埋めたいな。手伝ってくれる?」

「任せろって」


 ネグレは、目を覚さない千冬を抱えて京夏と一緒に歩きだした。


「……!」


 抱えられた千冬が、笑っている。

 私の心臓を槍で貫くような、安心した笑みだった。


────


 千冬の埋葬後、私とローゼは海に来ていた。前に釣りをした船着場である。

 久しぶりに嗅いだ血の臭いが脳にこびりついて、少し吐きそうだ。


「……人って、簡単に死んじゃうんだよね」


 波の音が私の声を遠くまで運んでいった。それを聞いたローゼは、少し考えているようだ。


「どういう意味でしょうか」

「ほら……あんなに小さな鉄の塊だけで、人って死ぬんだよ。どれだけ元気でも、どれだけ明るくても、撃たれたら死ぬ。きっとそこに区別はないんだよ」

「……」

「千冬は多分、私よりずっといい子だと思う。京夏を逃がしてさ。私だったら──。でもあの子は死んで、私は生きてる。おかしいと思わない?」


 心にも思っていないことが、前髪に支えられた空に飛んでいく。まるで穴の開いたプールのように、どんどんと流れて止まらない。


 これが私の本心なのだろうか?


「私は……人工知能です」


 ローゼは私の隣に座りながら、自分の肩をポンと叩いた。何も言わずに、そこに頭を預ける。


「条件さえ揃えば、私は澄嶺よりずっとずっと長生きするでしょう。澄嶺は嫌ですか?」

「嫌って、何が?」

「私が澄嶺より長生きすることです」


「嫌だよ。できるならずっと一緒にいたい。いろんなものを見たいし、いろんなことをしたいよ……でも、しかたないじゃん。私は人間で、ローゼは……」

「澄嶺と千冬も一緒ですよ」


 彼女の瞳は真っ直ぐで、これが真実だと信じて疑わないことがすぐにわかった。


「澄嶺と千冬は、別の生き物なんですよ、きっと。千冬が死んだからって、澄嶺が気にする必要はありません」

「でもそれって、人間としてさ……」

「それが澄嶺を苦しめるなら、そんなものは要らないです」


 だだっ広い船の墓場に、この言葉が響く。私の心を無理やりこじ開けるような力強い声だった。


「私は澄嶺に幸せになってほしいんです」


 気がつけば、私の目蓋の中にも海が広がっていた。溢れて、零れて、ローゼの肩を濡らす。声が漏れる。波の音に溶け、消えていく。


「澄嶺!?」

「大丈夫……本当、大丈夫だから」


 でも私は、弥富の死も、千冬の死を悲しめなかった私が悲しめるようになることを望んでいる。例えそれが私を苦しめようとも、ローゼの死を悲しめない未来よりも遥かにマシだ。


 行かなくては、トーキョーに。

 日本で一番、人類文明が栄えた場所へ。

 人工知能が、最も発展した場所へ。


 私は、私以外のために泣けるようになりたい。

いつも読んでくださりありがとうございます!

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今回は力作だから押して(推して)くれると嬉しいです……!!


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