表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/16

Ep.14 「残してきたもの」

「はぁ……はぁ、はぁ……」


 どうしてこんなことになったんだ。こんなはずじゃなかったのに。

 

 考えても意味のないことを考えながら、必死の思いで夜の森を歩く。血を流す右腕を縛り付けて、ゾンビのように歩く。

 足音すらなく、ただ熱だけがあった。


「誰、か……!」


 呼んだって誰も来やしないのに、私は誰かを求めていた。千冬ももう死んじゃったのに。私だけ生き残って……


「はっ、はぁっ……はぁ……」


 心臓の跳ねる勢いですら、私を殺そうとしてくるようだ。

 脳裏に映るのは、先刻のあの惨状。

 千冬とただ、食料を少しいただこうと思っただけなのに。


「あんなに人工知能がいるなんて……聞いてない!!」


 側にある木を右手で殴る。撃たれていたのを忘れていたせいで、痛みが雷のように走った。


「ゔぁぁぁ!!!」


 私の激痛が夜を撹拌する。


 あいつらは悪魔だ。前史人類が滅んだ原因、敵、忌むべき存在。この世のどんな悪口でも、あいつらを飾るには足りない。

 私の大切な人を奪ったんだ。またあの笑顔と、温もりがほしい。また、千冬と……


「生きたい……まだ……!!」


────


「おはよう」

「おはようございます」


 今日も清々しい朝だ。

 デートというものは素晴らしいものだ。こう……曇って割れたメガネを外すように、世界が広がるのだ。

 さえずる鳥、吹く北風、寒さ。この世のすべてが私たちを肯定してくれている気がする。


「おい、澄嶺! ローゼ!」


 そんな安寧を壊したのは、切羽詰まった様相のネグレだった。まるで死体でも見たかのような顔である。


「どうしたのネグレ、そんな焦って──」

「いいから早く来い! 私一人じゃ運べない!」

「行きましょう澄嶺、これはマズイです」


 ローゼはなにかを察したのか、風よりも早く立ち上がって、ネグレと一緒に山へ消えていった。  

 いったい、どうしたというのだろうか。


「もう……なんなんだよ」


 寝起きで動かない足でなんとか追いかける。山道を置き去りにすると、そこには一人の少女がいた。


「? こんなところに死体?」

「何言ってんだよ澄嶺、お前も手伝えって」

「いやいや、もう死んじゃってるでしょ……」


 彼女は右腕に銃弾を食らっているようで、白い袖が赤く染め上げられている。もはや生きている可能性など、夏に雪が降るようなものだった。


「だからって村に運ばない理由には──!」

「今はそれどころじゃないですよネグレ。澄嶺もほら、早く担いでください」


 私を睨むネグレを制止して、ローゼは淡々と救助にあたる。私は二人が持ってきた担架を支えて山を下りた。


「気絶してますね……」

「取り敢えず心肺蘇生か!?」

「馬、馬鹿! 失血するだけでしょ」

「じゃあ、どうするってんだよ……」


 運んできたはいいものの、取るべき手段が見当たらない。二人は焦っているが、それは解決を意味しなかった。


「どいとくれ、儂がやる」


 渋い、いい声がした。

 現れた救世主は、村に初めてやって来たときに私を泣いて抱きしめた、あの好々爺だった。


「じぃちゃん!? あんた、わかるのか?」

「わかるも何も、儂は人類軍に従軍しとったよ。軍医としてな」


 好々爺はすぐに彼女の状態を確認して、首元に指を添える。彼の表情を見るに、まだ息はあるようだ。


「ネグレちゃん。この村で一番の酒を持ってきてくれ。蔵にあるはずだ」

「わかった!」

「ローゼちゃんはお湯を沸かして持ってきてくれ」

「はい!」

「澄嶺ちゃん、君のリュックにガーゼはあるかい? あるなら持ってきてくれ、今すぐにだ」

「は、はい……」


「どうした? ないのか?」

「いや、おじいさんはどうして……知らない人を助けるんですか」

「……儂より若い人が儂より先に死んでいいはずなど、あるはずがないからな」


 用意ができてからは一瞬だった。

 残った銃弾を提出、煮沸して覚ました湯を傷口に流し込み、傷口を縫い合わせる。

 途中、激痛に目覚めた彼女の口に、即座にネグレが酒を注いでいた。ほんの少量でも酩酊感が彼女を襲ったらしく、すぐに意識を手放した。


 本当に一瞬だった。

 その間にあの爺は、人を一人救ってみせたのだ。

 私は、どうするべきだったのか?


────


「ゔぁぁ! いたい、痛い! 腕……!」

「落ち着け。もう腕は大丈夫だ」


 数時間後、酔いが覚めたらしく彼女は目を覚ました。襲い来る痛みに歯を食いしばりつつ、私たち一人一人に目を向けている。


「あ、あなたたちが助けてくれたの……?」

「この子たちが見つけてくれなければ、もうじき死んでただろうさ」


 声を震わせながら話す少女に対して、爺は髭を撫でながら応えた。


「ありがとう……えっと、名前は?」

「私は澄嶺。こっちがローゼと、ネグレ」

「はじめまして」

「よっ」

「そして……」

「儂は憲俊(のりとし)。落ちこぼれの医者よ」


「私は……私は、京夏(きょうか)。本当に、ありがとう……」


 京夏と名乗った少女はかけられた布団を握りしめ、絞り出すように泣いた。

 まるで、枯れかけの枝が最後に花を咲かせるような。そんな儚さと力強さがあった。


「なあ京夏。まだ傷は痛むだろうけどさ、教えてくれよ。どこの人工知能にやられたんだ」


 ネグレの言葉は、前後の文で緩急が激しい。優しく問いかけているはずなのに、確かな敵意が滲み出ているのだ。


「カナガワ地区の方から、ずっと追いかけてきて……千冬も、殺されて……」

「大変、でしたね……」


 ローゼは、京夏の左手を握りながらそう零す。あの揺れる瞳の奥には、なにが浮かんでいるのだろうか。


「ひとまず、京夏もこの村でお世話になろう? 少なくとも、痛みに慣れるまでは」


 私は京夏を宥めるようにして伝えた。こんな怪我では、歩くことすらままならないはずだ。


「そう、してもいい?」

「当たり前だろ。この村は、私たち(人類)にとって最後の砦なんだ」


 こうして、私たち3人に新たな仲間が加わった。名を京夏。茶色みがかった髪に真っ白なフーディ、宵のような瞳が特徴の、私と同年代くらいの少女である。


 私は彼女を死人だと思っていた。だからなのか、彼女が蘇ったのになんの感想も抱けない。

 私は本当に、死を悲しめるようになるのだろうか?

いつも読んでくださりありがとうございます!

ブックマーク、☆評価をよろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ