教会にて
教会の静けさを、軽い衝撃音が破った。
――コツン。
「おい、ルキウス! 聞いてんのか、ルキウス!!!」
痛みよりも、その声に胸が跳ねた。顔を上げると、白いフードを目深に被った“子ども”が金色の大きな十字架でボクの頭を軽くつついている。金の瞳が、蝋燭の灯を弾いていた。
「……アルくん!」
気づけば抱きついていた。
「おいコラ離れろ!」と抗議する声。十字架の柄で器用にこじ開けられそうになるけれど、ボクはその胸に顔を埋めて、堰を切ったように泣いた。嗚咽が喉にひっかかる。アルマ様は大げさにため息をつく。
「お前さ、オレ様のこと友達か何かと勘違いしてないか? オレ様は一応“神様”だぞ」
「……あの夢、現実なんですか?」
ボクの問いに、アルマ様は表情ひとつ変えず、きっぱりと言った。
「あれは“前世”の記憶だ」
胸の奥が、暗く沈むのが分かった。
(――前世の記憶を取り戻しても、今世の性格がちゃんと出てる。悪くない傾向だな)
アルマ様は、独り言のように小さく呟いてから、十字架を床に立てかけ、ボクの目の高さまで腰を落とした。
「アルくん、ボクはどうしたらいいの?」
「ルキウス。あれは“あくまで前世”だ。忘れろとは言わねぇ。実際に起きたことだし、お前の魂に刻まれてる。だからこそだ――“今”のお前の人生をちゃんと生きろ」
言葉が、一つずつ胸に入ってくる。
「友を作れ。仲間を作れ。恋人を作れ。家族を作れ。笑って、泣いて、腹立てて、楽しく生きろ。その果てが“償い”だ。」
「……償い?」
「そうだ。過去の行いのな。この世界とは違う場所で起きたことでも、消えはしない。お前も見ただろ、砂の匂いと鉄の味の、あの地獄を。手を紅く染め続けた自分を。この一週間、お前が何度も目を覚ましては吐いて、泣き叫んでたの、オレ様はちゃんと見てた」
視界が揺れる。ボクは拳を握った。
二度と、あんな自分には戻らない。人を人と思わず、言いなりで首を裂く機械には。
もしその道しか選べないなら、ボクは――きっと狂って、自分を壊してしまう。
「ボクは……二度と、あんな人生を送りたくない」
震える声を噛みしめると、アルマ様はふっと目を細め、十字架の先でコツンとまた軽く小突いた。
「お前は神様に対して気安すぎだ」
「……痛っ」
「けど、まぁ――それでいい」
口ではぶっきらぼうに言いながら、アルマ様の顔はどこか楽しそうだった。金の瞳が、ステンドグラスの光を拾ってきらりと光る。
「覚えとけ、ルキウス。オレ様は見てる。お前が誰と出会って、何を選ぶか。逃げてもいい、立ち止まってもいい、泣いてもいい。だけど、“自分で選べ”。」
「……うん。ボク、ちゃんと選ぶよ」
「よし」
十字架がカランと小さく鳴った。教会の鐘が遠くで一度だけ応える。
アルマ様は立ち上がり、白いフードの影から悪戯っぽく笑った。
さてと、じゃあ次の話をするか、
大事な話だぜとアルマ様がニヤリと笑った




