はじまりの始まり
ボクはゆっくりと目を開けた。
さっきまでの出来事が、夢のように脳裏をかすめる。
光の粒になって消えていったアルくんの姿と、最後に聞こえたあの声――「努力しろ、幸せになれ」。
まだ胸の奥に、その温もりが残っていた。
ゆっくり立ち上がって振り返ると、すぐ近くにリオとエドが立っていた。
2人とも心配そうな顔でボクを見つめている。
「ルキウス様、大丈夫ですか?」
「ルキウス様……」
ボクは一瞬だけ息を整え、笑顔を作った。
「うん、大丈夫だよ」
その一言に、リオもエドもほっとしたように息を吐いた。
表情が緩み、ようやく安心してくれたみたいだ。
「エド、リオ、帰ろう。屋敷に」
そう言うと、エドが小さく頭を下げた。
「すぐに馬車をこちらに呼びます」
リオも続いて、少し微笑みながら扉を開けてくれる。
「ルキウス様、行きましょう」
ボクは頷いて扉を抜けた。
最後に一度だけ、祭壇に向かって深く頭を下げる。
教会の扉がゆっくり閉まるとき、壁に彫られたアルマ様の象が目に入った。
――『見てるからな』
誰かが、そう言った気がした。
胸の奥がじんわりと温かくなる。ボクは小さく心の中で誓った。
「ボクも見てて下さい、アルマ様」
馬車に乗り込むと、リオがボクの隣に腰を下ろした。
「ルキウス様……本当に大丈夫ですか?」
ボクは笑顔のまま頷く。
「本当に大丈夫だよ。……やっぱり、お祈りって大切だね」
「ルキウス様って、そんなに敬虔な信徒でしたか?」
リオが訝しげに首を傾げる。
ボクは少し考えて、柔らかく笑った。
「祈ったらね、そう思うようになったんだ。祈ったら、心がすっきりした」
(本当は神様に会えたからなんだけど……アルくんに言うなって言われたし、言わないでおこう)
エドが笑顔で頷いた。
「それはいいことでございますね。ちなみに、やはり魔法神オロストローネ様を信仰していらっしゃるのですか?」
「アルマ様だよ」
そう答えると、エドの目が一瞬だけ驚きに見開かれた。
そりゃそうだ、この国では王族も民も、九割は魔法神オロストローネ様を信仰している。
伊達に“魔法国家”を名乗っているわけじゃない。
「転生神さま、ですか……」
エドはゆっくりと頷いた。
「それはまた、どうしてですか?」
ボクは窓の外を見ながら、少しだけ考え、静かに言った。
「……ずっと身近に感じてるんだ。見守ってくれてる気がするから」
エドが穏やかに微笑んだ。
「それはきっと、ルキウス様の敬虔な祈りがアルマ様に届いているのかもしれませんね」
「そうだといいけど」
ボクは微笑む。
エドはさらに柔らかい声で言った。
「祈りは神様に届くものです。それに、アルマ様はきっと見ていてくださいますよ」
ボクは頷いた。
「……そうだね」
馬車はゆっくりと丘を下り、白い教会が遠ざかっていく。
ボクは胸の奥で、もう一度、祈った。
“努力する。幸せになる。ちゃんと見てて”――そう、アルマ様に誓いながら。




