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修学旅行の夜、女の子に呼び出された!

作者: 155

「イエス! イエス! イエス! 大富豪! イエイ」

「うるさい斎川、勝ったなら隅っこで黙っていろよ」

「くやしいのう、貧民の透くんよお~」

「まじうっさい。黙れ腐れ斎川」


 高校2年生の一大イベントといえば修学旅行ではないだろうか。文化祭などもいいが、一度しかないっていうレア感がたまらなくそそるというもの。

 うちの高校でも多分に漏れず修学旅行はある。行き先はごく一般的な観光地だったりしてほんとつまらないところばかりだが、こういうのは場所ではなくみんなで行くことに意義あると思っている。

 この先長い事生きていくだろうけれど、こんなに大人数で旅行するなんて絶対にないだろうからな。


 初日は生まれて初めて乗った飛行機とこれまた初めて来た北の大地に心躍ったが、宿についてしまえばどこでも一緒なので、とにかく級友たちと遊びまくるのが優先となる。

 スマホは所持していてもいいが、ゲームなどやれば即取り上げられるし、そもそもそんなものはいつでもできる。修学旅行ならではの大人数でワイワイやれることって言うことでまずはトランプに興じていた。


「猪俣、いる?」

「おい、イノッチ。松田が呼んでるぞ」


 クラス女子の松田がひょこっと顔を出して猪俣を何処かに連れて行く。


「ねえ、笹本くんはどこ?」

「笹本は隣の部屋にいるぜ」

「ありがとー」


 また、女子が男子を呼びに来た。なんなんだ? 女子の方でもゲームしていて応援でも呼びに来たのか?


「なあ斎川。さっきから女子が男を呼びに来ているみたいだけど、あれなんなんだ? おまえ、知っているか」

「え? 逆に透は知らないのか。えっ、本当に知らないの?」

「何だよ。はっきり言えよ。わからないから聞いてんのに悪いかよ?」

「あ、ああ。透だもんな、そんなもんか。いいよ、教えてやる」


 訳知り顔でご高説を垂れようとしている斎川が非常に苛立させる。こいつとは親友をやっているがこういう点だけは許せない。


「いいよ。他の人に聞くからおまえから聞くと後からめんどくさそうだし」

「いやいや。普通に話すから。ね? 聞いてくれると嬉しいなぁ」

「……何だそれ。まあいいや、話したいなら聞いてやるよ」

「ああ、じゃあ話すけど——」


 ムカつくやつだけど扱い方は簡単で意外と素直なところがあるのでこいつとの友人関係は破綻していないんだよな。基本的にはいいやつだしさ。


 で、聞いたことによるとああいうふうに女子が男子を迎えに来るのは、告白のためらしい。

 呼びに来た女子は、彼女の友人のため男子へ告白するお膳立てをしてやっているとのこと。その友人の元へ男子を連れて行くのが主な役目らしい。


 修学旅行名物らしいのだけど俺はそんなの全く知らなかったのでけっこう驚いた。


「告白する本人は来ないのか?」

「来ないんじゃないの。当人の代理で呼びに来るって言うのが様式みたいだし」

「ふーん。斎川のことは誰も呼びにこなさそうだな」

「うるさい、分かってるわっ」


 トランプゲーム再開だ。俺はさっき完全に負けて大貧民からスタートだけど、4が4枚揃っているので初っ端から革命と洒落込もう。


「ねえ、透いる? 山際透くーん! どこだーい」

「おい透。渡部が呼んでるぞ。ちくしょう、キサマ裏切り者だったのか?」

「あん? 何いってんだ、美和だぞ。あいつなら別に普通に遊びに来ただけじゃないのか」


 俺と渡部美和とは旧知の仲である。俺が小学校5年生のときに当地へ引っ越してきてからの長い付き合いになる。

 ただすごく仲が良くなったのは高校に入学してから。中学の時は一度も同じクラスにならなかったからたまに顔を合わせりゃ立ち話をするくらい程度だった。


 美和とは高校に入ってからは2年連続で同じクラスになっている。小学生の頃は気が小さく俺が転校してきたばかりの時おどおどしていたというのが彼女の俺いじりの十八番。

 いつまでもそんなに古い話で笑いを取るのは止めていただきたいところ。いくら言っても一向に聞いてくれやしないが。


 さて、快活な彼女のことだから男連中に混じっても女っ気なんか全く出さないで一緒に遊べるんだけどまさか一人で来るとはね。さすがに俺も驚くよ。


「どうした? 遊びに来たのか、美和」

「おお! 居た。違うぞ、透。チミに用事があるさるお方がいらっしゃるからお迎えしに来たんだぞ~」

「まじで?」

「マジでござる。じゃ、早速だけどついてきて」


 話し方がおかしいのは美和のデフォなので気にしてはいけない。それにしても俺のことを呼んでいるなんて何の用事だろう。


 ——女子が男子を迎えに来るのは、告白のため……。

 ——呼びに来た女子は、友人のため男子へ告白するお膳立て……。

 !!!!!!!!!!


「えっ!? ちょっ、まっ」

「なによ?」

「誰かが俺のこと呼んでいるの?」

「そういったじゃない。聞いてなかったの?」


 まさか本当に告白? 俺に?


「ややや、冗談じゃないよな?」

「やだ、テンパんないでよ。冗談でこんな面倒なことすると思う?」

「つまり美和に連れられた先に誰かいるってこと? 誰も居ないってことはない?」

「意味わかんない。呼ぶ人がいるからあんたのこと迎えに来たんじゃない。何を訳わからないこと言っているのよ」


 もしこれが告白イベントならば絶対に聞いておかないといけないことがある。


「美和。待っているのは美和の友だちか?」

「そーだよ。可愛い子だからね。コノヤロうまくやりやがって~ウリウリ」

「……いや、そういうの要らないから」

「ちっ、ノリが悪いなぁ」


 そうか。友だちなのか……。ならば余計に俺は行くことは出来ない。


「ごめん、美和。俺は行かない」

「なんで? まずは顔合わせだけでも……」

「無理なんだ。俺には好きな人がいる。だから、その子のところに行っても断るしかないんだ」

「えーもしかしたら、その子が透の好きな子かもしれないじゃん? 一回とりあえず会ってみてよ。もしかしたらすごく気が合うかもしれないし」


 それだけは絶対に有り得ない。いまから会おうとしている子は俺の好きな子の筈がない。


「行かない」

「理由も聞かずに断るなんて出来ないよ」

「言えないんだよ」

「言わなきゃわかんない!」

「ああ! もうっ! じゃあ、一回あっちの誰もいない方に行くぞ。どうなっても知らないからな」

「おうよっ」


 俺達は先生から入っちゃ駄目だと言われている一般宿泊客の部屋がある別棟のラウンジまで来た。

 6メートル四方くらいの部屋には誰も居なかった。ちょうどいい場所を見つけられたと思う。


「じゃ、座って」

「長いの?」

「長いっていえば長いかも」

「分かった」


 もう全部言ってやるって気持ちでここまで来たが、いざ言うとなると尻込みする。


「もう一度確かめるけど、美和が連れて行こうとした先には女の子が待っているんだよな」

「そうだよ。あまり待たせると申し訳ないから早めにお願いだよ」

「その子は美和の友だちなんだよな?」

「そうだね。親友だよ」


 俺はどうすればいいのだろうか。先延ばしにしてぼーっと生きてきたツケが一気にきたという感覚だよ。


「その子は俺の好きな子じゃない」

「そうは限らないじゃない」

「じゃ、名前を言ってよ」

「言えるわけ無いじゃん。こっそり連れてきてって言われているのに」

「それじゃ話が進まないだろ?」

「透がはっきりとあんたの好きの子の名前を言えばわたしから彼女に伝えるよ」


 そうじゃないんだって……。ああクソ!


「分かった……もう諦めて俺の好きな子を教えるよ」

「最初からそうしなさいよ……」


 俺はゆっくりと右手を上げて眼の前に座っている美和を指差す。


「俺の好きな子は……この子、だよ」

「…………!! えっ、えっ、えええ」


 言ってしまった。言わざるを得なかったので仕方ないが。こんな状況では言いたくなかった……。


「親友と俺を天秤にかけてくれ、なんてことは言わないし、言うつもりもない」

「え、あ、でも……」

「美和のこと混乱させるつもりはなかった。親友との仲を壊すつもりは俺にはないから、美和は何も聞かなかったことするか俺のことフッて友だちのところに戻ってもらいたい」

「うっ、うっ……」


 美和が突然泣き出してしまう。そういうのは想定してなかったのであたふたしてしまう。


「どどどど、どうした? ごめん! 俺のせいだよな。当たり前だ、もう美和とは絶交でもいい。それだけのことはあると思うんだ」

「ちがう……」

「え? 違うって、何が……。え? なにが違う?」

「うれしい……。わたしも透のことが……好き」


 ……え?


「本当に?」

「こんな嘘ついてもしょうがないでしょ」

「まあ、そうだよな……。でもそうすると」

「でも、れいちゃんのことも大切なんだよ……。わたし、どうしたらいいんだろっ」


 知らない間に両思いになっていたらしい。こんなときなのに嬉しいと思ってしまう俺がいる。

 しかしこれではことが余計にこんがらがってしまう。


「どうしようって言われても……」

「わたしっ、れいちゃんと透のどっちかなんて選べない! れいちゃんに透のこと呼び出してって言われたときも心臓が止まるかと思ったけど、なんとか表情に出さないように頑張ったのに」


 親友に自分の好きな人を呼んできてと言われるのも相当つらい経験だと思う。それなのに俺はそれ以上に美和のことを苦しめてしまっている。

 美和が俺を選んでしまえば親友との仲はそれまでになる。もしかしたら裏切り者の誹りも受けるかもしれない。また、親友を選んでしまえば、俺との仲はそこで終わる。たとえ俺がれいちゃんとやらを選ばなかったとしてもこれまでのようには接することは親友の手前不可能っていっても過言じゃないと思われる。

 俺も美和に選ばれれば嬉しいが、美和と付き合えばれいちゃんを始め周囲から何を言われるか分かったもんじゃない。美和と一緒ならそれくらい俺はなんともないが、美和は違うだろうし……。

 八方塞がりっていうのだろうか……。


 重い雰囲気があたりを埋め尽くす。


 パチパチパチ!

 突如場違いな拍手の音がラウンジの入口から聞こえてきた。俺等が振り返るとそこには女の子が一人。というか同じクラスの福岡さんだ。


「福岡さん?」

「れいちゃん!」

「れいちゃん? 件のれいちゃん?」

「友だちのれいちゃんだよ。透のこと呼び出した本人。れいちゃん、ごめんなさい……」


 れいちゃんだけでは誰だか分からなかったけど、福岡さんだったんだな。


「何を謝っているのよ美和。カップル誕生なんだからお祝いでしょう?」

「だって、れいちゃんは透のこと……」

「ごめん、山際くん。呼び出しとか嘘なんだ」

「は? 嘘ってなに?」


 福岡さんに説明してもらう。彼女の嘘なんだという発言に俺も美和も理由がわからず半分パニックになりかけている。


「まあとりあえず落ち着いて? あはは、ちょっとやりすぎちゃったかなぁ」


 福岡さんによると、美和は俺のことが好きなのにあと一歩を踏み出さないからちょっと背中を押すように小芝居を仕掛けたという。


「それだって、もし俺が福岡さんに普通に会いに行ったらうまく行かない作戦だろ?」

「まあね。美和も普通に山際くんのこと呼びに行っちゃうし。躊躇ってもんがないのよね」

「そもそも呼んでこいって言ったのはれいちゃんじゃない」

「そりゃそうだけど、そこはちょっと葛藤とかほしいところだと思うんだよね」


 まったく勝手なことを言っているよ。


「でももし俺が美和のことをなんとも思っていなかったらどうするつもりだったんだよ? そのまま福岡さんの告白を受けたらそこで計画は破綻するだろ?」

「え? それはありえないわよ。山際くんだって美和のことが好きなのバレバレだったじゃない」

「へ? ばれ、ばれ?」

「そうよ。ふたりともバレバレなのに分かっていないのは当人ばかりってやつだったもの」


 マジですか。


「それにね。うちにはちゃんと彼氏がいるので山際くんに言い寄られてもノーサンキューなんです~」

「さようで……」

「あ、ちょうどカレピから電話だぁ。もしもし、れいちゃんだよ~」

「おい、人との話の最中だろ……」


 俺と美和は顔を合わせて呆れる。


「だってさ」

「やられたね」

「背中押されてんじゃん。美和ってわかりやすいのかな」

「透だってバレバレだって言われていたじゃない」


 なんかホッとしたような気持ちで力が抜ける。見ると美和もそんな感じ。


「なんだかグズグズになっちゃったけど、美和、好きだよ」

「わたしも透のこと大好き」


 一応福岡さんにはお礼を言っておいたほうがいいのかな? なんだか言うのも癪なような気もしないでもないんだけど……。


 ま、とりま修学旅行最高! ってやつかな。


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