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地球で待ち合わせ

カフェテリアの奥のソファーに男が一人。

タブレットを手にして、何やら考え込んでいる。

どうやら、今流行りのゲームアプリ:[ あなたの人生の質問・YOUR LIFE QUESTIONS]

をやっているらしい。略して「YQ」。



SE音が片耳の貝殻型イヤーピースから流れる。彼は3ステージ目をクリアしたようだ。

軽快なSE音を聞きながら、タブレットから顔をあげ、手元の腕時計に目をやり、現在時刻を確認する。

店内をぐるっと眺めた。



(この店は穴場だな。いつきても混んでなくて、ゆっくりできる。このソファーも心地いいんだよな...)

彼はタブレットをテーブルに置き直した。



(もうそろそろかな....)

そう思いながら、

この店にくるといつもオーダーする、お気に入りのバニラが微かに香るコーヒーを飲む。

ゆっくりと、柔らかな甘い香りに目を閉じた。



ここは太陽系から16光年遠く離れた、ギアナス銀河団・カイロス系:第七小惑星:ディアス。

主に次世代宇宙型エネルギーや・時間・空間を超えた技術開発分野の研究機関が立ち並ぶ、学園都市を中心とした、平和な小惑星である。



「YQ」アプリとは、自動音楽生成アプリのことだ。

アプリから提示される「Word」や「画像」「音源」を元に、プレイヤーが連想した、いくつかの言葉を入力するとAIが言葉同士をつなぎ、その言葉の響きからバイブスを抽出し、

バイブスの強弱や明るさ暗さ、速度などが自動でMIXされ、メロディーを生成してくれる。


最近YQはアップデートがおこなわれた。

出生情報を入力すると、ネイタルが計算され、自分のネイタルと響き合う音源も生成されるようにもなり、YQ アプリ利用者同士でコラボも可能になった。


自分+AIから生成される、自分の中のバイブスと他の利用者とのバイブスを掛け合わせたり、足りないバイブスを補完したり、指定したジャンルに分配したりもできるので想定外の新しい響きが生まれたりもする。


自分にとっての心地良い響きを元に広がっていく。

新しいタイプのコミュニケーションツールとして人気急上昇中のアプリである。



2日前、彼はいつものようにランチタイム後にYQにログインして驚いた。

まだYQを始めてたった一週間ほどしか経っていなかったが、

なぜか突然、全YQの中から順位が急上昇し、シェア数ランキングのトップ5入りをしていたのだ。

ここ惑星:ディアスでは、アプリの利用者数は約3万人。3万人の中のトップ5だ。


 TOP5入りとなると自分の響きが広く行き渡り、また他の利用者(YQist)との、長尺のフレーズやリアルvoiceでの様々な繋がり、多数の反応やコラボ申請が来るようになる。



音楽好きで、ふだんは控えめで穏やかな性格の彼は、自分が人目を引くことをあまり好まない。

アプリでもランキングは気にせず、ただ自分にとって心地良いバイブスであるミディアム・スロウやアンビエント・チルアウト系を好んで生成していた。

コラボではどんなメロディを奏でるのか、

どんな新しい響きが生まれてくるのかをささやかな楽しみとしていた。



そんな中、予想外の思わぬランクインをしたことによって、彼には気になりはじめたことがあった。

常に最上位保持者である、不動のTOP「S.S.A」というアカウントの存在だ。


真っ赤な髪と真っ赤なハートメガネをかけたアニメアイコン。

「S.S.A」は、彼お得意のチルアウト・アンビエント系も生成しており、

彼自身もこれまでにS.S.Aが生成した1フレーズをコラボで共有して、心地良い響きをfavorite機能で何曲か保存していた。

そんなS.S.Aがチル系の真逆であるEDMや

ロック、テクノを生成し始めて、

そのジャンルでも常にNo.1にランクインしていることに彼は感心していた。


S.S.Aのプロフィールには

「地球大好き♁(地球を表す記号)

❤女子高生✌️」とだけ書いてあった。


(彼女から生成される響き、やっぱりなんかいいんだよなぁ。最近の若者はすごいなぁ..)


数分後、タブレットからライオンのアイコンが立体的に立ち上がり、やがて一人の男の顔が映し出された。


「よお!クラーク!さっき連絡が入って、あいつ、別の店に行っていたらしいんだよ。

ほら、アリカは3年ぶりに地球からディアスに戻ってきたから、こっちの変わりように迷ったみたいでさ。悪いな!あと30分後にはそっちに着くそうだから、待ってやってくれるか?」


「ああ、そうか。うん、分かったよカイル。YQやりながら、のんびり待ってるさ」


「サンキューな! あ、オレもさっきYQにUPしたよ。ゴリゴリのfunk!

じゃ、とりあえず またあとでな!」


幼馴染のカイルの妹であるアリカが、惑星調査研究の助手として地球へ留学後、

故郷であるディアスに3年ぶりに帰星する。

カイルの両親は共働きで忙しかったため、

3つ年の離れた妹、アリカを連れたカイルと

クラークとの三人で子供の頃からよく遊んだ仲だった。

アリカは兄のカイルとはちがい、ディアス生まれである。

今回の地球への留学は、男勝りでお転婆なアリカが震えあがるほど嫌がり、

断り続けていた、生まれて初めての「地球」への旅だった。

兄のカイルとともに、クラークについても

アリカにとっては2人の兄がいるようなものだっった。



実はもう一人、アリカには一番上の兄・カナタがいる。

カナタは神出鬼没で、たまにupされる画像共有アプリ「インスタントグラフ」

で楽しそうに現地の人々と一緒に写っていたりする。

どうやら惑星間を旅しているらしい。

ここ数年兄弟同士で連絡を取ることはあまりなかったが、

チャットを通じてお互いの近況が分かるようになった。便利な世の中である。



☆〜☆〜☆〜☆〜☆〜



今朝、明け方までレポートを書いていたクラークは ソファーに肩肘付き

いつしか沈み込みそうになりながらうつらうつらとし始めていた。

薄れゆく意識の中で、

名前を呼ばれたような気がした。

「ハロー! クラーク。お待たせ!」

もう一度、今度はハッキリと聞こえた。

その声に顔を上げると、

そこには、見覚えのある、真っ赤な髪の毛をした、ハートメガネをかけた女性がこちらを覗き込んで微笑んでいた。

クラークは、一瞬で目が覚めた。



──S.S.Aはアリカだったのだ。


ネット上では誰もが変幻自在に、好きな姿で自分を生きることができる。

クラークは早速、アリカにYQの話をした。

アリカも驚いていた。


アリカはクラークのアイコンについて、なんだか見覚えのあるアイコンだなと思っていたこと、

そして、たくさんあるfavorite機能で何曲かコラボをしていた曲を聴いて思わずお互いに笑い出した。


「不思議ね。ふふふ。どれだけ離れて、どれだけ時間が経っていても、繋がるんだね」


「そうだな。カナタにもこの曲をDMしたら、どんな顔するかな?」


2人がコラボしていた楽曲は、

昔々、4人が幼い頃、

カイルとクラークとカナタが、

まだ小さかったアリカが泣き止まない時に

3人がアリカのために作り、よく歌っていた曲と

同じメロディだった。


♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜


さて。


これから、この若者たちから


新たに、一体どんな楽曲が生まれて来るのだろうか?


未来がとても楽しみである。


宇多田ヒカルさんの「ELECTRCITY」からインスパイアされました。ずっとリピートしたい素敵な曲です☆

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