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7.いつも愉快な彼女

 どこかダークな洋館のような雰囲気のある廊下を歩く影が一つ。

 真っ白な白髪をなびかせ、COPSの初期スーツを着用している少女、イオである。


 彼女は友人である玲花との待ち合わせ場所、その一室の前まで着いた。部屋の扉は廊下の雰囲気と同じく木製であり、高級感漂う装飾が施されている。


 イオは自身の小さな手でドアをノックする。すると、ドア横のインターホンの小さなスピーカーから声が聞こえる。


「開けたよ。入って。」


 イオが金属製のドアノブに触れると、現実のものと変わらない、どこかひんやりした感触が掌から伝わってくる。

 ノブをひねり内開きのドアを開けると、廊下と同じような、まるで現実の洋風ホテルのような雰囲気の部屋が広がっていた。部屋の中央には四角いテーブルが置かれており、向かいの椅子に腰掛けるのは一人の少女。


 口角を少しだけ上げたそれは、どこか不思議で変わった雰囲気をしていた。

 金色の髪を左側で結いサイドテールでまとめ、その反対側にはドクロの髪飾りが付いている。そして、その黄金の髪の一部にはところどころ赤いメッシュが入っているため、どこかやんちゃな印象を受ける。

 前髪はエメラルドグリーンの目が上半分隠れるくらいに伸ばしており、その髪から覗く同心円状の瞳はまるでこちらの考えが見透かされているかのように感じる。

 顔は非常に整っており美しさと無邪気さが共存していて、イオから見ても満点であった。

 彼女の首から上の印象と反し、服装は黒のロングコートを着ているためどこか落ち着いた雰囲気がある。コートのせいでよく見えないが、薄灰色の上着を着用しているのは確認できた。

 コートの裾横から見える黒い色のスカートにはところどころ白銀の刺繍が入っていて、その下に覗く白い太ももがより強調されている。

 彼女の手は漆黒の影であり、指先は鋭利に尖っている。まるで炎のように揺らめくそれは人間のものとは思えなかった。しかし、袖から覗く手首から腕にかけては、漆黒の禍々しく波打つ手と違って他の肌同様美しく、それも相まってまるで不定型の手袋をしているようであった。

 しかし最も印象的なのは、彼女全体を覆うような黒いモヤである。黒いヴェールといったほうが正確かもしれない。そのヴェールは顔だけでなく体全体を覆っているようで、原理は不明だがたまに体が半透明に見えたりする。


「お、アバターもかわいいね、緋雪。」

「人間やめたんですか?玲花。」


 イオを緋雪と呼んだ少女は、もちろん彼女の親友、玲花であった。

 イオは玲花の前までやってくると、正面に向き合う形で椅子に腰掛けた。

 イオは真紅の瞳で彼女を見つめると、それに答えるように玲花は満面の笑みでイオを眺めていた。


「こっちでの名前は『ジロ』だからね。そっちは?」

「『イオ』です。宜しくお願いします、ジロ。」


 玲花改めジロは無邪気にニカっと笑うと、椅子から立ち上がりイオの横までやってくる。

 おもむろにイオの頬をガシッと漆黒の手で包む。そのまま引っ張ったりグリグリと回したり、好き放題イジりはじめた。イオはされるがまま、黙ってジロを見ていた。


「イオ~!かわいいね~!あれ、胸小さくなった?」

「ははへふのえ。(邪魔ですので)」

「えーなんでーもったいない。」

「…いいはへんはなひへふへまへんは?(いい加減離してくれませんか)」


 ジロはイオの頬から手を離すと、軽い足取りで再び自分の椅子に座った。


「どう、COPSの感想は?」


 ジロはニヤニヤとした笑みを浮かべてイオに聞く。イオは自身の純白の髪の毛を弄りながら口を開いた。


「そうですね。先程変な人に絡まれた点を除けば、いいと思いますよ。」

「あー」


 イオの言葉に、ジロは共感したような苦笑いをした。


「勧誘してる連中はだいたいあんな感じなんだよね。専用の掲示板とか使えばいいんだけどね、なにがしたいんだろうね、あれ。」


 バツの悪そうなジロの言葉に、イオはほんの少しだけ申し訳なくなった。


「別に、あの人達が不快だっただけで、このゲーム自体は楽しみにしていますよ。色々教えて下さい。ジロ。」


 イオがそう言うと、ジロの表情は霧が晴れたように明るくなった。


「私も楽しみだよ!ありがとー来てくれて!イオかわいいね!」


 ジロの様子につられ、イオも普段より口角を上げて笑った。


__________


「ジロのその見た目、何なのですか?」

「ああ、これね。」


 イオはジロの見た目について色々聞きたかった。最初は人間種しか選択できなかったはずだが、今のジロの見た目は人間離れしている。


「これは精霊種っていうアスピア現住種族なんだけどね、かなりレアなんだ。『闇の原精霊』っていう種族。特殊イベントをクリアすることで種族変更条件が満たされるんだけど、イオにだったら教えてあげるよ?ちょー難しいけどね。」


 イオは特にその種族になりたいわけではなかったので、今は大丈夫、と断りをいれた。

 そっか、とジロは呟くと、なにやらコンソールを操作し始めた。すると、程なくしてジロの横に光エフェクトが発生し、光は筒状に集まる。光が静まり止むと、そこには筒状の入れ物に入った液体があった。


 ジロはイオに向かってそれを投げると、イオはキャッチ…は出来ずに床に落ちた。


「あっごめん、それ美味しいから良かったら飲んで。」

「ガサツですよ、まったく。」


 イオはその飲料を拾うと、まじまじと見つめる。どうやら容器はペットボトルとほぼ変わらないようで、中に朱色の液体が入っていた。


「ミゼルベリーっていう架空の植物の実を絞ったジュースだよ。オリジナルテイストだって。甘くてさっぱりだよ~。」


 イオはボトルを開こうと、手に力を込めてキャップを捻る。ジロは話を再開した。


「イオはどんなクラスにしたの?」

「私はっ、研究者っ、にっ、しましたっ…くう…」

「…開けよか?」


 イオはボトルをジロに渡すと、いとも簡単にキャップが開いた。


「リサーチャーね、いいじゃんイオっぽい。レベリング付き合ってあげるね。」


 イオはお礼を言ってキャップが開いたボトルを受け取る。


「そういえば、経験値ってどうやって入手するんですか?最初の説明聞いた限りかなり大変そうでしたけど。」


 ボトルを口元に持っていき、一口液体を口に含む。すると、鼻を抜ける爽やかなミントのような爽やかさとオレンジとベリー系を混ぜたような甘さが口に広がった。後味はちょっぴり人工甘味っぽい味である。


「チュートリアルであった通り、経験値は何しても手に入るよ。歩いても手に入るし、乗り物に乗っても手に入る。まあ、そんなんじゃ効率が終わってるからほとんど無意味だけどね。効率よく集めたいなら、お金で買ったり、生物を倒したり、技術の研究をしたり、宇宙軍艦でバンバン撃ち合って敵を倒したり…まあ、そんな感じかな。おすすめはお金で買って入手する方法だね。」


 ジロの言葉を聞き、イオはある疑問が浮かぶ。


「そもそも、お金ってどうやって稼ぐんですか?」


 ふつうのファンタジーチックなRPGであれば、敵を倒すことで経験値もお金も手に入るが、この世界においてそんな様子は見受けられなかった。そもそも、あたりは大都市であり、この惑星で田舎に行くにはかなりの距離があるように思える。


「そこがこのゲームのほかとは違うところなんだ。最初のうちはね、お金を稼ぐ方法は課金か労働しかないんだよ。それを乗り越えれば、新しく見つけた惑星を統治して原住民から税金取ったり、鉱山を開発したり、宇宙船作ったりして、いくらでも稼げるんだけどね。」

「初心者に厳しいですね、それ。」


 イオがそんな反応を示す中、ごくごくと飲み物を飲んでいると、ジロは再び何かを出した。それは、形を見る限りは小さなカップケーキのように見えるが、色が真っ青で食欲をそそられないものであった。


「…」


 無言でイオはそれをジロから受け取り、口に入れてみる。すると、思ったより悪くない味だ。甘さが控えめのブルーベリーのようなフルーティーな風味があった。それでいてシフォンケーキのようにふわふわで口あたりなめらかだ。


 ジロはイオの様子を眺めながら話を続ける。


「まあ、最初のうちは稼ぐのは厳しいんだ。でも、借りることはできる。」

「借りる、ですか?」


 ジロは首を振って肯定した。


「アスピアには金持ちがたくさんいるんだよ。プレイヤー然り、NPC然りね。そいつらに借りる。そこはシステム的に保証されているから、NPCは普通、融資してくれるよ。」

「でも融資ってことは、利子込みで返さないといけないのでしょう?」

「まあね。NPCの融資は、きちんと返すとお得な情報をもらえたりする。例えば、新たな惑星の座標に関連する情報とかね。逆に返さないと、プレイヤーの志向がそれにつられて傾く。トータルで考えたら悪影響かな。常習犯になるともう融資は受けられなくなるし、最悪アスピアの軍隊に攻撃されたりするかも。」


 つまり、お金を借りてレベルを上げて強くなることで、自分で稼げるようにする。それからお金をためて返せば良いわけだ。


「なんか、妙に現実っぽいですね。なんだか楽しみになってきました。」

「ま、そんなことしなくても、イオになら私がお金あげてもいいけどね~」


ニヘラと笑ったジロを見て、イオもまた微笑むのだった。


もう少しで本番かけそうです。耐えてください。

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