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4.傑作故の眠くなる説明

 緋雪は入力画面下に表示される『決定』ボタンを押す。

 部屋全体が発光し、コンソールが光の玉となって緋雪のもとに飛び込む。

 同時に、緋雪はこの世界で『イオ』という名前を得た。


「スペースオペラチックな世界観のゲームとのことなので、木星の第一衛星イオから名前をお借りました。イオはギリシア神話の女神『イーオー』が語源となっていて、そのイーオーは牝牛に姿を変えられた哀れな神です。たまに牛などと揶揄される私にぴったりな名前ですね。」


 彼女の牛という別称(蔑称!)は主に彼女の大きな胸が要因である。と本人は思っている。実際は、彼女の運動嫌い故のぐうたらな生活態度を揶揄しているものであった。


 と、ここまでの緋雪の説明は目の前の全身真っ白な自身の代理NPCに向けたものである。NPCは反応するでもなく困惑するでもなくただ黙っていた。


「今の、笑うところですよ?」

「次に、ゲームの説明を始めたいと思います。」

「え、シカトですか」


 ますますクレーム入れたい欲に駆られつつ、とりあえず代理NPCの言葉に、緋雪改めイオは「説明、宜しくお願いします。」と小さく返事をした。


「この世界では星系外宇宙航行技術が確立しています。あなたが望むなら、深宇宙探査や惑星の開発をすることができます。」


 話に聞いていたとおりであった。

 話のスケールが大きくて長くなりそうである、とイオは思ったが、具体的なプレイ方法もわかっていなかったので、大人しく説明を聞くことにした。


「勿論、星系外に出ないで自由に母星を探検したり、新技術の開発を行うこともできます。」


 ここにきてイオは、もしかして人を選ぶゲームかも知れない、と思い始めた。

 昨今の没入型VRゲーム市場は、どうも異世界ファンタジーであったり、チーム制の銃火器を使用したシューティングゲームが人気だからである。


「そしてこれは最も重要なことなことです。すべてのプレイヤーには特別な力が備わっています。」

「特別な力ですか?」


 聞き返すと、代理NPCは真っ白な顔のない頭を縦に振った。


「それは超能力と呼ばれています。それらの特別な力が使える存在を『感応者』、あるいは単に『超能力者』と呼びます。」


 このゲームがヒットした理由がなんとなくわかった気がした。


「皆好きですもんね。特別。」

「プレイヤーはプレイスタイルにかかわらず、皆、超能力を扱うことができる感応者です。プレイキャラクターを強化し、仲間とともに広い宇宙を楽しみましょう。」


 説明が一段落ついたところで、『次の説明に進みますか?』という選択肢が出た。

 『はい』をタッチし、説明は続行される。


「では、プレイキャラクターについての説明に移りますね。後からでも説明を見ることができるので、わからなかったらウインドウの『説明」から御覧ください。」

「ご丁寧にどうも。」


 イオは暗記モードに切り替えた(やる気出すの意)。


「キャラクターにはレベルと呼ばれる数値が割り振られています。数値が高くなるに連れてキャラクターの性能が上がります。」

「なるほど。昔からあるタイプですね。私でも知っていますよ。」


「説明を続けます。キャラクターレベルは『クラスレベル』と『属性レベル』で構成され、プレイヤーの場合キャラクターレベルは200レベルが最大値です。」


 ここで、玲花が「レベルカンストしてからがこのゲーム本番だから」と言っていたのを思い出す。


「『クラス』はキャラクターのプレイスタイルの根幹、職業に当たります。多種多様なクラスが存在し、クラスレベルの最大値は基本的に50レベルです。クラスによってステータスの上昇値が変わり、習得できるスキルや魔術・能力も変わります。」

「つまり、最大レベルが200の中で、自分に合ったクラスを構成する必要があるのですね。」

「おっしゃるとおりです。」


 例えば、『ソードマスター』のクラスを最大50レベルにしたら残り150レベル分の上限幅に合わせてほかのクラスを組むというわけである。


「極端な話、レベル1のクラスを200個組むということも可能ということですか?」


 イオが質問すると、代理NPCはそうですね、と同意したうえで追加の説明をする。


「ただ、キャラクターレベルを構成するもう一つの要素、『属性レベル』を考慮しなければいけません。」

「属性ですか?」


 イオは、クラスメイトが「四谷さんは男子が好きな属性てんこ盛りだよね」と言っていたことを思い出した。

 もちろん、それとこれとは全く関係ない。


「属性は、例えば基本となる『熱』『空』『電』の系統や、元素系統をはじめとした多くの種類があります。属性レベルは最大10レベルまでで、こちらもキャラクターレベルを構成する要素となります。クラスと属性は必ず一つは選んでもらうため、プレイヤーは初期レベルが2の状態でスタートしてもらいます。」

「なるほど。」

「ただし、属性レベルは上げてもステータスが上昇しません。なので、属性レベルをたくさんキャラクターレベルに組み入れてしまうと、より多くのクラスレベルで構成されたプレイヤーに性能で劣ってしまいます。」


 要するに、例えば10個の属性レベルをMAXレベルの10レベルまでカンストさせると、1つの属性をカンストさせたプレイヤーと比べて90レベル分ステータスが低くなるということである。


「カンストしてからが本番、というのはこういう意味ですか。」

「ご理解いただけましたか?」


 イオはコクリと頷いた。


「次の説明に移ります。ステータスは、

攻撃力や扱える装備に関連する『筋力』、

多くの技術やスキル、魔術に関連する『知力(賢さ)』、

攻撃を受けた際のダメージ量に関連する『防御力(守り)』、

素早さに関連する『俊敏力(素早さ)』、

エンジニアリングに関連する『巧緻力(こうちりょく)(器用さ)』、

超能力発動の際に必要な『魔力』(MPと表示)、

運動能力に関連し、0になったら死亡する『体力』(HPと表示)があります。」


「予想ですが、直接戦闘系なら体力や筋力系が増えやすく、生産系なら知力や巧緻力が増えやすい、そんな認識であってますか?」


 イオが質問すると、代理NPCはハイ、と頷いた。


「そして、もう一つ。ステータスには『志向』というものが存在します。」

「志向、ですか?」


 イオはなんとなくネットで話題になっていたのはこれだったな、と思い出した。


「『志向』はキャラクターの考え・理念・思想を意味します。プレイキャラクターがどんな志向を持っているかによってNPCの態度や対応が変わります。」


 これはつまり、極端な話だがNPCを殺害しまくっていれば、プレイヤーのキャラクターはそれ相応の志向になるため、善良なプレイヤーに比べてNPCの態度はかなり変わるというわけだ。


「特殊なクラスやスキル獲得の条件にも関わるので、プレイスタイルは計画的に決めましょうね!」


 代理NPCは親指をぐっと立てた。


「まあ、そのあたりは後々ですね。」


 イオは、玲花はβテスト当初からの古参プレイヤーと聞いていた。なので、明日にでもCOPSについて玲花に聞くつもりである。長い説明文を読むより、知っている友人に聞くほうが早い。


「以上でプレイキャラクターについての基本説明は終わりです。次は母星系とそれに属する国家の説明を…」

「それ、長くなりそうですか?」


 イオが割り込んで聞くと、代理NPCは頬に指をあてて少し考える素振りを見せた。その後で、顔のない頭を縦に振って見せたのだった。


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