14.闇の円卓会議
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奈落城の最深部の大会議場。薄暗く荘厳な雰囲気に包まれたこの部屋は、ギルド「エクリプス」の方針を決定する最高意思決定会議を執り行うための場所として作られた部屋である。
豪華絢爛というより、シンプルな紺色と黒のテーマで統一された配色で、まるでそれはおとぎ話に出てくる悪魔の城のようであった。それと同時に、シャンデリアが宙に浮いたような不思議な光源が、あまりにも高い天井を飛び回る幻想空間でもあった。
中央に置かれた巨大な円卓を取り囲んでいるのは、ギルド「エクリプス」の幹部メンバーたちである。エクリプスのメンバーは計30人と比較的小規模でありながら、この場出席できる「幹部」の肩書を持つ人物はわず9名であった。普通の少人数ギルドならば全員が出席しても良いはずであるが、そうできないのはこのギルドの「超秘密主義」とも言える形態のせいである。
その9名の中にイオとジロは名を連ねていた。よって、当然この会議に参加している。
「『ノンレム』さんと『アマヅカ』さん以外は揃ったようですね。」
そう発言し会議を取り仕切るのは、一番奥の座席に座る男である。蛙と蜥蜴を足して半分で割ったような外見のエイリアン種族『グレプト』のこの男こそが、ギルド「エクリプス」の最高責任者でありギルド長の、プレイヤー『トロロ』である。
「今ログインしているこのメンバーでもう初めましょうか。じゃあ、早速だけど、順番に成果報告をお願いしますね。まずは『ポルカ』さんから。」
トロロが指名したのは、エクリプスの最も優秀な諜報工作員のポルカである。ここにいるメンバーの中ではかなり人間に近い外見の少女であった。
「は~い、現状報告しまーす」
彼女は自身の短く切りそろえてある黒髪を揺らして、ご機嫌にコンソールを操作する。すぐに、彼女が作成した報告書がメッセージウインドウを通して、室内のメンバーに送信される。
「えーまずなんだけど、帝国の情報はいまいちですよ。セキュリティ硬いんだわ、これが。」
報告書を見ながらポルカの説明を聞いたトロロが唸るが、ポルカは続ける。
「あーでも、全く収穫がないわけじゃなくてね、なんか今あいつらでかい船作ってるじゃん?だからそこばっかに人員が集中してるっぽくて、ぐーぜん警備が甘かったデータセンターから艦船の設計図盗めたんだよねー!」
一同が感嘆の声を漏らすと、自慢げに胸を張ってポルカは続ける。
「艦種は多分、フリゲートだかコルベットかな?ほい。」
ポルカは設計図のデータが入ったチップをトロロに投げ渡す。トロロはそれをキャッチすると、「流石です」と感心した。
ポルカが説明を終えると、トロロは続いて自身の隣の人物に目を向ける。
「では次、『カムイ』さんどうぞ。」
トロロに指名されたのは全身が機械でできた人型のプレイヤー、カムイだ。彼は一見単なるロボットに見えるが、脳などの重要器官は生態部位なので、サイボーグに分類されている。
彼はエクリプスの非常に重要なエンジニア系生産職として重宝されている。戦闘職が多いエクリプスにとってなくてはならない後方支援特化のプレイヤーだ。
「はい。計画していた我々の旗艦…マザーシップですが、概ね船体や中央制御コンピュータ、動力炉などは完成しました。しかし、推進力装置となるスラスター、巨船をジャンプするに足る高性能のドライブなど、まだ技術的に足りないコンポーネントは多いです。」
カムイの報告を聞いて、トロロは満足そうに頷いた。
「そこは、『テクノカルテル』の技術者やポルカさんに期待ですね。重要事項は聞けたことですし、他になにかある方、います?」
トロロが問うと、二人が手を上げた。一人は二足歩行のウサギのようなプレイヤー、もう一人はイオである。
「じゃあ俺から良いか?」
「どうぞ、『寂兎』さん」
イオはウサギようなプレイヤー、寂兎に順番を譲ると、彼は「どうも」とイオに短く礼を言う。
「でかいアプデが来週来るのと同時にバトロワみたいなイベントもやるらしいんだと。で、質問なんだけど、こんなかで誰か出るつもりの人いる?」
寂兎が自身の前足で頭を掻いていると、一人が挙手する。
「私、出ていいかな?」
挙手したのはジロである。
「お前は目立つからヤメロ!!それにお前出たらどうなるかなんて結果は目に見えてんだよ!!」
「ケチだなあ。」
ジロは不貞腐れ、寂兎が喚いていると、寂兎は隣りからポンと手を肩に置かれるのを感じた。
「ジロが規格外なだけで、お前も強いから。そう当たるなって。」
「おめーに言われたくねえよガイア!!」
寂兎を慰めたプレイヤー、『オードガイア』は、寂兎の白い毛が心地よい肩に置いた手を、彼の頭頂部から生えたウサ耳の付け根まで持っていくと、頭をゴシゴシと擦り始める。
オードガイアもまた、見た目は人間に限りなく近い短髪赤毛の人物である。ただし、彼の頭頂部には漆黒の鱗で包まれたツノが一対生えていた。
「てめ、やめろ、鬱陶しい!」
寂兎がガイアの手をどかそうとしていると、トロロは少し困惑した様子でいた。
「会議、続けていいですかね…」
「へいほら男子!会議続けていいカナー?ってトロロさん困ってるよー?」
トロロの代わりにポルカが注意すると、寂兎とガイアは静かに自身の席に座った。トロロは少しいたたまれない気持ちになった。
「あー、じゃあ、最後にイオさん。お願いします。」
トロロに指名されたイオは、小さく返事をして報告を始める。
「現在、私のスキルによって操作している別アバターで、連盟に潜入しています。まだ収穫はありませんが、そのアバターでは『リオ』と名乗っているので、覚えておいてください。」
イオが室内全員のコンソールに送ったのは、全身を包帯で包んだローブの少女『リオ』の画像であった。
「現在は情報収集に使用していますが、今後別の用途でも役に立つと思います。何かあったら私までお願いします。以上です。」
「ありがとうございます。さすがですね、イオさん!頼りにしてますよ!」
トロロが褒めると、イオは小さく会釈をした。
「へー。それって強いの?今度僕と勝負しない?」
ガイアがイオに提案すると、彼を一瞥して、
「遠慮します。」
とだけ言った。まだガイアが何か言っているが、イオは大きくあくびをして、今日の夕飯のことを考えていた。
「他にはなにもないですか?では、これにて報告会議を終了します。解散!」
トロロの解散の合図で各々が部屋から出る。
さて今日の課題をやらなければ、とイオはログアウトしようとしたところ、イオのもとに黒髪桃色メッシュの少女、ポルカがやってくる。
「イオちゃーん、ねね、ちょっといい?」
ポルカは、イオの目をまっすぐに見つめる。彼女は、まるでいたずらを思いついた少年のような笑みを浮かべていた。




