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13.暗黒郷にて

設定を多く出したので、もしかしたらちょーっとわかりにくいかもしれません。その際は後々書き足したりするかもしれませんがご了承ください。

 超巨大ブラックホール『N2』の軌道を公転する漆黒の惑星、『ディストプル』。

 ディストプルが位置するこの座標は、複数のブラックホール群生地であり、複雑な重力井戸が絡み合いっていた。そのため宇宙船での到達が極めて困難で、まるで秘匿された場所である。

 通常惑星に比べればこのディストプルは異質そのものだ。たとえば、この惑星の地表にいる生物の寿命は3分の1になり、工業や農業などの生産活動の効率は通常の3倍になるという特性がある。これは、ブラックホールの超重力が時空に及ぼす影響によって時間が遅くなるという特性を、ゲーム的に再現した結果である。

 宇宙から見ると漆黒の宇宙空間と同化しているが、軌道上から見るとその惑星名からは考えられないほど生物豊かな惑星である。ブラックホール軌道上という特殊な環境下でも生物居住が極めて高い理由は、N2による重力潮汐加熱と降着円盤が太陽と同じような役割を果たすためである。見た目や『ディストプル』という名前からは想像もできないであろう。最も、この惑星名を考えたのは数ヶ月前にやってきたあるプレイヤーではあるが。


 ディストプルの赤道周辺の地表には惑星首都である大きな街がある。ここは、ギルド『エクリプス』の拠点『奈落城』を中心として栄えている暗黒郷であった。これは、この惑星がたった一つのギルドによって独占されている証でもある。

 奈落城の最深部のラボにて、ある少女が椅子の上で目を覚ます。長い白髪と偶蹄目のような横長の瞳を持つ赤い眼が特徴的な、白衣を着た少女であった。まるで悪魔を連想させる奇妙な瞳にも関わらず、その少女はあまりにも美しい美貌を持ち、それが返って不気味な雰囲気すら感じさせる。

 少女が振り向くと、ちょうどそのラボのドアが開き、入室する影が一つ。


「潜入はうまくいった?イオ。」

「はい。それと、入る際はノックをしてください、ジロ。」


 入室してきたのは闇を纏いし少女、ジロである。ジロは、先程目覚めた白衣の少女、イオを労う。


「初期アバターも可愛かったけど、やっぱ今のアバターがしっくりくる!」


 イオが最初に決めた種族『人間』としての外見から今の種族『ヴァンパイアキメラ』の外見はさほど変化がない。純白の髪も真紅の瞳も変わっていない。強いて言うなら瞳孔が偶蹄目になったくらいだ。だが、初期の人間種には感じられない特有のオーラがあった。

 ジロが自身の闇を纏った手でイオの頭を撫でると、彼女の無表情な顔は少しゆるんで照れくさそうにジロの手を除けた。


「『リオ』の方は順調?」


 ここにはいないはずの人物の名前を出してジロが問う。イオは腰掛けていた椅子から降りて背伸びをすると、「はい」と肯定して欠伸をした。


「アスピアの連盟支部には問題なく潜入できました。あちらのプレイヤーに絡まれて少し面倒でしたが、決闘を挑まれたので倒しましたよ。」

「まじか!」


 イオはそう語りながら机上のビーカーに清潔な水を入れてそれを火の上に設置する。ひと仕事終えたあとの紅茶をいれるためである。


「ほんと、便利なスキルだね。その『憑依』ってヤツ。」

「違います。『完全部分憑依改』です。通常の『憑依』だと長時間使用できませんし、憑依先の最大レベルは100以下ですからね。」


 イオはそのように訂正しながら、沸いた水を紅茶パックが入ったマグカップに注いだ。

 『完全部分憑依』は一般には知られていないであろうレアなスキルであり、イオが独自に発見したスキルでもあった。

 紅茶を一口飲んで一息すると、ジロは先程イオが座っていた椅子に腰掛ける。


「まさか秩序派の上位プレイヤーに憑依した人造キャラクターで勝つなんて、イオって運動音痴なだけで戦闘センスはいいよね。」


 腰掛けたまま細く長い脚をブラブラと遊ばせるジロを横目に、イオはもう一口紅茶をすする。

 ジロの言う通り、実際イオにセンスはあった。現実(リアル)だと体が追いつかないだけで、ゲーム内であればそれが思い通りにできるので、近接戦闘だって人並み以上にはできるだろう。


「こちらの本体で戦闘して無い分、思い切り暴れられて楽しかったです。」


 『リオ』はイオにとって消耗品であり、本体ではない。リオは十分な装備をしていないので、失うものは少なく、思い切って戦闘できていた。本体の『イオ』にはそれほど高い戦闘能力がないので、完全部分憑依改はイオにとって非常に重要なスキルであった。

 このスキルは潜入工作という面で非常に革新的であったが、デメリットがないわけではない。まず、死亡すると、憑依している人造キャラクターは復活できない。レベル200の人造キャラとなると、非常に制作が大変であった。それに、人造キャラクターとして所有しているアイテムは死亡時にすべて落としてしまう。ちなみに、通常プレイヤーのデスペナルティは、経験値一定数のロストと所有アイテムの20~50%のドロップ程度である。


「人造キャラクターの改良はまだ必要そうですね。火力をもっと上げたいです。」

「もう最大出力で小型核爆弾くらいの威力はあるのに?個人で宇宙艦船とでも戦う気?」


 完全部分憑依改は、確かに潜入や偵察などには向いているが、本来であれば戦闘には向いていなかった。イオはこのスキルを有効活用しようと、生物学特化の研究職業でふさわしい人造キャラクターを開発しているのである。

 『リオ』は未だに開発途上のキャラクターであった。


「もっと魔術府を刻めるはずです。皮膚、内蔵だけでなく、骨にも刻みましょう。拒絶を抑えるためにいくつかの薬物を投与して、何種族かのDNAデータも取り込ませたいですね。それと、念の為に帝国が新らに発見したという惑星の原住種族の情報も欲しいです。」


 イオは上機嫌でマグカップを持って机に腰掛ける。イオの言葉を聞いたジロは目を輝かせた。


「じゃあさ、リオが完成したら、私と戦ってみようよ!」

「絶対に勝てないので遠慮します。」


 イオがバッサリと断ると、ジロは頬を膨らませて不貞腐れた。

 ジロは秩序派やそれに属するNPCから【キラー・デリート】と呼ばれ恐れられている。

 それほどまでに圧倒的な戦闘力で、個人派ギルド連合『情報部』が発表したプレイヤー戦闘力ランキングでは堂々の1位と評されるくらいである。

 ちょっと強いくらいの人造キャラクターでは彼女には勝てるはずがなかった。


「それで、連盟の情報と技術は盗めそう?」


 イオがリオとして連盟に潜ったのはあらゆる情報や連盟が持つ豊富な技術を盗むためである。そのためにはあちら側の上位のプレイヤーと関わるのは必須であった。


「まあ、ぼちぼちですね。宇宙工学系の技術はあまり期待できなそうです。個人が使用する武器の技術であったり、それに関するアイテムの情報、それと帝国に関する情報は期待できそうですね。」

「まあ、帝国の技術関連の情報はポルカさんに任せているから、新種生物の情報も合わせてお願いしようか。」


 じゃ、と別れの挨拶をしてジロは部屋から退出する。イオは、リオの瞳にてキャプチャした映像を見返す。ヒーロー『氷勇のレイ』との戦闘、連盟支部の内部構造、そしてレイが『らーさん』と呼ぶ技術職プレイヤー『らーめん』の部屋。


「少々面倒ですが、『あの人達』と連携しつつ、惑星軌道上から爆撃でもしてみましょうかね。」


 普段あまり動かない唇の端を上げ、イオは微笑んだ。


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