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12.炎VS氷

主人公が悪サイドだと、どうしても別キャラ視点が多くなってしまう。

 ヒーロー連盟アスピア支部の地下には巨大な模擬訓練がある。

 この訓練所の無機質な白い地面は特殊合金でできているため、たとえ戦艦クラスの宇宙艦船に砲撃されたとしても、完全に破壊するにはかなりの時間を要するだろう。

 フィールドの壁は青白く発光した光子デフレクターと粒子バリアという2つのシールドに包まれているため、こちらも生半可な攻撃は通らないようになっている。

 円形のバトルフィールドの広さはサッカーコート以上であり、1対1の戦いをするには過剰な広さである。

 

この広大なフィールドの中央部で、レイとリオは向かい合って立っていた。無論、レイがリオに戦いを申し込んだためである。

 観戦席には二人の戦いを見ようと他のプレイヤーが30人ほど集まっている。その中にはライズや支部長の姿もあった。

 観客たちは、秩序派上位プレイヤーの一角であるレイが戦いを挑んだということもあり、固唾をのんで二人を見守っているのであった。

 そんな中、当の二人はリラックスした様子で会話をしていた。


「それで、あなたの新しい武器とやらはそちらですか?」


 リオがレイに問いかけると、レイは自慢げに自身の武器を見せる。


「ええ。私のギルドメンバーが制作した片手剣、『染魔剣サイオニック・ヴェノム』よ。ランクはA相当かしら?」


 アイテムは性能やレアリティによってE~SSSランクに分けることができる。最高峰のS~SSSランクはそれほど性能に違いがなく、所有しているプレイヤーはかなり少ないので詳細は一般的には知られていない。Aランクアイテムは、プレイヤーが作成できる限界のランクである。最も、Aランクアイテムを制作できるプレイヤーなんてほんの一握りであるが。

 レイはその漆黒の刀を片手で構える。すると、漆黒の刀身がみるみる青白く変化していく。完全に先端まで色が変化すると、剣身から冷気を放ち始める。


「なるほど、あなたの力に合わせて変化する装備ですか。面白いですね。」


 剣を構えたレイと対象的に、リオはなんの準備もせずに立ったままだ。レイや観客から見て、それは少し不気味に写った。


「先に相手のHPを残り20%まで減らすことで勝利となります。準備はよろしいですか?」


 場内アナウンスがそう告げると、ようやくリオは構え始める。右手で銃を模した形を取り、人差し指をレイに向ける。


「開始!」


 開始の合図と同時にレイは間合いを詰めようと脚に力を込める。だが次の瞬間、凄まじい熱気が彼女を襲った。


「『獄炎(フレイム)』」

「っ!『氷結界(フロストシールド)』!」


 レイを襲うはずだった真紅の炎は彼女の前に現れた巨大な氷の盾によって阻まれる。だが、その熱波はあまりにも強く、彼女の盾はすぐに蒸発してしまった。

 盾が消えるまでの数秒、間一髪でバックステップをして間合いを取る。おかげで大きなダメージはなかったが、いまの一撃でレイのHPは少し減ってしまった。


 炎が止むと、レイは回り込んで凄まじい速度でリオに迫る。まるで地面を這うように姿勢を低くして遠距離攻撃を当たりにくくする。リオが遠距離攻撃タイプならレイの速さを目で追えるはずがない。レイは尽かさずリオの足首めがけて剣を振るう。だが、今度はリオが掌を地面に向ける。


「『液炎(メルトバーン)』」

「『レジスト』!」


 リオは地面めがけて魔術を放った。その炎はまるで滝のように地面に落ちると、液体のように這って広がり、レイ目掛けて流れる。防御している暇はない。攻撃を優先してレイは完全な防御を諦め魔術抵抗だけに留める。その甲斐もあり、剣はリオの脚を斬りつけることに成功する。

 だが、レジストできたとはいえ正面から彼女の攻撃にさらされたため、レイのHPは現在8割ほどになった。

 二人は同時に一瞬で距離を取る。


「流石ですね。足を狙うなんて。」

「そうね。でも、まだ終わりじゃないわよ。」

「!?」


 レイが持つ染魔剣サイオニック・ヴェノムは使用者の力に染まって属性を変化させる。そして、使用者の強さによって強さが変化する。

 リオの足元が凍り始めた。動きが鈍くなると同時に氷結のスリップダメージが発生し、リオのHPが減っていく。レイの属性は氷系統であるため、その属性ダメージが剣を伝い、切りつけた部位から侵入したのであった。やがて、リオの足の傷口から血液を凍らせながら徐々に氷塊が現れ、彼女の脹脛まで完全に包みこんだ。


「脚が動かなくなりました。」


 不思議そうに自身の足を見ながら首をかしげるリオを横目に、レイは再び剣を構える。


「これで終わりよ!」


 再び一瞬で間合いを詰めると、剣はリオの首めがけて軌道を描く。だが…


「えっ!手で!?」


 その剣はリオの首には届かない。リオは自身の首に迫る染魔剣サイオニック・ヴェノムを左手で受け止めたのであった。

レイは彼女の左手を切り裂きながら剣を引き抜くと、再び距離を取る。

 レイはリオのHPを確認する。リオの左手はもはや使えない状態となり、彼女のHPも半分以上減った。だが、即死を防いでみせた。


「反射神経が随分といいようね。」

「そうですね。でもその反射に体が追いつかないので、あいにく私は近接戦闘が苦手です。ですから、もう終わらせます。」


 その言葉にレイは警戒する。リオは足があの状態なので動けない。ならば遠距離攻撃。だが間合いを詰め、速攻でもう一度攻撃すれば勝ちだ。だが、彼女の第六感ともいうべき本能が、目の前の包帯の少女をひどく警戒していた。

 リオは右手をレイに向けて突き出す。すると、無数の陣が彼女の掌の上に広がる。


「なっ!」


 1つ目の魔法陣が掌に描かれると、次はそれよりも大きな陣が展開され、その次は彼女の掌よりも巨大な3つ目の陣が、更に4つ目、5つ目とどんどん展開されていく。


「い、一体何なんなの!?」


 警戒して距離を取り防御に徹する方が良かったかもしれない。だが、レイはとても嫌な予感を感じ取っていた。レイは再び間合いを詰める。だが、遅すぎた。

 リオの右手に展開された魔法陣は全部で8つになり、直径は2メートルを超えるほど巨大なものであった。


「ごきげんよう。『獄炎(フレイム)×8』」


 次の瞬間、辺りは轟音とともに圧倒的な光に包まれる。観客席の方まで広がる灼熱は闘技場に展開された2つのシールドによって阻まれるが、振動が貫通し観客席までガタガタと揺れる。圧倒的な爆炎と煙によって観客からは二人の様子が全く見えなかった。


「ど、どうなったんだ?」

「最後、あいつは何をしたんだ?」


 観客がざわつき始めると、次第に煙が晴れる。

 そこには、立ち尽くすリオと地面に伏せているレイの姿があった。

 ライズは二人の様子をじっと観察する。すると、レイが光の粒子となって消えていった。


「ま、まさか、HP全損!?」


 ライズの驚きの声と同時に、勝利のゴングが鳴り響く。


「勝者、『リオ』!」

「勝ちました。ヴイ。」


 リオは感情がこもっていない勝利宣言のあと、観客席に向けて渾身の決めポーズを見せるのだった。


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