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11.なら勝負よ!

 特別民間拡張警察本部(通称ヒーロー連盟アスピア支部)のビルの内部、赤いカーペットが敷かれた長い廊下を男女三人組が歩いている。

 全身に密着するヒーロースーツを来た男『ライズ』。

 青みがかった白いボブカットをなびかせ、彼女の抜群のスタイルが浮き彫りになるヒーロースーツを着用した美女『レイ』。

 全身を包帯で覆ったローブの小柄な少女、『リオ』。

 三人は、ライズとレイのパーティに新しく配属されたリオについて事情を聞くために、彼らの上司であるプレイヤーの下へ向かっていた。


「それにしても、縁もゆかりも無い私達のもとに配属だなんて、随分といきなりね。あなた、コップスを始めたのはいつ?」


 レイがリオに向けて問いかける。彼女のふてぶてしい態度から、歓迎する様子ではないと察したライズは少し気まずそうに頭を掻き、リオの様子を伺った。

 リオはそんなライズの様子を気にすることもなく、左掌から垂れ下がった余剰な包帯を右手で弄んでいた。


「確かに、いきなりですね。でも、そこまでおかしい事ではないと思いますよ。」


 そう答えたリオはチラリと隣のレイを一瞥する。だが見られた当の本人は気にすることもなく歩き続ける。


「ヒーロー連盟が最近何かと忙しくて人手が足らないというのは、有名ですから。」


 続けてそう答えてリオはわざわざレイの前までやってきてから目を覗き込み、包帯越しに微笑んだ。その様子にレイは眉を歪ませる。


「最近やたらと多いのよ、正義のロールプレイを冷笑する輩が。そういう連中は悪びれもしないでプレイヤーを馬鹿にして荒らしていくのよ。NPCを殺して、プレイヤーの作ったものを破壊していく。技術や情報、アイテムを盗むためにね。」


 レイは歩みを止めて、少し目線が下のリオに目を向けると、彼女も歩みを止めて見つめ返す。


「私がヒーローに敵対する勢力の者だと、そうお考えですか?」


リオは包帯を弄ぶ手を止め、静かに落ち着いた声音でレイに問う。その問いに彼女はいっそう眉を歪めた。


「ええ。別勢力のプレイヤーがスパイに来ることだってあり得るでしょ。その身なり、一体何のつもり?包帯で顔を隠してなんのファッションのつもりか知らないけど、怪しすぎるわよ。」


 レイの主張を聞いたリオは再び包帯を弄り、口を開こうとしたとき、黙っていたライズが口を開いた。


「あー、ふたりとも。リオの素性はともかく、とりあえず支部長のところに行かないと…」

「ふんっ」


 ライズに水を刺されたレイは不機嫌になりながら再び振り返って、廊下を進んでいった。


「ごめんね、最近仕事が忙しいみたいで、ストレス溜まってるんだよ。あ、これはリアルのほうね。」


 申し訳無さそうにライズがリオにそう言って笑いかける。


「ふうん。」


 短く返事をして、包帯を巻き直したリオはレイの後に続いて再び歩き始めた。


______


「は??」


 支部長の部屋にて、間抜けな声を上げたのはレイである。


「彼女は炎の魔術を扱う感応者(プレイヤー)で、過去には【キラー】をも追い返した凄腕なんだって。氷系のレイくんとは相性良さそうだと思ったんだよ。」


 そう答えたのは連盟アスピア支部長の男だ。スーツに身を包んだ細身の若い男性の姿をした、目元まで伸びた茶色の前髪が特徴的なアバターで、年齢は高校生くらいに見える。支部長は、赤縁のメガネの位置をクイッと直し、絢爛なこの部屋に馴染むように佇んでいた。


「彼女が、【キラー】を…?それは本当なのか?」


 ライズが支部長に向けて問いただすが、それには支部長ではなくリオが口を開く。


「本当ですよ。【キラー・スプレット】と一度だけ遭遇し、戦闘になりました。その際に私の奮闘と周りの方々のサポートもあってなんとか撃退に成功しました。最も、キル自体はできませんでしたが。」


 自慢げにリオが答えると、ライズとレイはあんぐりと口を開けて驚いていた。


「最強のヴィランプレイヤー、【キラー】とまともに戦えるのはランキング上位のプレイヤーだけ。つまり、リオくんは上位プレイヤーと同じだけの実力があるということだ。我々の味方として、とても頼りになる存在だよ。」


 支部長の言葉に驚いた二人が未だに固まっていると、リオはレイの顔を覗き込む。レイはなんとも言えない表情で見つめ返すと、続いて支部長の方を睨んだ。


「たとえ彼女が実力者であっても、彼女が味方かどうかはわからないでしょう!?そんな実力者が急に我々の味方をしたいなんて、怪しすぎるわ!」

「まあまあ、そんな熱くなるなって。」


 レイをライズがなだめていると、そんな様子にリオはため息を付いた。


「そんな調子じゃ、今は内ゲバしている無秩序派や【キラー】たちが協力でもしたら、我々は戦っていけないですよ。」


 リオは呆れてそう言うと、支部長は同意するように首を縦に振った。続けて支部長が口を開く。


「あの協調性のない連中がスパイなんて小賢しい真似すると思うかい?」

「でも、私達の敵は無秩序派だけじゃない!帝国だって...」


 レイは反論するが、支部長は続けて自分の意見を述べる。


「疑うのが悪いとは言わない。だが、味方にもそんな態度だと、こちらも協調性がないなんて連中に思われかねないよ。リオくんが、君の言う『スパイ』ならね。」

「ぐぬぬ…」

「安心してくれ。彼女は帝国の人間ではない。たとえ彼女がもともとは別勢力の人間だったとしても、今はリオくんの力を借りたい。わかってくれないか?」


 支部長が懇願すると、レイは不機嫌そうに自分の頭を掻いてから、諦めたように脱力した。

 その様子を見てライズと支部長が安心した…が、次の瞬間スイッチが入ったように、


「うおおおおおおおおおおお!ならば勝負よ!リオ!あなたの実力見せてもらうわ!」


 と叫びだした。


「うわ、始まったよ…」


 ライズの呆れを気に留めず、レイは両拳を天に突き上げたあとに、リオに向けてビシッと真っ直ぐできれいな人差し指を向けて宣戦布告する。

 その様子にリオは戸惑いながらも、包帯越しに口角を上げた。


「いいですよ。私の力、たっぷりと味あわせてあげます!」


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