閑話.半年目の宇宙情勢
ブックマーク感謝です。しばらくは定期的に投稿したいと思っています。
惑星アスピアの工業都市スフォイニ、そこはおそらく現時点でサーバー1の生産力を持つ都市である。中核区に指定されている場所だけでも人口5千万人という設定であり、昼間は多くのNPCやプレイヤーたちで賑わっている。
そんなネオン色輝く超高層ビル群が乱立する街の路地裏に、二つの影があった。
一人は漆黒のシルクハットを被りタキシードを着た紳士風の中年。もう一人は、黒いパーカーを着ているネズミ耳の少年である。
「ここまで来てくれて感謝する。談話ルームはどうしても出入り口が人目につくからな。」
「ああ。」
二人は隠密スキルや遮音魔術を駆使してあたりを警戒しているようであった。
だが、このゲームはマップが非常に広い。実際はわざわざ人口の多いこの場所で機密性の高い話をする必要はまったくないのである。つまりこれは、一つのロールプレイなのであった。
「情報部もかなり忙しいみたいだな。新規が増えてから開拓されている惑星がねずみ算式に増えている。情報を手に入れるのも一苦労だろう。」
情報部は、COPSの勢力のうち個人派のギルドが集まって組織されたギルド連合であり、あくまで中立的な立場で様々な情報を集め、売買する組織であった。
紳士風の男の言葉に、パーカーの少年が同意して笑う。
「まあな。惑星の航路を開拓するのに通常は約1億クレジット程度かかるのに、最近は帝国やら企業らがポンポン金を貸すからな。お陰で『エッセンス』以外の物資が市場にあふれている。もっとも、買い手が多くて景気は良いようだがね。」
パーカーの少年はフードを取り自身のネズミの耳を露出させる。そして、ポケットからタバコを取り出して吸い始めた。鼻から出た煙はモクモクと上へ登り、散り散りになって空中で消えていく。
「それで例の話、どうなんだ?」
タバコを咥えたネズミ少年は紳士に問いかける。紳士は帽子を深く被った。
「話に聞いていたとおりだ。帝国は俺ら造船連合にいくつものコンポーネントを発注してきた。超大型の重レーザーキャノンが500門。対空武装関連の砲台が1000近くだ。装甲板やシールド発生装置、主にデフレクターの方だな、それも多数。まあ、お前たち情報部の情報は本当だろうな。」
造船連合は、個人派ギルド連合の中でも情報部に次ぐ規模であり、主に宇宙船各所の部品を製造している。彼らは企業色が強いことで知られており、表向きはどんな勢力でも取引に応じているのである。
しかし、裏ではこうして情報部に情報を売ったりと、個人派への帰属意識が強いのである。
「…まずいな。今でさえ、情報部は帝国からの圧力に日々悩まされている。“あれ”がもし完成すれば、間違いなくパワーバランスは崩壊する。」
紳士風の中年の言葉に、ネズミの少年は頭を抱える。ネズミ少年は頭を抱えたまま、紳士中年に問う。
「それで、帝国が制作中の、例の兵器の名はわかるか?」
唾をゴクリと飲み込んだ少年は、紳士の方に視界を向ける。紳士は壁に寄りかかったまま答えた。
「『シージフォートレス』、奴らはそう呼んでいた。小惑星を船体に用いた戦艦を超える大きさを持つ、超大型の宇宙要塞だ。予想だが、全長は5000mを超えるだろう。」
「なんだと!それは…想像以上だな。もし完成されれば、帝国一強時代の到来ってわけだ。だが、お前たち造船連合は帝国の頼みを断れない。そうだろう?」
ネズミ少年がそう言うと、紳士は頷いて肯定した。
「できるだけ、奴らへの納品を遅らせるさ。だが、それでも持って三週間。俺たち個人派の利益が最重要だが、もし帝国の一人勝ちとなった場合、造船連合は秩序派につくことも検討しているからな。」
ネズミ少年は頷いて肯定した。
「情報部としては、お前たちが敵となるとかなり痛手だ。お互い最善を尽くそう。」
「ああ。」
二人は互いに拳を合わせ、顔を見合わせて笑った。
「そういえば。」
話の終わる流れであったが、ふとネズミ耳の少年が呟く。
「おいおい、流れ的に、会話が終わった後は目を合わせず、すれ違って立ち去るところだろう。」
「いや、すまない。そういえば変な話を聞いてな。」
「…変な話?」
ネズミ耳の少年の言葉に紳士風の中年は首を傾ける。
「ああ、無秩序派の連中、どうやらまとまりができ始めたみたいでな。もしかしたら、既に巨大なギルド連合を形成しているかもしれん。お前たちも注意したほうが良いかもな。」
「…あの犯罪者共が、か?」
無秩序派は過激なプレイスタイルのプレイヤーが多く、各々自己主張が強い。故に、まとまりは他の勢力と比べて小規模なものばかり、というのが一般的な常識であった。
「くわしいことはわからない。だが、自由派の連中が各地の犯罪カルテルを襲撃した際に、それぞれのリーダー各の男たちが同じ言葉を呟いていたらしくてな。」
「同じ、言葉?」
ネズミ耳の少年はシルクハットの中年に背を向け、路地裏の出口に歩いていく。
そして、程なくして振り返り、口を開ける。
「『全ては、崇高なる目的のために』、とな」




