メカヲタ、世界を知る
僕が住むドラグロード王国の周りには、3つの王国と1つの連邦国がある。北西にはドワーフの国「硬い鉄」、北東には妖精とエルフの「妖精王国」、南西には人間の「神聖国ゴッテスベフェール」、そして南東には獣人や商業国家などが集まった「南東国家連邦」だ。
「この世界に勇者がいるの?」と僕が尋ねると、メルフィーナは「魔王も居ますよ」と答えた。驚く僕に、彼女は「ここ数百年は小競り合い程度で、大規模な戦争は起きていません」と続けた。
「じゃあ勇者は何をしているの?」
「勇者というのは神聖国ゴッテスベフェールが認定した人物のことです。昔、魔王を倒したという伝説があるそうです」
なるほど、一種のプロパガンダか。国の正当性を強引に主張するためのパンダってことだな。でも気になるのは魔王の存在だ。魔族についても聞いてみると、メルフィーナの答えは意外と重い内容だった。
「魔王は神聖国ゴッテスベフェールが『悪しき種族』と認定した者たちの中から選ばれて生まれる存在とされています。その悪しき種族が魔族と呼ばれているのです」
これって完全に神聖国の一方的な主張じゃないか?と思った僕に、メルフィーナは更に説明を加えた。
「神聖国は人口も多く、戦力や経済力も充実しています。特に竜信仰を邪教と見なしているため、ドラグロード国を敵視しています」
これは完全な敵国関係だ。
「領土も広大で、ドワーフ王国とも小さな衝突が絶えないようです。ただしドラグロード王国は、完全に孤立しているわけではありません。南東国家連邦とは貿易関係があり、各国の竜信仰者からの支援物資も連邦を経由して入ってきています」
状況を整理すると、この国の安全を確保するには神聖国の力を押さえ込むしかない。他国との戦争はリスクが大きすぎる。対して神聖国とは既に最悪の関係だ。これ以上悪化の余地すらない。
むしろ神聖国を撃退できれば、ドワーフ王国や連邦との関係改善も期待できる。僕の中で、取るべき方針が定まった。竜の国の未来は、神聖国との決着にかかっているのだ。
僕は初戦の相手が神聖国ゴッテスベフェールになることを確認し、この重要な局面についてドラグロード王との詳細な戦略会議が必要だと判断した。メルフィーナにその旨を伝え、軍事データと戦力配置の資料を整理して王の元へと急いだ。
王の前で事の経緯を説明する際、現在のゴーレム師団の戦力構成について詳細な報告を行った。特に、各ユニットの戦闘能力、機動性、装甲性能について具体的な数値を示しながら説明を進めた。
大臣からの報告は深刻だった。ドラグロード王国第二の都市であるドラグナートが、南西方面で神聖国からの執拗な攻撃にさらされているという。この都市の戦略的重要性は極めて高く、連邦からの軍事物資、食糧、医療品などの重要な補給路となっているだけでなく、鉱物資源の集積・精製拠点としても機能していた。ここが陥落すれば、王国の補給網が寸断されるだけでなく、経済的打撃も甚大となる。
神聖国の戦略は巧妙だった。一気に大軍を動かすことはせず、小規模な部隊による継続的な消耗戦を仕掛けてきている。これは表向きには「辺境の小競り合い」として処理できる規模を維持しながら、実質的にはドラグナートの防衛力を着実に消耗させる策だった。大臣の分析では、神聖国は既に10,000の精鋭部隊を国境地帯に配置しており、いつでも本格侵攻に移れる態勢を整えているという。
現在の国際情勢も複雑だった。北方のドワーフ王国と妖精王国は直接的な軍事行動は控えているものの、状況を注視している。これらの国々はドラグロード王国の鉱物資源、特に魔法金属の採掘権に強い関心を持っている。神聖国による征服を座視はできないが、かといって積極的に同盟を結ぶことによる外交的リスクも大きい。さらに、竜信仰を邪教として弾圧する神聖国の宗教政策は、ドラゴンを頂点とする現体制への直接的な脅威となっていた。
しかし、状況を一変させる要素が現れた。「守護竜契約によって数百年ぶりにドラゴンロードとマキナ様が姿を現されたことで、国際世論に大きな変化が生じています」と大臣は説明を続けた。「特に、世界各地の竜信仰者たちの間で、神聖国への警戒感が急速に広がっています。神聖国の蛮行に対し、竜の国から直接使徒が遣わされたという解釈が広まりつつあるのです」
僕はこの情報に新たな戦略的可能性を見出した。ドラゴンロードの出現が持つ政治的・宗教的影響力を、軍事戦略に組み込むことができる。このタイミングで神聖国と決定的な戦いを行い、圧勝することができれば、単なる軍事的勝利以上の成果が得られるはずだ。
ドラグナートまでの軍事輸送に関する具体的な計画も立てた。通常の馬車での移動なら2日で到着できる距離だが、重装備の部隊移動となれば3-4日は必要となる。現地の駐留部隊は精鋭とはいえ800人程度で、神聖国が本格的な攻撃を仕掛けてきた場合、援軍到着までの防衛は困難を極める。そのため、常時偵察部隊を展開し、敵の動きを24時間体制で監視している状況だった。
この状況を踏まえ、僕は新たな防衛計画を提案した。まず、現有の人間部隊はそのままに、新型ゴーレム部隊による防衛層を追加する。特に、高所からの監視に長けたユニットを戦略的地点に配置し、早期警戒網を構築する。
戦力不足を懸念する王と大臣に対し、僕は秘密兵器のデモンストレーションを行うことにした。訓練場に最新鋭の装備を施した甲冑を着せた案山子を配置し、新型のG-002ストーンキャノンの性能を実証することにした。
G-002ストーンキャノンの特徴は、その破壊力だけでなく、正確な射程距離にあった。100メートル先からの投射でも、90%以上の命中精度を維持できる。実演では、案山子に装着した最新鋭の装甲が一撃で粉砕され、その威力の前では神聖国の誇る重装甲部隊も無力化できることを証明した。射撃のレートも驚異的で、単体で10秒に1発、命中率は下がるが両手での運用なら5秒に1発の連続射撃が可能だ。
続いて、G-001サイクロプスの実戦能力を示すため、標準的なストーンゴーレムとの模擬戦を実施した。サイクロプスは一見すると下位互換に見えるかもしれないが、その本質は大きく異なる。フレーム内蔵型の多重装甲(ラミネート装甲)は、通常の攻撃ではほとんど損傷を受けない。さらに、高度な戦術プログラムにより、集団戦での連携も可能だ。
デモンストレーション戦では、サイクロプスの圧倒的な性能差が明確となった。標準型ストーンゴーレムの攻撃は、多重装甲によって完全に無効化され、逆にサイクロプスの精密な攻撃により、わずか30秒で戦闘不能に追い込んだ。
そして最後に、この両機を上回る性能を持つリーダー機、タイタンを披露した。回転式メイスは従来の固定武器の数倍の攻撃力を持ち、大型ラミネート装甲型シールドは、魔法攻撃すら受け流す性能を有している。その動きは人間の動作に近い滑らかさで、戦術的な柔軟性も高い。
さらに驚くべきは、これらの兵器の生産能力だった。サイクロプス50機、ストーンキャノン100機という大規模な部隊編成が可能であり、しかもこれらは僕の魔法によって即座に召喚できる。これにより、戦場での臨機応変な部隊配置が可能となり、従来の軍事常識を覆す戦術的優位性を確保できる。
「ドラグナートを頼む。吉報を待っているぞ」という王の言葉に、僕は確かな自信を持って頷いた。翌日にはドラグナートへ向かい、この新型ゴーレム部隊で神聖国の侵攻を完全に叩き潰してみせる。それは単なる防衛戦にとどまらず、守護竜としての力を世界に示す象徴的な戦いとなるはずだ。
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(っ ॑꒳ ॑c)ワクワク