メカヲタ、守護竜になる
儀式は思った以上に盛大で神秘的な雰囲気を纏っていた。
ドラグロード山脈にある竜信仰の総本山から宮司が降りて来て儀式を執り行う。
宮司とは言ったが日本のそれの様な着物を着た宮司ではなく、西洋風の神官服を着た宮司だった。
彼は僕の所へ来て深々と頭を下げ、僕のステータスを鑑定した。
「何と古代竜種様でしたか、この契約に古代竜種が関わるのは史上初めての事です。まして束縛の術無しでの契約も初めての事で今回の契約は神殿も大変興味深く考えております。」
恭しくそう言った宮司にとりあえず「あぎゃ。」と短く答えておく。
何が伝わったか分からないが、宮司は2度、3度頷き深くお辞儀して戻って行った。
この神殿と王家には深い繋がりがあるそうで、お互いに「持ちつ持たれつ」の関係と言うやつだそうだ。
儀式は始まりメルフィーナが僕の前に立つ。彼女が今代で最も魔力量が多く、歴史上でも上位5本の指に入る魔力量だと言っていた。
儀式は進み遂に名付けに入った。
「汝メルフィーナ・フォン・ドラグロードよ、古代竜様に銘と共に魔力を捧げよ」
「銘はマキナ、古よりの盟約に従い契約を願う。」
運命か偶然か、王女は僕を機械と名付けたぞ!!!
素晴らしい! さしずめドラゴ・エクス・マキナ(機械仕掛けの竜)という事か!
大変気に入った!!
魂にその銘が刻まれ僕はマキナになった。
魔法陣が幾重にも重なり僕を取り囲んでいく。
何故か周囲の人々がざわめいているが、何があったのだろう?
「ド、ドラゴンロード...」絞り出す様な声でメルフィーナが空を見上げて言う。
振り向くとそこには100mは有ろうかという巨大な竜が浮かんでいた。
「古代竜マキナよ...汝が望み、王女の望み叶える為、我をここに召喚せしもの。ドラゴ・エクス・マキナの銘に我の魔力を合わせそなたに託す。」
そう言うとドラゴンロードの姿は塵のように消え去った。
そうして僕を囲んでいた魔法陣も光を放ち消えていった。
「け、契約は成った! ここに古代竜ドラゴ・エクス・マキナをドラグロード王国の守護竜として世界に宣言する。」
宮司の声が響き、皆がかつてない守護竜の誕生に湧き上がった。
この日世界にドラゴンロードに託されて小さな王国の守護竜になった古代竜の話が広まった。
この時、機械仕掛けの守護竜と名付けられたこの古代竜の話を恐怖をもって今後幾度も耳にする事になるのを予想出来ている者はまだ少ない。
僕は実に僕好みな良い名前と魔力を頂けて気分が最高に良かった。
ドラゴンロードに接して呆然と立ち尽くしたままのメルフィーナに駆け寄り「アギャっ!」と声をかけた。
ハッとして我に返ったメルフィーナは僕を抱き締めて震えていた。
その時群衆の中から炎の魔術がいくつか僕達に向けて飛んだ。
僕はいち早くゴーレムをインベントリから出し「我らを守れ」と命令した。
着弾の間際、何処からともなく舞い降りた2体の騎士が飛来する魔法を盾で受け止め僕らを守る様に立ち塞がった。
そして僕はストーンゴーレムを僕と姫の背後に配置した。
空中に魔法陣が展開し、中から3mのストーンゴーレムがズシンっ!!と大きな音を立てて現れた。
機械仕掛けの銘に相応しい機械的なフォルムのゴーレム達の登場に、王族も貴族も神殿関係者も、そして民衆も大きく湧き上がった。
よしよし、炎の魔術を放った暴漢達には感謝しかない。お陰で最高に良いプロパガンダになっただろう。
今期の守護竜はかつてないほど規格外な存在だと思ってくれれば成功だ。
何故なら、「僕」を巻き込んで攻撃して来たと言うことは僕の予想通り世界はもう既にスタンピードでは止まらないと言う事に他ならない。
恐らく既に国境付近に大部隊が展開されていたに違いない。
しかし彼らは知ってしまった。
何も無い所から見た事のないゴーレムが現れるのを。
それはどういう事なのか彼らは考えるだろう、そしてドラゴンロードの降臨と合わせて不確定要素が多過ぎる為今は引くだろう。
まあ、実際はこれで全部だから勢いで来られると詰むんだけどね。
でも、それはありえない。
足並みを揃えた攻撃でなければ、万一があった時攻め込んだ国が貧乏くじを引くことになる。
そして疲弊してしまえば、他国からの侵略を次に受けるのはその国になるからだ。
彼らは何も仲良しな訳ではないと言うことだ。
これで少なくとも数ヶ月は時間を稼げただろう。
今の内にゴーレムの増産や、軍備の再編成を急ぎ行わなければならない。
暴漢は騎士達が取り押さえた様だが、どうせ何も出てこないだろう。
儀式が終わり帰っていく貴族や民衆を見ても暴漢が出たにも関わらず皆笑顔がある。
これも副次的な効果と言えるだろう。
「僕達は強い」と先ずは誤解して貰う。
守護竜が凄くて見た事ない戦力を有していると言う幻想で持って自信を持って貰うのが目的だ。
不安はゲスな考えを呼び起こす原因になる、国民の不安を消し安心と言う麻薬を投じて現実は後から追いつかせればいい。
これでこの儀式でやりたかった事は全て出来た。
ドラゴンロードの降臨のお陰でより箔がついたと言える結果に大満足だ。
そろそろ撤収して、ゴーレム作成を開始するとしよう。
メルフィーナはどこまでこの状況を把握しているだろうか?
ドラグロード王は十分切れる男だ、僕の意図も状況も把握しているだろう。
そうでなければ、軍事決定権を僕に譲渡する契約にのりはしなかっただろう。
城に戻った僕達はその足で王の元へ出向いた。
僕は黒板を用意し、王の元へ駆け寄った。
「国境付近の状況なら、マキナ殿の予想通り撤収が始まっておるよ。」
聞くまでも無かったか、やはりこの男は切れる。
黙って彼を見ていると、王は話を続けた。
「ゴーレム作成に必要になるだろう金属は秘密裏に集めさせている。現在用意出来る金属は予備武器も含めて既に修練場へ運び込ませた。」僕は王の顔を見ながらニッと笑ってみせた。
王も同じ様にわらってみせる。
「準備出来次第、一度は戦って見せる」と書いて黒板を王に見せた。
「そうだな、一度戦って見せねばその内攻め込まれるだろう。しかし戦うなら圧勝せねば意味は無いぞ?どうにかなると思われては誘い水にしかならん。」
僕は神妙に頷いた。
全くその通りだ、なるべく早い段階で圧勝をしなくてはならない。
そうなるとゴーレムだけではダメだ。
ゴーレムは十分強いが近接攻撃に変わりはない。
そして敵にもゴーレムを作成出来る者が居れば、決定力不足になってしまうのが明らかだ。
勝利は見えるが圧勝には足りない。
やはり遠距離攻撃用の武器を開発製造することを並行して行わなければならないだろう。
僕は王に遠距離攻撃部隊の設立と、近衛を除いた騎士団の解体を宣言した。
王は目を見開いて驚いたが、「それは納得いかせるだけの兵器を作ってからだな?」
と念押しされた。
戦争を変えるのはいつだって新兵器が投入された時だ。
前世の世界で騎士が姿を消した理由は銃や大砲と言った火砲が登場したからだ。
この世界には魔法があるから、似た事象が起きてもおかしくないが、魔法と銃には大きな違いがある。
魔法は使い手が限られるが、銃は引き金を引けば撃てると言う違いだ。
戦争中によく使われる魔法の平均的な飛距離は実は大したことは無い。
100m〜150m届けば十分だからだ。魔法にも制約がある以上距離を伸ばせば消費魔力が増える。
儀式を使用した大型魔法は数キロ先から届く様だが、攻城戦でも無ければ消費に結果が着いてこない。
ロングボウの有効射程も凡そ150〜200m弱である事からそれ以上の距離から撃てれば十分だ。
丸い弾丸を撃ち出す火縄銃ではなく、ライフル弾を撃てる銃が作れるとかなり意味がある。
製造するのであればモシン・ナガンをモデルとした狙撃銃を作るのがいいか...
(※モシン・ナガン 1891年にロシアの陸軍少将モシンとベルギーのナガン兄弟が作り出した5連発 ボルトアクション式小銃)
とりあえず作ってみないと考察も出来ないので、早速作って見る事にしよう。
さあ、これからが本当の勝負だ。
やる事が非常に多く、時間は少ない。
しかし僕は今日この王国の守護竜になったのだ。
期待を裏切らない為にも、気合い入れて行くぞっと歩みだした。
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(っ ॑꒳ ॑c)ワクワク