メカヲタ、決意する
生まれてから絶え間なく頭を使い続けた結果、僕のお腹は激しい空腹感に襲われていた。
メルフィーナは微笑みながら、小さな僕の体を優しく抱きかかえ城の厨房へと足を向けていた。
これまで契約を結んだドラゴン達は主に生肉や果物を好んで食していたようだが、僕は人間とのコミュニケーションが可能なため、特別に厨房での食事を許されたのだろう。
夕暮れ時を迎えようとしているこの時間帯、厨房は既に夕食の準備で戦場と化していたが、第一王女と守護竜候補が直々に訪れたことで、スーシェフが僕たちの対応に駆けつけてくれた。
「お忙しい中、大変申し訳ございませんが、古代竜様にお食事をご用意させていただきたいのです」メルフィーナはそう告げ、スーシェフに様々な食材を運んでもらった。
新鮮な生肉、獲れたての魚、色とりどりの野菜、旬の果物など、まさに食材の見本市のような品々が並べられた。
僕は思わず考えを巡らせた。
ドラゴンたちは料理という文化を持ち合わせているのだろうか?おそらく普段は全て生のまま口にしているに違いない。恐る恐る生肉の香りを嗅いでみると、スーパーマーケットで購入する真空パックの豚肉とは比べものにならないほど野性的な匂いが鼻腔をくすぐった。
しかし、残念ながら食欲をそそるような香りではなかった。
次に生魚の匂いを確かめてみると、やはり生臭さが際立っていた。これは本能的な反応というよりも、前世の記憶が強く影響しているのかもしれない。そんな時、ふと厨房に漂ってきた焼き肉の香りが僕の感覚を刺激した。脳と本能が一致して叫んでいる。これは間違いなく美味いに違いない!
急いで黒板を求め、「焼いたお肉が食べたい」と書き記した。
スーシェフは驚きの表情を浮かべながらも、「かしこまりました」と丁重に頭を下げ、近くの調理台で肉を焼き始めた。
「調味料もお使いいたしましょうか?」との問いかけに、僕は嬉しそうに頷いた。
程なくして、シンプルではあるが香り高い香草焼きの肉が運ばれてきた。僕の口の大きさからすれば一口で平らげることも可能だったが、視界に入ったナイフとフォークの存在が気になり、それらを使用することにした。
短い手でナイフとフォークを握り、何とか肉を切り分けようと奮闘する。
口に運んだ瞬間、その美味しさに感動が走る。ただ、手が短いせいで食べづらさは否めなかった。
もたもたと切り分けている様子を見かねたメルフィーナが近づき、肉を適度な大きさに切り分けてくれた。そして、優しくフォークで「あーん」とさせてくれたおかげで、最後まで綺麗に完食することができた。
おそらく300グラムはあっただろうその肉だが、予想以上に満腹感を得られた僕は、黒板に「ご馳走様でした」と記してスーシェフに示した。
スーシェフは丁寧に帽子を取り、深々と頭を下げてくれた。
その場を去ろうとした時、果物の中に見覚えのある黄色い実を発見し、思わず声を上げてその方向に向かった。その外見はまさしくバナナそのものだった。メルフィーナが手に取り、「こちらもお召し上がりになりますか?」と尋ねてきたので、僕は熱心に頷いた。
皮を剥かれたその姿は、紛れもなくバナナだった。一口で平らげられそうな大きさだったが、あえて半分に調整して口に含んだ。「本当にバナナだ!」この異世界にも、前世で親しんだバナナが存在していたことに驚きを隠せなかった。転生してからそれほど時間は経っていないものの、異世界で前世と同じものに出会えることに、何とも言えない安堵感を覚えた。
食事を終えた僕は、メルフィーナに導かれて城内の様々な場所を見学することになった。
騎士たちが日々鍛錬を積む修練場、武具が整然と並ぶ武器庫、清潔に保たれた浴場、騎士や兵士、メイドたちが集う食堂など、城内の重要な施設を順々に巡っていった。
訪れる先々で僕がピコピコと手を振ると、皆が笑顔で応えてくれた。自分でも単純すぎると自覚しているが、このような些細な交流だけで、私はこの場所に愛着を感じ始めていた。
もちろん、完全に信頼して良いという確信があるわけではない。小国とは言えれっきとした王国であり貴族社会なのだから、様々な暗部が存在することは想像に難くない。
しかし、この王国の特性を考えれば、僕たち竜を軽んじるようなことはないだろう。であるならば、僕はこの王国と正式に契約を結び守護竜としての役目を果たしながら僕が持つ近代兵器の知識や、人々の生活を豊かにする様々な製品の情報を活用して、この国の発展に貢献したいと考えた。
おそらく王国側にも十分な時間的余裕はないはずだ。早急な返答を望んでいるに違いない。やるからには、この追い詰められた小国を、世界最強の国家にまで成長させたい。もし敵が攻めてくるのなら、完膚なきまでに叩き返せるだけの戦力を備えておく必要がある。王国の庇護下にある民を一人たりとも犠牲にしないためには、ドラゴン一匹の戦力では不十分だ。多方面からの脅威に対応できる総合的な軍事力が必要となる。
メルフィーナに抱かれながら、僕は着々と野望を膨らませていった。王女の部屋に戻った僕は、黒板にこう記した。「僕に正式な名前を授けてください」わずか一日での決断は性急に過ぎるかもしれないが、現状を考えれば一刻の猶予も惜しい。
スタンピードによる防衛線がいつまで有効であり続けるのか、僕には不安があった。より強大な戦力の前では、既存の戦力は無力と化してしまう。「これまで大丈夫だった」という実績は、未来への何の保証にもならないのだ。
本当に必要なのは、敵を圧倒する兵器、十分な訓練を積んだ軍隊、そして強い意志で結ばれた国民だ。僕は契約に際して、この国の軍事関係における主導権を要求するつもりでいた。軍事決定権を抑えておく事で、近代兵器を使った無差別な攻撃も抑止したかったからだ。最新の兵器と革新的な戦術を導入し、この国を機械化帝国として最強の地位に押し上げる。
僕の決意を聞いた王女は、涙を流しながら何度も「ありがとう」と繰り返した。このような純粋な愛国心を持つ彼女であれば、信頼に値する存在だと確信できた。僕は自分の要望を王に直接伝えることにした。
王は暫し深い思考に沈んでいたが、最終的に、古代竜の幼生体への信頼こそが今回の契約の核心であると判断し、僕の申し出を受諾した。そして明日、正式な契約の儀式を執り行うことが決定したのである。
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(っ ॑꒳ ॑c)ワクワク