虹
「僕は君が嫌いだ。」
なんて素直な人なのだろう。
真っ青な傘をさし、彼は言った。
やや見上げる位置で彼の瞳に僕が映った。
「もう来ないでくれよ。」
踵を返した彼の傘から放たれた雫に、
顔を顰める。
瞼に冷たさが残った。
雨音だけが僕を優しく包み込む。
「ねえ、待って。」
追いかけた。嫌われたのだ。
追いかけた。無我夢中で追いかけた。
僕は彼に嫌われたのだ。
気づいていないフリをしている。
彼の、傘を持っていない方の拳が、
ぐうっと固くなったのがわかった。
絶対に振り向かない彼。
そんな所もかっこいいと思った。
僕はおかしい。
「ねえ。行かないでよ!」
肩を捕まえた。
汚いものでも見るかのように、彼が僕を見た。
ああ、冷たいな。
傘もささずに走ってきたことを思い出し、
ふと思った。
「離せよ!」
「やだよ!だって離したら、逃げるだろ。」
「うるせえよ!」
「ねえ、1度でいいよ。1度でいいから。」
雨に打たれていることも忘れ、
僕らはびちょびちょになっていた。
灰色の世界と同化した僕ら。
同じ世界にいるのだと実感した。
まつげが濡れた。雨のせいだと思った。
視界がぼやけた。
泣いていると気づいた。
「なあおい。泣くなよ。悪かったって。
落ち着けって。悪かったよ。」
しゃくりあげることしかできなかった。
こんなにも迷惑をかけているのに、
嫌っているはずなのに、どうしてこんなに優しいのだろうと、虚しくもなった。
どれほどたったか。
雨が少し弱くなった。
それでも彼はそこにいた。
「僕はね、おかしいんだ。」
「うん。」
ゆっくりと口を開く。
「ダメだってわかってるんだ。間違ってるってわかってるんだ。だけど、止められないんだよ。」
枯れてしまうのではないかと思うほど、泣いた。
ゆっくりと、彼の肩を握っていた両腕を下ろす。
「僕は君のことを愛してしまった。」
雨が止んだ。
ぼやけた視界の向こう側に、虹が広がっていた。
僕の瞳に映った虹を、彼も一生懸命に見つめていた。
彼の前髪から雫が落ちる。
「ごめん。」
謝るべきは僕なのに。
今日も空は青かった。
見つけて下さってありがとうございます。
あなたの気持ちに寄り添いたくて書きました。
君は今元気かな。
そんな事を思い出して、私はここに残します。




