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第一話③

 さて、ここでそろそろ、私の見た夢についてきちんと話をしておく必要があるだろう。

 私の見た夢、というかゲーム――「山神と夏の夜」というタイトルだった――は、小さな村を舞台とする和風恋愛アドベンチャーゲームだ。私、【蘇芳 円】は攻略対象である【蘇芳 遥】の妹である。攻略対象と呼ばれる男性キャラクターは全部で六人。それぞれ個性豊かなキャラクターは、隠しキャラを除いて全員が幼馴染である。私は神隠しの噂のある神社で巫女見習いとして働きながら、彼らと主人公の仲を取り持ったり、まれに邪魔をしたりする登場人物だ。そして、このゲームはバッドエンドが大人気。ヒロインが死ぬのはもちろん、エンディングまでに私が死ぬというルートも存在する。これが先ほどから私の考えている余命宣告(仮)だ。

まあ、存在はするが、すべてではない。いくつかのルートのいくつかのへ選択肢に失敗しなければ、どのルートでも全員生還ハッピーエンドが設けられている。つまり、私が死なないようにするためには、くるかわからないヒロインがうまいこと幸せになってくれることを祈るしかないわけだ。

 ここで、「そもそもヒロインが来ない可能性があるのでは?」と考える人もいるだろう。それなら平和なのでは?と。それがそうでもないのである。ヒロインが来なかったもしものルートも存在するのだ。ファンブックにしか書かれていないが、その記憶もきちんと残っている。自分は十六の夏祭りで即座に処される。それに傷ついた兄が闇堕ちし、さらにはなぜか村への憎悪に堕ちている隠しキャラで村が燃える。そのあと二人には謎の友情が芽生えるらしいが、どう考えたってバッドエンドだ。

 あの夢がただの夢であることに越したことはないが、それにしたって情報が噛み合いすぎている。それに、自分がここまで納得してしまって、受け入れている時点でただの夢だとは思えなかった。それに、昨日よりもありえないくらいに思考力が上がっているのだ。何かしらの変化があったに決まっている。

 

「円様、おでかけのご準備を。」

「…わかりました…」


 とりあえず、不自然に思われないように使用人に従って着替えに向かう。今日は誕生日だから、神社へのご挨拶があるのだ。村にいるすべての子どもは七歳になると、神隠しを主導している神社の主に挨拶をする。

 まあ、それが贄の下見になっているわけだけれど。

 絢爛豪華な装束に着替え、ご挨拶の準備を済ませる。歩くたびに飾りがしゃらしゃらと鳴って楽しい。それで機嫌を直したと思ったのか、遥お兄様もにこにこと笑う。見慣れた笑顔だけれど、今日はなんだか輝いて見えた。これが情報量の差というものか。


「よく似合っているよ、円。」

「ありがとう、はるかおにいさま。」

「千紘たちもびっくりするだろうね。神社の前で待ってくれているらしいから、早く行ってあげよう。」


 そう言って、優しく私の手をとって彼は歩き出す。履物を履くのも彼の手からだった。今まで気が付かなかったけれど、私、もしかして相当甘やかされていた?


「はるかおにいさま、まどか、じぶんでくつくらいはけます。」

「そう?でも俺がやりたいからやるよ。」

「んんん…。」


 使用人からしたら見慣れた風景だ。全員からの優しい視線に包まれる。なんとなく居心地が悪くて身じろぎしていると、綺麗に履かされた愛らしい下駄が顔を出した。つやつやとして黒く光るそれは子どもが履くにしては上等すぎる。…それだけ、今日の挨拶が大切であるということなのだけれど。


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