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闇から来るもの 2


 闇から来るもの 2



 この日もタダユキは帰り道の途中、公園に立ち寄りクロと遊んでいた。


 月がはっきりと見え、風の無い穏やかな夜だった。


「気持ちいい夜だな クロ 」


 タダユキはクロに話しかけながら、途中で買ってきた缶コーヒーを飲む。

 すると、その時今まで膝の上にいたクロが、警戒するようにタダユキの後ろに隠れようとした。


「どうした、クロ? 」


 タダユキが不審に思いクロを見たが、クロは耳を立て公園の奥の出入り口をじっと見ている。

 タダユキも、クロの視線を辿るように公園の奥に目を向けると、そこにぼんやりと人影が見えた。

 まるで闇の中から現れた様なその人影は、だんだんと近付いてくる。


・・・セーラー服?・・・


 近付いてくる人影は、赤い襟に赤いスカーフで半袖の夏用セーラー服に濃紺のプリーツミニスカート、膝の上まである黒いソックスに足元は赤いローファーを履いていた。見た目は女子高校生という感じだったが……。


 まだ深夜という時間ではないから、塾帰りの女子高校生が気分転換の為に公園に立ち寄ったのかとタダユキは思ったが、それにしても一人というのはおかしいと感じた。それにその女子高校生は真っ直ぐにタダユキの方に向かって来るようにみえた。

 そして、その眼光と全身から発している威圧感が、普通の女子高校生ではないと思わせる。


「あなたっ そこの猫から離れなさいっ! 」


 そして、近付いてきた女子高校生はタダユキを指差し大声で言う。

 近くで見るとセミロングの黒髪に包まれた顔は、均整のとれた美人顔だ。しかし、その眼光の鋭さが近付き難い印象を与えている。


「えっ、あっ この猫ちゃん、首輪してないけど君んちの? 」


 タダユキは、警戒しているクロを背中に庇いながら女子高校生と向きあった。

 この女子高校生も、クロを警戒しているように見え、それにクロに対する敵意が滲み出ていた。


・・・この付近では見ない制服だ ・・・


 近くに二つの高校があるが、女子の制服はブレザーと襟が緑のセーラー服だった。

 この女子高校生に対する不審感が大きくなる。いったい何者なのか?

 しかし、その当人は気にも留めないように詰め寄ってきた。


「いいから 早く離れなさいっ! 」


 女子高校生の語気が強くなる。


「クロが君の猫でないなら、僕がクロと居ようが関係ないだろうっ! 」


 女子高校生に釣られてタダユキの語気も強くなる。


「分からないわねっ 危険だから言っているのっ 」


「えっ…… 」


 タダユキはドキッとした。この女子高校生、クロの正体を知っているのか……。


「だいたい名前も知らない君に、突然そんな事言われてもな 」


 タダユキは、この女子高校生の正体を探る為、名前を聞き出そうとした。


「私は三十八代目”和泉(いずみ)朱姫(しゅき)“ 平安の世から続く魍魎(もうりょう)討伐者(キラー)です 」


「へっ…… 」


 想定外の答えだった。タダユキは言われた事を理解するまで時間がかかった。


「三十八代目…… それに魍魎(もうりょう)討伐者(キラー)? 」


 だが、クロにとって好ましくない人間だという事は理解できた。


「僕はタダユキ 賀茂(かもの)忠行(ただゆき)だ 」


「えっ…… 」


 タダユキの名前を聞いた瞬間、朱姫は驚いた顔になったが、すぐに“まさかね“と云う様に首を振る。


「そう それじゃあ、お互い自己紹介も終わったところで、あなたは早く家に帰りなさい 」


 朱姫はそう言うと、胸の前で印契(いんげい)を結ぶ。


「ちょっと待ってくれ 何をする気だ? 」


「あなたはその猫を普通の猫だと思っているでしょうけど、そこに居るのは猫の魍魎(もうりょう)猫又よりもさらに凶悪な猫魈(ねこしょう)よ その猫は此処で滅します わかったら早く退きなさい 」


 朱姫はもはや聞く耳持たなかった。

 仕方なくタダユキは最終手段にでる。力ずくで朱姫を止めるのだ。飛び出したタダユキは、印契(いんげい)を結んでいる朱姫の腕を掴んだ。

 そのつもりだったが、身体が宙に浮き地面に叩きつけられる。


「ぐはぁっ…… 」


 背中から地面に叩きつけられたタダユキは、一瞬呼吸が出来なくなり苦悶の表情を浮かべ地面を転がる。


「合気よ それにしても大袈裟ね まあ、そのまま転がっていなさい 」


 朱姫はベンチの上のクロに目を向ける。クロは地面に転がるタダユキに目を向けると、次に朱姫に目を向けた。その目は“怒り“に満ちていた。

 朱姫とクロの目線が絡み合い、クロが唸り声をあげ、咆哮する。


「ぐぎゃぁーーっ 」


 そして、束ねられていた尻尾が三本に分かれ、口が大きく裂ける。そして、身体もどんどん大きくなっていった。

 クロは、二メートル近くまで巨大化する。


「これは…… 」


 それまでは余裕の感じられた朱姫が、クロの姿を間近に見て初めて動揺する。


・・・いけない この猫魈(ねこしょう)には今の私の力では•••


 朱姫の頬を汗が伝う。


・・・しかし ここで私が退くわけにはいかない・・・


 朱姫は、飛び掛かってきたクロの頭に、ハイキックを浴びせる。相手が普通の人間ならばこの一撃で勝負がついていただろうが、クロは何事もない様に前足の爪で朱姫を切り裂こうとした。


 朱姫はクロの攻撃を避けると、今度はくるりと体を回転させ廻し蹴りを叩き込んだ。

 しかし、やはりクロにダメージはない。


 朱姫は後方転回を繰り返し、一旦クロとの距離をおく。


・・・やはり、この猫魈(ねこしょう)は強い・・・


 朱姫はスカートのポケットから護符を取り出すと気を込め、クロに投げつける。


「セーマンドーマン 」


 朱姫に飛び掛ろうとしたクロの動きが封じられた。

 そして、印契(いんげい)を結び、魔を砕く真言(しんごん)を唱え始める。


「ノウマクサンマンダ 」


 しかし、クロは護符の結界を破り、朱姫が真言(しんごん)を唱え終わる前に襲い掛かる。


「バザラッ………… 」


 朱姫はクロの攻撃を辛うじてかわすが、その攻撃の風圧だけで吹き飛ばされ地面に叩き付けられた。

 朱姫は、そのまま芝生の上をゴロゴロと転がり、クロの追撃をかわすと素早く立ち上がり、再び真言(しんごん)を唱えようとするが、間髪入れずクロが襲い掛かる。

 朱姫とクロ、一進一退の攻防が続いた。






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