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かぐや姫の恋嵐  作者: 武佐井 玄
葉月編
7/73

水曜日 その二

[違う。]


少女がくれた答えに少々以外だった。


「この世界が滅ばない限り、悪は消えない。人間は悪を嫌っているけど、私はそう思わない。もし、この世界から悪がいなくなったら、それは本当にいいことかな。悪がいなくなったら、善もいなくなる。なぜなら、善は悪があってから本当の価値をもらうから。すべての物は対として現れる。例えば、光と影。私の場合は糧がなくなるから、消えてもらっては困る」


「そ、そうみたいね」


僕は言葉に困った。少女が言ったことは理にあっていそうであってないような気がしたから。哲学みたいなことを僕に言っても、僕には答えられない。


「じゃ、黒魂が体の中から消えたら人はどうなるの?」


「いい人になる、とてもいおうか」


「どういう意味?」


「私に黒魂を食べられた人間が、完全なる善―つまりいいひと―を保てる期限は一日だけ。一日が過ぎたら、悪はまた人間の心の中で芽生える。完全な善から新しく悪が生まれる時に、人間は激痛を味わうことになる。私はそれを『月引症』と呼ぶ。『月引症』は人体の中にある潜伏病気を誘発する。体の丈夫な人間は一晩の痛みを耐えれば元気に戻るが、体の弱い人は病院に行かなければならない。死ぬ場合もある。あなたに髪の毛を渡したのは、私の髪の毛には『月引症』を押さえる効果があるから。私を部屋に泊めてくれたお礼の前払い」


だから両親や桃色や同級生たちがあんなに優しくしてくれたのか。全部、少女が言ってた「月引症」のおかげとは。


「それは、ありがとう」


「お礼する必要はない」


コップを見ると、もう水がなかった。


少女は空のコップを見つめていた。たくさん話したら喉が渇いたのだろう。


「もう一杯注いでくる。水がいい?それともジュース?」


「ジュースで」


「わかった」


僕はすぐ冷蔵庫からジュースの瓶を取り出しコップに注いで少女に渡した。


一口飲んだ少女の顔からはわずかながらも、満足そうな表情が一瞬浮かぶのを見た。


「でも、あなたがもし黒魂を食べなければ、苦しむ人もいなくなるんじゃない?」


僕はふと思いついた疑問をそのまま聞いてみた。


僕の問いに少女は淡々とした声で答えたくれた。


「『月引症』はただの導火線にすぎない。人間は、遅かれ早かれ潜伏病気で苦しむことになる。私はその時期を少しばかり早めただけ。病気を早めに気付いて治療した方がいいと思わない?むしろ、私のお陰で助かった人間もいる」


「死んだ人もいるかもしれないでしょう」


僕は異議を唱えた。


「死んだら、それもあの人間の運命」


運命という単語にどう言い返せばいいか分らず、言葉に詰った。


少し間をおいてから、僕は別の事を聞くことにした。


「そういえば、あの日、僕の体からは黒魂が出てこなかったけど、それはなぜ?」


少女はすぐ答えてくれず、何秒か僕を見据えた。


「違う世界を見たいというあなたの願いに私はこたえることにした。だから、どんな事でも受け止める意志は、あなたにはあると思う」


少女は言葉を一度切ってからまた続けた。


「その決心は間違いないと思っていい?」


「それは……」


僕は緊張してきた。平凡な生活をしてきたから肝心な時になるとためらってします。本当に面倒な性格だ。


「あなたお体から黒魂が出てこなかったのは、あなたの黒魂が他の人間の黒魂より強力な存在だから。当時の私はまだ生まれたばかりだから、吸収する力が強くない。吸収できるのは未熟な黒魂のみ」


「なら、なぜ僕にはあなたが見えたの?」


「あなたの心の中にある黒魂が見せたがっただろう。天敵の私の姿を」


この言葉を口にした少女の瞳がすこしばかり揺れた気がした。僕の勘違いかもしれないけど。


「じゃ、なぜ僕はこんなふうにあなたと話ができるの?僕の心にある黒魂はなにもしかけないだろうね」


「当分はしない」


少女はジュースを一口啜った。


「引力は相互的。私が黒魂を食べて成長するのと同じように、黒魂も私を食べれば成長できる。今の私は、また食べ頃ではないと思っているだろう。分りやすい例えをするなら、今の私はまだ種。成長しておいしい果実になれる。あなたは種を食べる?それともおいしい果実を食べる?」


「お、おいしい果実」


僕は消え入るような声で答えた。自分の心の中に潜んでいる黒魂が少女を食べようとしている事を考えると、なんだか複雑な気持ちになった。


「そのとおり」


黙っている僕をみて、何を心配しているかわかったのだろう。少女はすぐ話しを続けた。


「心配いらない。最後に勝つのはきっと私だから。それに、黒魂は思うとおりには活動できない。黒魂が自由に活動するには二つの条件がある。一つは僕に吸い出される時。もう一つは、人間が負の感情のどん底に陥った時に人間の精神を侵食し、身体をのっとる時。逆に黒魂を支配する人も稀にはあるけど」


少女の瞳は僕の身体を見つめた。視線は体から離れていない。


僕を見ているか、それとも僕の中にある黒魂を見ているか、よく分らなかった。


「また何が知りたい?」


少女が聞いた。


「あなたがどうして地球に現れたことが知りたい」


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