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かぐや姫の恋嵐  作者: 武佐井 玄
葉月編
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月曜日 その一

「一緒に帰ろうよ!」


桃色サクラの呼ぶ声がうしろから聞こえてきた。


声を聞いた途端、私は走りだした。こっそり、教室から逃げ出そうとした計画が台無しになった。桃色の追跡から逃げることはできなかったみたい。


「ごめん、用事があるから先に帰るね!明日また!」


僕は振り返って叫びながら、走って逃げた。


「君に用事があるわけないでしょう!どうせ家に帰って寝るだかなんだから。ちょっと待ってよ!」


桃色の声が段々小さくなってきた。この音量だと僕から相当遠くなったとふんだ。


桃色は幼馴染だ。高校三年生にもなったのに、背丈は小学校の時から伸びていない気がする。ただ、粘る力がすごいので、捕まえられたらもう逃げられない。


でも桃色の言ったとおり、家に帰ってもやることなど何一つない。今日は一人になりたい気分だ。まあ、今日だけではなく、毎日一人でいたいけど。


桃色と帰りたくないもう理由はもう一つある。それは、彼に捕まえられたら、徹夜で一緒にゲームをやらされる。彼女はなぜか、次の日も生き生きしてるけど、僕は無理。ゲームマニアの桃色に勝ったこともないから、ますます一緒にやりたくなくなる。


一人で帰る道。今日もいつもと変わらない一日と嘆く。


この町に長く住みすぎたかな、もちろんお爺さんやお婆さんには比べられないけど、ほぼ毎日同じ道を歩いて同じ景色を見ているから、ずいぶん飽きてきた。何か事件が起こってほしいと思う願いの中に、恐れの感情も含まれている。矛盾な感情が心をもやもやさせる。


現状から抜け出したいけど、それほどの勇気はいない。退学でもして家出でもしようかなあ、と思ったこともあるけど、一人になって生きていけるかどうかも怪しい。だから、今もこの場所から離れずに生きているのだ。


段々家のあるマンションが見えてきた。帰る気は全くい僕は、近くにある公園に入ってベンチに坐った。


はあ~。溜息を思わず吐いた。毎日がつまらない。


周りのアパートや一戸建て、マンションの中にある沢山の家庭、その中で生きる人の人。彼らはどんな人生を過ごしているのだろう。僕のようにつまらない一日を過ごしているかな?ならばどうやってつまらなさを裁くんだろう。方法を教えてほしい。


家近くの公園まできて、ブランコに坐った。公園は高めの丘の上にあるから、町の景色が見える。目に入った景色をみて何か事件でも起こらないか、と一人思った。


ふと夕日に染められた空を見上げた。僕を連れて西の空に落ちればいいのに。


空を見たら白いでかい気球が見えた。どこかの会社が広告のために空に飛ばしたんだろう。金もきっとたくさんかかっているに違いない。


公園で十分に時間をつぶしたから帰ろうとしたとき、異変が起こった。


球体には三日月のような大きな黒い口が現れ、その口の中からは赤い舌が地上に垂らしている。まるで滑り台のような。


この状況がまた飲み込んでいない時、さらに異変が起こった。


周囲の人々の体から全身が黒に染められた人影が抜き取られ、白い球体の舌を登っていった。黒い人影を抜き取られた人々は全然気づいていない。彼らの目には黒い魂も、あの巨大な球体も見えないのようだ。



黒い人影がいっぱい口の中にため込んだら、もぐもぐと噛む巨大な球体からかすかだけど、悲鳴も聞こえてきた。悲鳴は僕の耳を掻きむしった。気持ち悪い。


衝撃的な画面に僕はただ呆然とするしかなかった。世界が変わってほしい。こんなにもいきなり目の前で現れても、どんな反応をすればいいか分からなくなる。


食べた黒い魂の数が増えるにつれ、球体は少しずつ変化し始めた。舌を巻き戻した球体はだんだん小さくなっていき、人の胴体のようになって、その胴体から四肢と頭が生えた。


人のようになった白い球体、だんだん小さくなって、消えてしまった。


食べてもらえなかった黒い魂は地面で彷徨っている。自分の肉体を捜しているのだろう。


光景は一瞬にして僕の目の前に広がり、また一瞬にして、消えてしまった。僕の身体は小刻みに震えている。


早く逃げて家に帰りたいけど、体が衝撃で動かない。ブランコに坐って空だ真っ黒になるまでじっとした。


ようやく体の感覚を取り戻した僕は思い足を引きずりながら家に帰った。


家に入った瞬間、今までの緊張感から一気に解放され、その場に崩れた。先までみた景色は幻想だと自分に言い聞かせてみたけど、そんなふうに否定すればするほど、あの情景がやけにリアルに目の前に浮かぶ。


どれぐらい、床に座ったか知らないけど、空腹感が僕にご飯を食わせてくれと、抗議した。僕は立ち上がり厨房へ入った。


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