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黒手  作者: 高瀬 梟角
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天佐具売 あめのさぐめ 第一章

 高天原は葦原中国あしはらのなかつくにを平定させるために天菩比神あめのほひのかみを派遣したが、うまくいかず次に天若日子あめのわかひこを派遣する。この天若日子の補佐として天佐具売あめのさぐめも葦原中国に同行する。しかし天若日子もまた音沙汰がなくなる。しびれをきらした高天原は事情を聞こうと、鳴女なきめという雉を使者として天若日子のもとに送った。鳴女は天若日子の屋敷の門の前の木にとまり、高天原の意向を伝えたところ、これを聞いた天佐具売は天若日子をそそのかし鳴女を弓で討たせてしまう。


 もともと天佐具売は占いの神として神託を告げる、巫女の神であり、その名前(天探女とも書く)から隠された真実を明らかにする神であったようだ。しかし天若日子をそそのかし鳴女を弓で討たせてしまうという行動から、天の意向に反する者としての反逆者の扱いとなり、そこから天佐具売は天邪鬼の原形とも言われる様になった。


 摂津名所図会には


 小橋村の西南田圃の中に一堆の丘あり 字を下至土野原(げしどのはら)といふ 土人は俗に磐舩山とよぶ 是則天探女命 磐舩に乗て天降り給ふ時 其とど満りし地也とぞ 故に高津といふ名あり 


 とあり、天若日子と天佐具売が天から降った地が高津と呼ばれる様になったと言われている。高津とは現在の大阪市中央区高津のあたりである。

 交番の掲示板の前で晴助はぼーっと突っ立って、子供の顔写真と大きな文字で「この子を探しています。」と書かれたチラシを眺めていた。ここだけじゃない、駅にも、コンビニにも、電信柱にも、同じチラシが貼られている。まだ幼い女の子のあどけない笑顔と行方不明という赤い文字のコントラストが不気味に感じられた。そう、俺もこの子を探している。晴助はふらっと歩き出す。


 そう、この子の祖母が三日くらい前に神社に来て


 ——どうか、孫を無事にお返しください。


 と祈願していったからだ。


 事件が起きたのは半年ほど前の事。その日、彼女は学校からの帰り、もう少しで自宅というところで忽然と姿を消した。丁度今俺が立っている所で、目撃されたのが最後だ。自宅から三百メートル程しか離れていない。警察の発表ではここから自宅までの間で、何者かに連れ去られた、という事らしい。あたりを観察しながら、彼女の家まで歩いてみる。この事件は注目を集め、全国ニュースでも取り上げられた程だ。その為、警察も特に力を入れ、事件発生から今までのべ二万人近くの捜査員を投入したらしいが、未だ彼女は行方不明だ。


 そもそも俺みたいな素人がうろつきまわっても何も見つかる訳はありゃしないし、大体素人が犯罪捜査なんか出来る訳がない。それは分かってはいるが、それでも暇さえあれば晴助はこのあたりをうろうろしている。取りあえず事件に付いてのあらゆる報道資料を読んでみたが、そんな物を読んだ所で犯人が分かる筈もない。だから晴助はこの事件現場をうろうろ歩きながら、何かないかと考えるくらいしか出来ないのだ。そうやってうろうろ歩いては考える。そして考えを整理してまとめる、こんな作業を繰り返してる訳だ。


 今まで整理出来た考えとしては


 ——彼女は生きている


 祖母の祈願を神様が受けたという事がそれを物語っている。


 ——彼女は犯人と一緒にいる


 彼女が生きているなら、犯人は生きた彼女に価値を置いている、という事だ。だとしたら自分の手元に置いておく可能性が高いだろう。


 ——犯人にはあやかしが憑いている


 俺がここにいるんだから、当然あやかしが絡む事件だろう。そしてその誘拐犯にあやかしが憑いていると考えるのが妥当だろう。


 と、なると……俺はむしろあやかしを探した方が早いのか?警察には犯人にあやかしが憑いているなんて考える人間はまさか居ないだろうし。あやかしを探す……そう言えば……


 晴助は思い付いた様に駆け出した。自宅に戻った晴助は食卓の上に散らばった郵便やチラシをひっくり返して、何かを探す。


「あった、これだ!」


 そう言って、手に取ったのは黒衆新報だった。先月郵便で送られてきたが、よく分からないままパラパラめくってそのまま放っておいた物だ。


「確か、これに……」


 晴助のページを繰る手がぴたっと止まる。どうやら目的の物が見つかった様だ。


 探し物なら黒耳まで!どんなあやかしでもぴたり探しあてます!

 電話は今すぐ 090ー××××ー9633(電話はクロミミ!)


 晴助はその広告を三度読んで、思案し、やっとスマホに手を伸ばす。


「もしもし……」

「はいはーい、黒耳です。」

「……あの、あやかしの事で。」

「えーと、黒衆の方ですか?」

「あ、はい。……黒手です。」

「あー、佐治さんの……」

「そうです。佐治さんの後任の黒手です。加貫晴助という者です。」

「そうですか。それで、あやかしを探して欲しいと?」

「ええ、そうなんです。」

「えーと、そやな……今から行きますわ。夜の九時までには着くと思います。」

「え?今から来て頂けるんですか?」


 晴助は何度も礼を言って電話を切った。ここ二、三日のもやもやが晴れた気がして、晴助は少し生き返った様な気分になった。

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