第5話
魔法儀の翌朝、ケイブはほとんど眠ることが出来ずに目を覚ました。
とは言っても、授かったスキルへの失望感で眠れなかったのではない。
原因は、隣で添い寝をしている色白金髪爆乳メイドのせいだ。
号泣していた俺が心配なあまり「今夜は一緒に添い寝させて頂きます!」と言い張り、頑なに譲らなかったのだ。
しかも実際には添い寝ではなく、もっと密着したキャロンハグハグをされている。
説明しよう。キャロンハグハグとは、キャロンが豊満な胸に俺の顔を挟んだ状態で行うハグのことだ。
大変弾力に富んでおり枕が要らない効果があるが、心が三十二歳のオッサンにとっては興奮しすぎて眠るどころではない。
さらに、一生をナホーティアの為に捧げると誓った以上、キャロンに手を出すわけにもいかなかった。
キャロンの胸から抜け出してふとベッドを見ると、掛け布団が乱れている。
かつて無かったことだが、心の底から、乱れを直したい衝動にかられる。
乱れを丁寧に直すこと一分。寝る前よりもきれいにベッドメイクが出来た。
ーーうーん清々しい。自分の心も整った感じがするな。さぞかし召使もびっくりだろう。
ついでにキャロンの寝癖と寝相も三十秒で直しておいた。
まだ朝早い時間だったが、今日はみっちり予定が入っているので早めに動き出す。
なんと、キャロンが一日つきっきりで魔法の稽古をつけてくれるというのだ。
キャロンは美貌とおっぱいだけが取り柄のメイドだと思っていたが、実は魔法を使えるそうだ。
まあ、使えるとは言ってもほんの初歩レベルではあると思うが……
ーーーーーー
リハイヘヴン家ほどではないが、クオーツカス家も裕福である。東京ドーム1個分の敷地は優にあり、その周囲には領民達が暮らしていた。
朝食を食べて屋敷近くの原っぱに行くと、すでにキャロンが待っていた。
「さあ、お坊っちゃま! 今日は一日がんばりましょうね! 最後までやり通せた場合でも、そうでない場合でも、ご褒美で『キャロンパフパフ』を致しますのでお楽しみに♪」
こういって、キャロンはどーんと胸を付き出した。勢いよく弾んでいる。
ーーキャロンパフパフ。
詳細は不明だが、語感的に、恐らく十五歳にして良いことではないだろう。
「あ、ありがとう。それで、今日はどんな訓練をするの?」
とりあえず話題を変えてみた。
「まずは、身体の中に魔法エネルギーが実在している感覚を身につけて頂きます。地、水、火、風のエネルギーで、自分の身体が満たされているイメージをして下さい。どんな人でも、自分の適正以外の元素を、わずかばかり身体の中に持っているのです」
世界の全ては地、水、火、風の四大元素で出来ている。それは人間の身体も同じだ。
ケイブは雷の適正を持つが、四大元素の要素も少しは身体に存在しているのだという。
「魔法を使いこなすにはイメージが大切です。自然は身体の一部。身体は自然の一部。これをどう想像するかが全てなのです!」
キャロンは目の前にある湖、地面、空を指差す。そして指をパチンと鳴らすと、指先に火が灯った。
「この1つひとつが、細かーい魔法エネルギーの粒で構成されていると思って下さい。湖からは水の粒子、地面からは地の粒子、空からは風の粒子、この炎からは火の粒子が、お坊っちゃまの身体に流れこんでいくイメージです」
実際にイメージしてみると、なるほど。身体がすごく熱くなったり、涼しくなったり、重たくなったり、軽やかになったりする。
「飲み込みが早いですね! 流石は坊っちゃま! 例えば水術士であれば、水の粒子が身体に巡ると同時に、身体が涼しくなります。そして、身体から再び水の粒子が放出されて、水に還っていくイメージで練習するのです」
「雷術士の場合は?」
「うーん、実はそこが悩み所でして。この大陸に、雷をイメージ出来る人はいないのではないかと。地水火風のいずれかなら、イメージは容易なのですが。雷に打たれたが最後、生きてる人はいませんからね。どうしましょう……」
まさかのノープランだ。ここまでやらせておいて……
だが、俺は雷をイメージ出来る自信があった。
なにせ、前世でエアコン修理中にうっかり軽い感電をしたことが何回もあったからだ。
簡単な修理の場合、面倒臭くてブレーカーを落とさずによく作業してたせいなのだが。
あの焼けつくような、しびれるような感覚をイメージ。
地水火風のエネルギーの粒子が、身体に入っていく。そして、それが雷の粒子となって、身体から放出される想像を深化させていく。
さらに深く深く集中していく。すると突然、頭の中に女性の声が響き渡った。
『スキル『整理整頓』を発動します。雑念は全て排除。目的を達成する為に、最適な思考を誘導します』
その言葉が終わるや否や、身体中から青と紫の電光が発せられた!!
「お坊っちゃまっ! まさに天才です! どんなに早くても1年はかかると思っていたのに!」
キャロンが涙ぐみながら駆け寄ってくる。
「よせ、キャロン! 今は危ない! 感電するぞ!」
「お坊っちゃま~! あばばばばばばばば」
間に合わなかった。
ーーーーーー
気絶したキャロンを介抱しながら、ケイブは喜びに震えていた。
ーーこの力があれば、ナホーティアを支えることが出来る!お父様やテングレス様に喜んで頂ける!整理整頓スキルと雷術士の力で!
ふと見ると、キャロンがうっすらと目を開け、両手を広げつつ何かを呟いている。
しびれが残っているせいか声が弱々しく、よく聞こえない。
「ぱふ……ぱふ……」
どうやらキャロンはご褒美をくれようとしているようだが、俺は何も聞こえなかったことにした。
この後間もなく、1章の山場を迎えます。
その後で、少しタイトルを修正する予定です。漢字を2文字加えるだけなのですが、ネタバレになってしまうので控えてました。
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