第3話
予想もしていなかった事態に、ケイブ、ケルン、キャロン、教会長の四名は言葉を失った。蓮華は必ず魔方陣の中に落ちる仕組みになっている。本来このような事はありえないのだ。
「教会長、これは一体どういうことなのでしょうか?」
ケルンの問いかけに、教会長は無言で答える。というより、微動だにしない。まるでしかばねのようだ……。
「教会長?!」
「う、うむ、かれこれ五十年魔法儀に立ち会って来たが、このようなことは初めてじゃ」
ようやく口を開いた教会長は、冷や汗をかいている。
「教会長様。良く見ると、蓮華の下に文字が書かれているようです」
キャロンが言う通り蓮華が落ちた場所の真下を見ると、小さく『雷』と書かれていた。つまり、雷魔法の適正があるということだろうか。
「なんと……雷術士は千年前に存在した大魔導士様以来現れたことのない適正じゃ!」
「お坊っちゃま! 素晴らしいです!」
「ふん。クオーツカス家の血筋からすれば当然だ」
キャロンとお父様はそれぞれの反応を見せている。
ーーすごい! 俺には才能があるのかもしれない!
俺は内心とても興奮していた。千年振りに現れた雷術士。この貴重な魔法を極めれば、クオーツカス家の爵位も上がり、お父様にも褒めて頂けるに違いない。きっと、スキルも素晴らしいものが授かるだろう。
「つ、次はスキルじゃ!スキルの判別に移ろうぞ!」
巨大な神像の前に、これまた巨大な水晶玉がある。ここに手をかざすと、一人ひとりに合ったスキルが授かるのだ。この水晶玉は王国に古くから伝わる国宝である。詳しい仕組みは解明されておらず、現在の王国の技術では作製が不可能だそうだ。
貴族は、授かるスキルが如何なるものかによって人生が決まる。一般的なものだと剣士や魔法士などのスキルが多い。スキルは魔法よりも大事なものとされている。
また、スキルは遺伝することが多い。父親のケルンは強力なスキルを持っているので、ケイブの期待も強かった。
ーー自分としては、お父様のような魔導士がいいな。
そう思いつつ緊張の面持ちで手をかざす。すると水晶玉から強い光が発せられた。
光がケイブの身を包み、次第に収束していった。
「教会長、私はどのようなスキルを授かったのでしょうか?」
「……」
「教会長??」
「ありえん。こんなことが……魔法の適正のみならず、スキルまでワシが見たことがないものじゃ!!」
「教会長、教えて下さい!」
「整理整頓……」
「ええ?」
「整理整頓、のスキルじゃ……」
メイドにでもなれと言うのだろうか……
例えば、剣士のスキルが授かった者は剣技の上達が早い。そう考えると、整理整頓のスキルはお掃除力が向上するのだろう。なんじゃそりゃ……。
ちなみに、スキルがどのような力を持っているのか等は魔法儀では解らないようだ。個人の修練によって、使い方が自然と解るようになってくるのだという。
整理整頓スキルも、もしかしたらお掃除以外の使い方があるかもしれないとのことだ。殆ど慰めにならない言葉だったが。
結局、獲得したスキルは1つのみだった。完全に外れスキルである。
ケイブは、この時の父親の落胆した表情を、生涯忘れることは出来なかった。
しかし、整理整頓スキルはとんでもない力を持つことが後に解明されるのである。
整理整頓のスキルを持つ雷術士、ケイブ・クオーツカス。
後に歴史に名を刻むことになる、大魔導士の誕生であった。