第1話
次第に頭がはっきりしてきた。
俺の名前は、ケイブ・クオーツカス。クオーツカス家の長男である。
クオーツカス家は、キングウェル王国の公爵であるリハイヘヴン家に仕える一族だ。
クオーツカス家の長男は、代々リハイヘヴン家当主の為に尽くす慣例になっており、幼少期から大変厳しい訓練をさせられる。
さっきまでクオーツカス家当主、すなわち父親であるケルンと剣の特訓をしていたはずだ。
頭に手をやると、ズキズキと痛む。
「ケイブお坊っちゃま、頭のお怪我は大丈夫ですか? ご主人様の木刀が当たってしまったと聞きましたが……」
心配してくれているのはメイドのキャロンだ。10代後半で白い肌にブロンド。幼い顔立ちでポニーテールがよく似合っている。
祈るように組んでいる手のせいで、ふくよかな胸が潰れている。
どうやら、父親の剣を頭に受けて気を失ってしまったようだ。しかし、頭に衝撃をうけたせいで俺は前世を思い出した。
前世の名前は近藤雄二。妻の名前は奈帆。日本人で、職業はエアコン修理のエキスパートだった。
32年分の記憶が一気に流れこんだせいか、頭がかなりボーッとしている。
するとドアがバタンと開き、初老の男がツカツカと部屋に入ってくる。
苦味走った色男で、ロマンスグレー。鋭い目付きに高い鼻。一見してプライドの高さがわかる。父親のケルンだ。
「一体お前は何をやってるんだ! 情けない。明日は魔法儀の日なんだぞ。そんなことでクオーツカス家の当主が務まると思っているのか!」
魔法儀とは、15歳の誕生日に行う儀式のことだ。どの魔法に適正があり、どんなスキルがあるか判別する為に行う。
貴族は、この儀式によって将来が決まってしまう。適正が高く、珍しいスキルがあれば待遇も良くなり、爵位も上がる望みがある。低ければ相応の地位に止まってしまう。
クオーツカス家の爵位は低い。それだけに、家運は当主の力量にかかっていた。
クオーツカス家の当主は代々魔法適正が高く、貴重なスキルに恵まれていた。特にケルンは火術師のエキスパートであり、スキルも剣豪と魔導士のスキルを持っている。
スキルは1つあれば優秀、2つもあれば天才と呼ばれるレベルである。
その卓越した技量でキングウェル王にも知られており、爵位が上がる一歩手前まで行っている。
「お父様、大変申し訳ございませんでした」
反射的に謝罪の言葉が出た。父親はかなりのスパルタであり、反論を許さない。
ーー前世はお客様、今世は父親に頭を下げる人生だな。
部屋を出ていく父親を見送った後、キャロンが強く抱きしめてくる。
「ああっ、かわいそうなお坊っちゃま! お怪我はございませんでしたか~??」
豊かな胸に挟まれながら頭を撫でられる。そして、頬にたくさんキスをされる。
以前は何ともなかったのだが、前世を思い出したせいか異性に対して妙にドキドキしてしまう。
「キャロン、もう大丈夫だから、放してくれ」
「いえ、放しません! お怪我をしてるのにあんなに怒られて、かわいそうなお坊っちゃま!」
そして、またひたすらキスをされる。もちろん悪い気はしないのだが、落ち着かない。
結局良く寝ることも出来ず、魔法儀の日を迎えるケイブであった。