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【イリシャ】

 私の父はインキュバスだ。淫魔は本来女性が多く彼女らはサキュバスと呼ばれるが、ごくまれに男の個体が存在し、それがインキュバスと呼ばれる。後で知ったところによると父は魔王軍四天王という超大物だったらしい。私が生まれた時はすでに討たれていたから知ったのは大分後だけど。


 もっとも、父とは一回も会ったことはなくても父が遺した血筋は大いに私を苦しめたのだけど。


 私は父が戯れに犯した人間の母との間に生まれた子だ。母は父に記憶を消されたのか、あまりにもおぞましいことだったから無意識に自分で記憶を消したのか、私は普通に父(母の夫の方)との子として育てられた。人間の父が真相を知っていたのかは定かではないし、確かめたいとも思わないが、今思えば私への接し方が妙にぎこちなかったような気がする。


 インキュバスも外見自体は人間とそんなに変わらないこともあって、私は魔力が高いという以外はごく普通の人間のようにして育った。


 そんな私が道を踏み外したのは七歳のころのことである。


 当時生まれつき持っていた高い魔力を買われて私はとある魔法学園(王立魔法学園とは別)に通っていた。深読みすると、私を腫物扱いしていた母が私を学園の寮に入れて距離を置きたかったという可能性もある。

 ともあれ、そこで私は神童としてもてはやされていた。幼いながらもそのことに私は快感のようなものを抱いていたが、同時に疎外感のようなものも感じていたことを覚えている。


 そんな私に一人の親友が出来た。彼は私を“神童”ではなく一人の人間として接してくれた。生まれた経緯が経緯だったから腫物に触るような扱いで両親にも育てられた私を、初めて“私”として扱ってくれた彼に私は感謝し、友情をはぐくんだつもりだった。


 しかし私が純粋な友情をはぐくむ一方で彼は私を性的に意識するようになっていた。当時自分がインキュバスと人間の合いの子であることに気づいていなかった私は、自分の能力を制御することも出来ずに、無自覚に魅了の力を垂れ流し周囲の人間を性的に魅了していたらしい。


 その事実を知らなかった私は、だんだんと性的な意味で自分に惹かれていく生徒が増えていく事実に気味悪さのようなものを感じていた。誰だって、今まで普通に友達と接していた相手からそういう目で見られるようになれば驚くのではないか。しかし原因が分からなかった私はそれを思春期による男子の成長というぐらいにしか思っていなかった。


 それに親友の彼だけは私を”女”ではなく”イリシャ”として見てくれていると思っていたし、そんな人が一人いればそれでいいとも思っていた。


 そんなある日、事件が起こった。私は女として見られることについては煩わしく思っていたため、告白してくる男たち(たまに女もいたが)を手酷く振っていたが、その日ついに彼は私を人気のない教室に連れ込み、告白した。


 それだけでも私は親友の彼がその他大勢と同じになってしまったようで悲しかったが、どうにか断った。


 それでも彼は退かず、断り続ける私に対してその場でそういう行為に及んだ。思えばずっと私の近くにいた彼は一番強く魅了を受けていたのかもしれない。それでもその日まで何とか自制していた彼は、自制が外れたときの衝動が凄まじかったのだろう。唯一の友人とも言える彼の行為に、私は単にそれをされたこと以上の、言いようのないショックを受けた。


 その時の記憶は飛び飛びで、詳細なことは覚えていない。


 ただ、気がつくと夕暮れの教室に半裸の私が一人で立っていて、その隣に彼の死体があった。私は追われる身になったことを理解した。正当防衛であることを説明するには、あのおぞましい状況を説明する必要がある。それが嫌だった私はそのまま逃避行を始めた。


 当時は気づいていなかったが、もしきちんと事情を説明していれば魔物の血を引いていることがばれて殺されていた可能性もあるので、結果的にその選択は正しかった。


 そして逃亡を続けていた私は、ある日ドラージュに拾われた。どこから私のことを聞きつけたのか知らないが、彼は私のことを魔王軍四天王の落胤だと告げた。私は驚愕するとともに今までのことを全て理解し、納得した。それは全て私の呪われた血がなしたことであると。それはどうしようもない呪いではあったが、その反面救いでもあった。私は悪くなく、あくまで呪いのせいだったとも言えるのだから。


 ドラージュの配下のようになるのは嫌だったが、魔物の血を引く上に人間を殺した私が人間社会に戻ることはかなり困難だった。人間社会に戻れない以上、ドラージュの手から逃れるのは難しい。


 全てを理解した私はドラージュに命令された仕事をこなす合間に魅了の制御と剣の訓練を始めた。私は私の身におぞましいことを引き起こしたインキュバスの血を嫌悪していた。まずは無自覚に行われていた魅了を封印し、二度と使わないようにした。


 そして魔力の高さも血の為せることである。だから私はそんな血に頼らなくても済むよう、おのれの技量であると言える剣の鍛錬をひたすら行った。もっとも、身体能力の高さすら人間よりもインキュバスの方が高い身体能力を持つが故だったが。


 魔物狩りやダンジョンの踏破などの訓練を積んだのもこの時期である。ドラージュはそんな私を放置していた。何にせよ、私が強くなるならそれでいいと思っていたのだろう。



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