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魔神ダンジョン三層

 その後俺たちは第二層のボス、三つ首の番犬ケルベロスを一瞬で倒し、第三層へと降り立った。

 第二層の通路は石で出来ていたが、三層へと進むと通路の壁は鉄に変化していく。奥へ進むほど魔神から近くなり、影響が強くなるということだろう。また、漠然とではあるが周囲に漂う魔力の量が濃くなってきたような気がする。


「そろそろ強敵が出て来るかな」

「どうでしょう……魔神の元へたどり着くまではそんなに変わらないかもしれません。どうせ魔法一発ですし」

「楽してるみたいに言うな。素材を損なわないように狙いをつけるのは結構難しいんだぞ」


 特に俺は学園で実技を避けに避け続けてきたため、とりわけひどい。魔法を使うことと、魔法を狙った場所に使うことはまた違うのである。事前に動物の狩りで経験を積んでいなければ、今イリシャの荷物にある素材は全部消し炭になっていただろう。


 そんなことを話しながら歩いていると、通路の奥からこちらへ歩いて来る足音が聞こえる。複数人で、人と同じぐらいの足音だ。三層で初めての敵だ、と身構える。

 こちらにやってきたのは人間のように二足歩行しながらも狼のような頭をした、いわゆる獣人の兵士五人である。


 とはいえ一般的な人間よりは一回り大きく、身長も二メートル以上あるだろう。彼らは鉄の鎧で身を固め、大剣やハルバードなど大きめの武器を装備している。鎧から出て見える腕には逞しい筋肉がついていた。

 おそらくイリシャの腕をもってしても、白兵戦でこいつらを五人相手にするのは骨が折れるのではないか。


「どうする? 先手をとって焼き尽くすか?」

「お願いします」


 彼らも俺たちに気づき、武器を構えてこちらに迫ってくる。が、所詮近接武器だ。こちらの魔法の方が間合いは長い。


「赤の(ルーブラム)!」


 先手を打って俺が炎を発射すると、紅蓮の炎が龍の首のように獣人たちに迫っていく。すると先頭の獣人がハルバードを構える。その矛先を中心にうっすらと透明の膜のようなものが形成された。これはもしやバリアのようなものだろうか。


 次の瞬間、俺の炎がバリアにぶつかる。が、二秒でバリアは消し飛び、炎は獣人たちの体を包み込んだ。


「うーん、これでも強すぎたか?」


 が、炎が消えるとそこには全身が焼け焦げた獣人が五体立ったまま残っていた。バリアで魔法の威力を弱めたのか、こいつらの鎧に魔法を弱める力があるのか、獣人の体力が並外れているのか。

 俺がそれを確認したときにはすでにイリシャが剣を構えて突撃していた。炎をまともに喰らっていた獣人の反応が遅れる。


「やあっ」


 先頭の獣人がハルバードを構えた時にはすでに、武器は腕ごと地面に落下していた。


「ウォォォォォ!」


 獣人たちは雄たけびのような咆哮のような声を上げ、長い武器を捨てて剣をとり、イリシャに襲い掛かる。


 が、イリシャはまるで蝶が舞うように彼らの白刃の下をかいくぐり、敵の懐に飛び込んでは剣で敵の腕を刺していく。その様はまるでそういうダンスでも踊っているかのように美しかった。


 しかし急所を鎧で守っている上に獣人たちは人間離れした体力を持っているため、なかなかイリシャの攻撃ではとどめを刺すには至らない。

 仕方ない、乱戦に魔法を撃ちこむのは少し危険だがやってみるか。


「イリシャ、上からいく! 赤の(ルーブラム)!」

「えぇっ!」


 イリシャは悲鳴を上げたがきちんと身をかがめてくれた。

 俺の手から発射された炎は通路の上空を覆い、ちょうど獣人たちの顔に当たる部分を焼き尽くしていく。炎はイリシャよりも背が高い獣人たちの顔だけをちょうどよく焼いた。その隙にイリシャは一体ずつ、彼らの喉元を斬り裂いていく。


「グォォォォォォン!」


 狭い通路に獣人たちの悲鳴が響き渡り、戦闘は終了した。後に残ったのは全身に軽い火傷を負った上に顔面に大やけどをして喉から血を流す獣人たちの死体だった。


「ふう、ちょうどよい火力っていうのは難しいものだな」

「そうですね。しかし野良魔物でこの強さということは……この層に魔神がいるかもしれません」


 いよいよか、と俺は再び気を引き締める。




 その後軽く休憩し、イリシャが獣人たちの牙をはぎ取ると俺たちは先に進む。


 さらに敵を倒しながら(今度は初手から火力を出して敵を殲滅した)進んでいくと、一つの部屋に辿り着いた。さほど広くはないが、中央にはチェス盤のようなものがあり、奥には重厚な金属でできた扉がある。おそらく何かの合金だろう。そして手前にはいくつかの駒があった。チェスの駒とは少し違い、魔物、戦士、魔導士などの種類がある。


「なるほど、ここは謎ときしないと出られない部屋のようですね」


 そう言ってイリシャが壁を指さす。そこには何かの文字で設問のようなものが長々と書かれていた。要するにこの駒をルールに従って動かして敵の駒をとるのだろう。

 それを見て俺は最近覚えたものの、まだ練習以外で使ったことのない魔法の存在を思い出す。


「ごめん、ちょっと試したいことがあるんだ」

「え、何ですか?」

「蒼の(ヴィリディ)!」


 俺の手から蒼い炎が噴き出し、扉に命中する。手から炎を出し続けること数秒。気が付くと扉は跡形もなく消滅していた。


「ふう、やっと蒼の炎が試せて良かった」

「……あの、何ですか今の」


 イリシャがドン引きしながらこちらを見つめる。


「これか? これは無機物だけを消滅させる炎だ。だからほとんどの魔物には利かないから使いどころに困ってたんだが……やっぱり実際に使ってみるとすごいな」

「こんなことされたんじゃダンジョンを作った魔神もがっかりでしょうね。なんか手が込んでいそうな謎解きだったのに」

「魔神の気持ちなんてどうでもいいから」


 そんなことを言いつつ、俺たちはさらに先へ進む。

 その後も巨大化した蝙蝠や薬草に擬態したマンドラゴラなどを討伐しながらも先に進んでいくと、ダンジョンの最奥にひと際立派な扉が現れた。扉には例の魔神モールドレックの紋章が描かれ、ご丁寧なことにとってまで描かれている。


「マッピングによると、おそらくこの先に魔神がいるでしょうね。第一層、第二層のボスもこのあたりにいたような気がします」


 ちなみに俺は曲がり角やら行き止まりやらが多すぎてすでにここがどの辺なのか分からなくなっていたので彼女の努力には頭が下がる。


「そうか。どうする? 先手をとって全てを消し飛ばすか?」

「それでもいいです。ただ、どうしてこいつらがこんなところにいるのかは気になります。先輩に対して何か企んでいるのかどうか、先輩に何があったのか。もしかしたら何か知っているのかもしれません」


 言われてみればそうか。


「もっとも、素直に目的を教えてくれるのかも分からないので、どうするかはお任せしますが。ちなみに今回は全消滅で大丈夫です。こんなダンジョンを作る相手である以上、下手に手を抜けば思わぬ被害を被る可能性もあります」


 イリシャは真剣な表情で話す。


「確かにこいつらが俺を追ってきたのかどうかは気にはなるな」

「いいと思いますよ、無理に知らなくても。下手なことを知ってしまえば、もう今までのようにのんびりと魔法の研究を行う日々は送れなくなるかもしれませんし。……それに、わずかでしたがこの村に滞在した日々も、楽しかったですし」


 最後の方は少しだけ恥ずかしそうにイリシャは言う。それを見て俺は少しだけいたずら心を起こしてしまう。


「ずっといるのは嫌だとか言ってたのに、ツンデレか?」

「な、な、何言ってるんですか! 私はただ、ずっと一途に自分の研究を続ける先輩がいいなって思ってただけですっ」


 イリシャが顔を赤くして反論するが、別に反論にはなっていない。

 しかし俺とてまだ学生だったとはいえ研究者の端くれ。知的好奇心はある。


「とはいえ、俺の唐突な覚醒でこのグリモワールが手に入った以上、俺の正体を知ることは古代魔法の研究の助けになる可能性もあるんだよなあ。とりあえず話は聞こうとしてみるか。もちろん、危なくなったらすぐ消し飛ばすが」

「分かりました」


 俺の結論にイリシャはこくりと頷く。こうして俺たちは目の前の扉を開いたのだった。

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