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魔神ダンジョン・二層へ

 通路を歩いていくと、ダンジョンというだけあって、様々な魔物が現れた。次に現れたのは蝙蝠の魔物だった。天井付近を飛びながら、牙をむいてこちらに襲い掛かってくる。ちょこまかと動き回る上、牙に毒があったり、血を吸って回復したりと弱い割には厄介な魔物だと教科書で読んだ。

 ちょこまか逃げ回るような魔物を撃ち落とすなら広範囲に魔法を撃つ方がいいだろう。


「赤の(ルーブラム)!」


 手から紅蓮の炎が噴き出し、蝙蝠たちを包みこむ。狭いダンジョンの通路では俺の炎から逃げ回る場所すらない。


「やあっ」


 一匹だけ果敢にも前進してきたが、火傷でふらふらになっていたところを容赦なくイリシャの剣で両断される。


 俺の炎が消えた時には蝙蝠の群れは全て炭になっていた……てこれまずくね? と思ったが時既に遅し。イリシャがこちらをジト目で見つめてくる。


「……先輩、素材を採るから消し炭にしないでくださいって言いましたよね?」

「これは違うんだ、奴らちょこまかと逃げ回るから広範囲に魔法を撃ったら火力も知らぬ間に上がってたんだ」


 俺言い訳を聞いてイリシャは頭を抱える。


「うーん、本来ならそれはすごいんですけどね。普通範囲を広げたら火力は落ちますし。もういいです、多分この階層なら私だけで何とかなるんで先輩は私の雄姿を眺めていてください」


 なぜか戦力が高すぎて戦力外通告されたんだが。こんなことってあるか?


「まあそれはそれでいいが……そんなに素材って大事なのか?」


 正直魔物と戦ったことなどないので全く分からない。


「はい。例えばこの蝙蝠の牙からは毒に効果がある薬を作ることが出来ます。もしくは売ってお金に替えてもいいですし、村長さんなら何かと交換してくれるかもしれません」


 そう言いながらイリシャは器用に剣で蝙蝠の牙を切り取る。確かにそう言われてはぐうの音も出ない。ちょうどうちにも家具が欲しいと思っていたところだしな。

 何もしなくてもいいのは暇だが、もし魔神が出てきたら出番はあるだろう。せいぜいそのときまで力を温存しておくか。


「分かった分かった、でも危ないと思ったらすぐ言ってくれ」

「それはもちろんです」


 次に現れたのはスライムであった。俺の膝ぐらいまでの大きさだが、集団でずりずりと地をはいずるようにこちらに進んでくる。紫色の毒々しい色に濁っており、一か所だけ赤い球がある。教科書によるとあれがスライムのコアで、あそこ以外の部分を攻撃してもあまり意味がないらしい。


「せいっ」


 イリシャは見ているだけでいいと大口を叩くだけあってその動きは素早かった。あっという間に先頭の一体のコアを斬り裂くと、次々と飛び掛かってくる後続の攻撃を剣でいなしつつ、コアだけに的確に突きを繰り出しては倒していく。

 気が付くと、辺りにはかつてスライムだったねばねばした液体だけが残っていた。俺はぱちぱちと手を叩く。


「やるじゃないか」

「まあ雑魚敵ですしね。スライムのコアは魔法薬などを作る際に重宝するから、そこそこの値がつきますよ」


 そう言いつつイリシャはスライムのコアを集めてはビンに入れていく。


「あの村に魔法薬作る奴なんているのか?」

「……もしかしたら村を出ていくこともあるかもしれないじゃないですか」

「不吉なことを言わないでくれ」


 正直、この村を出ていくということは追手が来ることである。急に俺が許される可能性もゼロとは言えないが、すでに逃亡した俺の罪が本当だったかどうかわざわざ調べてくれるような人物はいるのだろうか。


「え、私はこんな田舎で一生を終えるのは嫌ですけど。ほとぼりが冷めたら変装して名前変えて第二の生を送りましょうよ」

「それは俺もそう思う」


 正直自分のグリモワールを解読し終わるまでは無理にここを出なくてもいいと思っていたが、それも別に永遠ではない。


 それに俺は魔神疑惑がかかっているだけで何か悪いことをした訳でもないので、そのうち忘れられるのではないか、という甘い期待もある。


「あ、これは薬草ですね」


 通路の突き当りに、小部屋のようなものがあり、その中にきらきらと光る草が生えている。確かダンジョン内は魔力の濃度が高いため普通の草が変異して薬草や毒草になることが多いという。

 イリシャが小部屋に足を踏み入れると待ち構えていたのかのように天井からスライムのような魔物が降ってくるが、一刀で斬り捨てる。

 今あいつ見ずにコアを正確に斬らなかったか?

 俺も唐突に謎魔力に覚醒したが、あいつも大概やばいやつではないだろうか。そんな俺の視線にも気づかず、イリシャは薬草を採取すると戻ってくる。


「お待たせしました……どうしました?」

「いや、何でも」


 その後俺たちは一番奥と思われる部屋に辿り着き、イリシャは底にいたボスと思われる斧を構えた二メートル以上の身長がある屈強そうな鬼を十数秒で斬り捨てた。


 心臓の辺りに致命傷を受けた鬼がその場に崩れ落ちると鬼の後ろの壁が音もなく開き、その後ろには下へと降りていく階段が続いているのが見える。


「手ごたえがないと思ったらここは多層型のダンジョンだったようですね」

「そうか。で、俺は第何階層から戦力になれるんだ?」

「……分かりました、そんなに言うなら次からは攻撃してもいいですよ」


 第一層は土のような壁だったが、第二層へ降りていくと徐々に壁や床の材質は石になっていった。よく分からないがこれも魔神に近づき、影響が強くなっている故だろうか。


 やや警戒しながら通路を歩いていると、今度は人間のような顔をした体がライオンの獣が向かい側からゆっくりと歩いて来る。明らかに自然発生するような魔物ではないが、ここは魔神が作ったダンジョンなので、邪悪な存在が発生しているのかもしれない。


「気持ち悪いです……」


 これにはさすがのイリシャも顔をしかめた。

 獣は気味悪がる俺たちに近づいてくると、大きく口を開く。ブレスのようなものを吐こうとしているのだろうか。だとすれば猶予はない。


「くらえ、赤の(ルーブラム)!」


 俺は先手をとって炎を発射する。今度は先の反省を踏まえて炎を出来るだけ細い線状にする。これだと当たる確率は下がるが、相手は悠然と歩いて来るので素早くかわすようには見えない。


 獣も口から何か禍々しい瘴気のようなものを吐き出そうとする。が、口の中にたまったその瘴気を貫くように赤い炎が抜けていく。


「ぐおおおおおおおおおお!」


 獣は悲鳴を上げてその場に倒れた。今回は俺の魔法は見事に獣の中心部だけを撃ち抜いており、遺体はほぼ完全なままである。


「どうだ、俺もやれば出来るだろう」


 俺はちょっとドヤ顔でイリシャの方を見る。

 するとイリシャは言いづらそうにこちらを見る。


「先輩……言いにくいですが、そいつは邪悪な存在なので素材は神官が浄化しないと使えません」


 次の瞬間、俺は無言でそいつの遺体を焼却した。ふざけやがって。


「……」

「さ、次行くぞ」


 少し歩くとやや広い部屋に辿り着く。そこには先ほどの小鬼を大きくしたような魔物が五体並んでいた。気のせいか、一層に現れた奴らよりも硬そうな鉄の鎧をまとい、手に持っている剣や斧といった武器も大きく、強くなっているようだ。


 その後ろには立派な形をした宝箱がある。魔物たちは俺たちの姿を見るなり、奇声を上げてこちらに殴り掛かってくる。


「赤の(ルーブラム)!」


 俺の手から五筋の炎が発射され、小鬼たちに襲い掛かる。そのうちの二体はかわしたが、三体は炎の直撃を受けてその場に倒れた。

 が、次の瞬間には残る二体も続けざまのイリシャの斬撃を受けてその場に倒れる。


「おお、今のはいい感じのコンビネーションでしたね」

「これで文句ないだろ」

「はい、しかもこいつらの武器はいい値段で売れますよ!」


 イリシャは嬉々として倒れた鬼たちから装備をはぎ取っている。俺には倒した敵の体を触って装備をはぎ取るという心理が理解出来ない。

 俺は魔物になど触りたくはないので宝箱の方へ向かう。わざわざ小鬼たちが守っていたということはきっといいものが入っているに違いない。宝箱は一メートル四方ほどもある巨大なもので、いやがおうにも俺の期待は高まる。


 そう思った俺が手を伸ばしたときだった。突然宝箱から強い魔力を感じた。


 その瞬間、俺の脳裏に教科書に載っていたとある魔物の知識がよぎる。

 ミミック。宝箱に擬態し手を伸ばす者を罠に嵌めて喰らう魔物。恐怖を感じた俺はとっさに最強の魔力を最大火力で発射した。


「碧の(ウィレンティア)!」


 俺の手から膨大な量の碧の炎が放出され、宝箱を包むどころか部屋中を碧に染める。やばい、余計なものまで巻き込む、と思った俺は慌てて炎を消すが遅かった。


 次の瞬間、目の前にあった宝箱はすでに跡形もなく消滅していた。それを見たイリシャは呆然とする。


「先輩……何てことするんですか」

「いや、だってほら、これミミックだし」


 ちなみに碧の炎は生物にしか効果がないため、本当にこれが宝箱ならこうなることはない。が、イリシャは憤慨した。


「ミミックだって普通に倒せば宝箱の中身をきちんと回収することが出来るんです!」

「ごめんって!」


 世の中にはまだまだ知らないことがたくさんあるし、初めてのダンジョン探索には失敗がつきものだった。俺もまさかこういう方向の失敗ばかり積み重ねるとは思ってなかったが。

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