表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/30

タイミングと気付ける男

登場人物


北川夏美(25)

IT企業に勤める、数少ない女のエンジニア。彼氏いない歴は3年ちょい。イケメンが大好きだが恋愛対象としては見られない。


古道由香(27)

夏美の同僚の、数少ない女のエンジニアの一人。沢渡が好きで、恋愛経験に乏しい。


藤本武人(25)

夏美の同僚かつ同期で、夏美と仲良い。最近は宇佐美が気になっているが、失恋。あだ名はふじもん。


沢渡龍也(27)

夏美の同期で営業マン。夏美と同じビジュアル系バンドを好む。かなりのイケメン。最近、夏美との関わりが多い。


宇佐美(26)

夏美の同期で受付をやっている。性悪女として女子からは嫌われる系の人。沢渡に対しての態度がすごい。


橋下(26)

夏美と同じ部署の同期。夏美曰く、「どうしようもない男」


横濱(24)

受付に配属されている同期で夏美とそれなりに仲良い。少し空気読めない一面も。


北川美和(27)

夏美の姉。今までクズ男と付き合ってばかりで、いつも夏美に相談している。


大志(?)

美和と同じ職場の男。今は美和に言い寄っている様子。

…空気の読み方って、知ってる?


「北川さん、今空いてる?」


…ここ、会社ぞ。


それに、勤務時間ぞ。


「今、仕事が立て込んでますので…」


「じゃあ、就業時間超えてからなら、いい?」


いや、別にさ、いいけどさ。


「急用なら、チャットで話してくれれば見た時に返信しますので


…お願いします、沢渡さん。ここにあなたがくると、私まで目立ってしまうので…」


「ああ、ごめん」


沢渡さんめ…


私に話しかけるもんだから、私まで目立っちゃったじゃん!




ここ最近、気のせいかもしれないけど、沢渡さんとの遭遇率が高い気がする。


今日だって、自分の部署から出てないのにさ、沢渡さんがこっちにくるもんだから、こうやって遭遇してるし…


え、営業って暇なの?え?


そんな楽じゃないでしょあなた。早く戻りなさい。


由香さんも!そんなに見てたら視線でバレるからやめた方がいいって!!




「へえ〜知らぬ間に仲良くなってんじゃん」


わ、肩に重いのが乗っかったと思ったら。


「ふじもん…重いよ…」


まあそんなこと言ってはいるけど、内心嬉しくて仕方ないんだけどさ!ハッ!



最近、私はふじもんが好きだってもう認めることにしたの。


だってさ、気持ちを誤魔化しても、好きなもんは好きだし!


「それで?沢渡さんいい人だろ?


どう?」



…『どう?』とか言われてる時点で私に脈なんてないのくらい、知ってるから!


「別に?趣味、合うだけだし。


趣味友みたいな感じでしょ。」


「ほぅ?」


何その意味深な顔は!?!?


私知ってるんだからね!?!?!?


ふじもんが今まで彼女出来たことない童貞ってことくらい!!!


飲み会でそうゲロってたよね!?!?


そのウザい顔、歪ませてやるんだから!!!!


「そうやって人にけしかけてばっかりのふじもんの方はどうなのよ?」


正直、今ふじもんに好きな人とか居たら、私じゃないの間違いないから勝ち目ないんだよね。


流石に今好きな人なんて居ないだろうけど。


「別に。


…なんだその目」


「べっつにー?」


やった、やった!!!


これは、ワンチャン狙いいけるのでは…?


「じゃ、景気付けに一緒に飲みにでも行かない?」


そうよ、こうやって私からグイグイいけばいいのよ!!!


「お、おお、いいぜ」


え、何でそんな引き気味なのよ…


「何?嫌なの?」


「いや、そんなことはないぜ?」


??まあいいけど…


「じゃ、今日の仕事終わりね」


「おう」


とにかく!これで約束もできたし!


幸先いいんじゃないの…?








…そんなこと考えてた数時間前の私が悪かった。


「なんっで既読付いてるのに返信来ないの…!?!?!?」


そう、これは完全に…


既読無視!!!!!!!


『今日の飲み、どうする?』


とかさ、大事なことなのにさ、


流石に酷くない!?!?


それにさ、今日に限って何で子会社の方に急に行くことになるのよ!?!?!?


誘った時は大丈夫だったのに、昼になってから決まるとか、どゆこと?


まあ近いから、多分6時には帰ってくるとは思うし…


既読無視になってるのは、見て返事できなかったからだろうし…


そう言って待って何時間経ってる?


もう8時よ?


え、近いのにさ、何でこんなにも遅いの?


「あれ、北川さん、珍しいね、こんな時間までいるの」


…この声は。


「沢渡さんですか…」


この人と会う約束してないのになぁ…


「残業?」


「いや…」


流石に、ふじもん待っててこんなに遅くまで明日の仕事をこなしてたなんて、恥ずかしくて言えない。


それに、残業とかいつもしないように仕事を調節してる私が、こんなところにいるっていうのを見られる、更にそれが沢渡さんとか、もう何とも言えないっていうか。


「もう終わり?」


「あ、は、はい」


どっちにしろこれの最後なんて、存在しないし。


このままふじもん待ってても、来ないかもしれないって思うと、何でこんな所で仕事してないといけないのかとか思っちゃうし。


「ならさ」


沢渡さんが座ってる私の手を掴む。


…なんという高等テクニックだ。


これは、流石の私も、少女漫画の主人公的なときめきを少しだけ感じたぞ。


…こういうことを、ふじもんもしてくれたら…


「俺と、今日飲みに行かない?」


その笑顔が、ふじもんだったらと思いながら、


「…はい、そうですね」


私は微笑でそれに返事した。








私達が入ったのは…


…お、おう…


また、お洒落なバーでござんして…


「じゃあおススメを彼女に」


「かしこまりました」


う、うわー…ガチめな感じじゃん…


バーテンダーに慣れた感じで頼んでるし、プロってるやん。


「そういえば、最近ハマってるバンドがあるんだけど」


慣れた手つきで作ってもらったカクテルを飲みながら私に話しかけてくるの、流石にイケメン。


「ええ…IMITATORからの浮気ですかー?」


「それが、一回聞いてみなよ」


そして、どこからかワイヤレスイヤホンを取り出す。


あ、こ、これはあの高い…


うどんが耳から垂れてるようだと話題の…!


それを自然に私の耳にはめる。


この…


策士なのか!?!?そうだよね!?!?


自分のイケメンさを武器にしよって!!!!なんて奴だ!!!!!


…それより。


「…ん?これって…」


「気付いた?」


この曲、どこかで…


「そう、IMITATORと昔コラボしてたバンドなんだけど、これが意外にいけてるんだよ。」


「ああ、アジサイでしたっけ」


「そうそう。IMITATORの事務所と同じで、曲の系統も似てるし。」


「確か、作曲はIMITATORと同じSAKAKIでしたよね?」


「そうそう!SAKAKIって、ギタリストでもあるし曲作るしすごいよな」


「私も尊敬してますよ」


確かに、曲調が似てるから、かなり私好み。


歌詞もSAKAKIが作ってるはずだから、こんなん興味わかないわけないわ。


「アジサイの曲は、ハズレもあって…」


「そうなんですか?」


「俺さ、初アルバム買ったんだけど、それは良くてもシングルのB面が…」


「え、アルバムめっちゃ気になります」


「貸そうか?」


「え、いいんですか!?」


その言葉が出た後、ハッとなった。


あれ、なんかまた、知らない間に接点を持つきっかけが…


「いいよ、貸すよ。


代わりに、今度もまたこうやって誘うよ?」


「あ、はい、はは…」


ほら。知らない間に相手のペースになってるじゃない。


…流石の私も気付いてきたけど、


もしかして。


いやいや、うん、気のせいかわからないし。


というか、例えそんな風にされてても…好きな人いるし。


…何言ってるんだ、私。


そんなこと告白されてから悩めよ、バカ。


「…言いたくないかもしれないけど、今日はどうして残業してたの?」


まるで私が残業しない人だって知ってるかの口調。


…把握能力、高すぎない?


「…約束、してたんです」


何の、とは言いたくないし、何となく濁した。


未だに、私のスマホにはどんな通知も来てない。


既読だけの、そんな状態。


惨めすぎてさっきまで机に置いていたスマホをそっとバッグにしまった。


「そういう時もあるよね。


嫌なことがあったら、その分楽しいことしよう!


そうそう、このアジサイのライブももうすぐあって…」


沢渡さん、励まそうとしてくれてるんだよね…?


「…誘ってくれてるんですか?」


「…そのつもり、だけど」


わ、恥ずかしくて顔見えない…


声で何となく表情が想像できるし!


この人の顔見たら、こっちも照れそうになるからみちゃダメなやつやこれ。


イケメンの照れ顔とか、完全に落としにかかってるよね、わかる。


「私なんかでよければ、是非。」


「うん、じゃあ、再来週の土曜日みたいだから、ちゃんと空けておいて」


「はい」


そんな返事をして沢渡さんの顔を見て、私は逆に心がポッカリ開くような、


そんな感覚________


そうだ。理由は明確なんだ。


何で、本当に好きなふじもんじゃない方ばかりこうやって色々話が進むんだろう。


ふじもんからの返信すらないこの状態で、虚しくならないわけがない。


どうしても、


『沢渡さんがふじもんならいいのに』


それだけが、心のほとんどを占めてるにすぎないんだ_______








「ふんふん、これがアジサイねぇ…」


沢渡さんが言ってたバンドを家のベッドでねっころがりながら調べる。


ビジュアル系じゃないけど、完全に歌に特化したIMITATOR感があって。


確かにこれは興味出るわー、流石だわー、沢渡さん。


あ、メールが来たわ。


あれ、なんかIMITATORのファンクラブ会報…?


そう、私、この間のライブの後にファンクラブに入り直したの。


今までチケットが当たらなかったのは、私が制度わかってなかったってのが大きかったって沢渡さんに教えてもらってから、入らない理由が見つからなかったんだもん。


って、そんなことどうでもよくて。


「握手会…!?!?!?!?!?!?!?!?!?!!!!!!!!!」


握手会だと!?!?!?!?!?!?!?


??????????????


…こんなん、


行かない方がおかしくない?


「沢渡さんも、行くのかな…?」


ふじもんとかと行っても仕方がないし、誘っても来なさそうよねぇ。


沢渡さん一択ですわ。


ま、後から向こうから連絡来るだろうし。


…逆に、ふじもんはマジであの人覚えてるのかとか、既読つけたの忘れてるのかとか、そんなレベルだよ。


元々そんなに筆まめじゃないけどさ、流石にさ、約束したことまで既読スルーは意味がわからない。


質問しても質問返ししてくるとかのいつものひどい扱いなんて、まだ可愛いほうじゃん。


…だからといって、今私が追い打ちをかけたようにまたチャットで送ったら、変に勘ぐられそうだよね…


そんな時、チャットの通知が来た。


…こんな時間に、ふじもん?


いや、流石にここまで来ると返事なんて来ないよね…


開いてみると。


『喪女の集い』


…あ、このチャットグループか…


この『喪女の集い』とかいう地獄みたいなグループの構成メンバーは、私の高校時代の女友達2人と私の3人。


『喪女』とか言ってるけど、別に高校時代にも彼氏持ちもいたし、まあ、『枯れた女』みたいな意味合いが強いのかなって個人的には思ってる。


『おっすおっす』


いきなり女子力のかけらも無いチャット…


笑うじゃん。やめてくれ。


この子は、一番女子力がなくて、唯一彼氏持ち経験が大学に入るまでなかった伊藤桃菜いとうももな


『どしたの?』


これを送ってるのは、ザ・オタクという感じの見た目で、でも彼氏持ち経験豊富系女子、高橋美織たかはしみおり、通称みおりん。


桃菜がこうやってグループを動かす時は、会う約束をしたい時か、彼氏ができた時しかない。


因みに、後者は1度しかないんだけど。


『会いたくて会いたくて』


『震えてるならそれは地震でも起こってるんだと思う』


西◯カナネタをぶっこんで、それで気付くみおりんのうまい切り返し、毎回感服する。


『だって君らに会って話したくてたまらないの…我慢ならん』


『アッ(察し)』


あー、やっぱり前者だよねーそうよねー。


多分、職場とか色々ストレス溜まってて発散したいんだろうなぁ…


でも、私だって。


『私も聞いてほしいことあるわ』


ふじもんのことを思い出して、またイライラしてきた。


はぁっ!ムカつくのに好きなんだからどうしようもないっつーの!


『え、なっつんが珍しい』


『確かに』


2人のビックリしてるような返事に、今更ながら自分が今まであんまり愚痴ってなかったんだなって…


『それで?みんなの都合に合わせるよ』


そう私が送ると、桃菜スケジュール合わせのアプリを出して、そそくさと記入していく。


まあこのメンツだと、職業柄みんな合わせるのが大変だったりするんだよねぇ…


『今週は当直がないし、元々仕事入ってないから今週末がベストかも』


『私もそうして貰えるとありがたい〜1週遅れてたら海外にいたよぉ〜』


ふんふん、今週末ね。


沢渡さんとの約束は再来週だし、用事もないから、私もありがたいかも。


『なら、今週末の土曜日で』


……振り返ると、こうやって集まるのは、桃菜が就職して以来じゃないかな。


自然と、楽しみで表情筋が緩んだ。









時間なんて、実際にあったことを無くす効力はない。


「…おす」


そう、ふじもんがチャットの既読無視をキメて、その次の日に顔を合わせる時の、このやるせなさね。


「ねえふじもん、」


「え、何」


え、わかってるよね、流石に


「何で昨日返信くれなかったの?」


待ってたのに、とまで言うまでもなく、この男は目を逸らした。


「ごめん、俺見てなくて。見たの夜だったし」


は?せめて6時には既に既読つけておいて?


「あの後待ってたんだけど」


「ごめん」


「2時間だよ?流石に会社に簡単な荷物置いてあるからさ、多分来るだろうって思って会社で待ってたんだけど」


「ごめん」


はぁ。この男は『ごめん』しか言えないの?


「でもさ、俺、待っててなんて言ってなくね?」


…は?


「何言ってるの?連絡が来ないから来ると思って待つのが普通じゃん」


「はいはいごめんなさい」


……これ、我慢しなきゃいけない?


いや、我慢する必要はないよね。


「相手に申し訳ないと思ってるなら、どんだけ遅くても返信してくれないと困るんだけど」


「…はい」


私の怒り具合は流石に伝わったみたいで、ふじもんもこれ以上余計なことを言わなかった。


…はぁ。こんな男、好きになってもしょうがないのに…


こんなことされても、どうしても嫌いになんてなれなかった。

次回の更新は1月24日です。

藤本のモデルがいると前に書きましたが、今回は一部実際にあったことをリメイクして書きました。

あの時の対応がこうやって小説の最悪男の言動のネタになってるのを、彼は気付くことなんてないんでしょうね…

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ