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私にとっての仕事

登場人物


北川夏美(26)

IT企業に勤める、数少ない女のエンジニア。イケメンが大好きだが恋愛対象としては見られないはずだが、会社でイケメンで通っている沢渡さんと交際することに。


古道由香(28)

夏美の元同僚の、数少ない女のエンジニアの一人。沢渡が好きで、恋愛経験に乏しい。沢渡にアタックしたものの、フラれてるが…


沢渡龍也(28)

夏美の同期で営業マン。夏美と同じビジュアル系バンドを好む。かなりのイケメン。夏美と交際中。


宇佐美華子(27)

夏美の同期で受付をやっている。性悪女として女子からは嫌われる系の人。沢渡にフラれた。夏美に最近助けられて和解。


橋下京平(27)

夏美と元同じ部署の同期。夏美曰く、「どうしようもない男」


北川美和(28)

夏美の姉。今までクズ男と付き合ってばかりで、いつも夏美に相談している。昴と付き合ってる。


今岡大志(28)

美和と元同じ職場の男。夏美と美和の元彼。クズの権化。


伊藤桃菜(26)

夏美の高校の時の友達。現在、初期研修医。現在、彼氏持ち。


高橋美織(25)

夏美の高校の時の友達。元彼がたくさんいる。


水森沙菜(25)

夏美と仲のいい、隣の部署の後輩にあたる子。藤本と1年近く付き合ってたが、別れた。


山内猛流(25)

通称たけぽん。夏美の3番目の元カレ。AIHAという会社で働く。夏美をなっちゃんと呼ぶ。夏美に告白したが、フラれる。


大脇(47)

夏美と同じプロジェクトに関わる、実質的な上司。セクハラしてくる。


丹野昴(30)

美和の彼氏。丹野物産の後継者。人見知りが激しい。

今日も今日とて、まだAIHAとの戦いは続いていた。


「北川さん…助けてください…」


部下がまた泣き言を言ってる。


どうせ、あのAIHAの責任者との電話なんでしょ。


私にも態度悪いけど、大脇さんと私以外にはもっと態度が悪い。


最近、私がAIHAの方へ出向くことが減って、部下に行かせてばかりだったからか、調子に乗りすぎてる。


「もしもしお電話かわりました、北川ですが」


『お宅さ、AIHAに恨みでもあるの?そんな風にキレられても、どうしようもないんだけど?』


あのクソハゲ(責任者)の声だ。


舐め腐ってんのか、この人。


「ですが、弊社の方から期限を提示しましたよね?守ってもらわないと仕事が滞るのですが」


『君さぁ、まだ若いでしょ?歳上にそんな態度取っていいと思ってんの?お宅はそういう上下関係とか習わないの?


ちょうど今回学べてよかったね』


そういう問題じゃないでしょ!!!!


約束事すら守らない歳上なんて敬うに値しないことくらい、この人は知らないの!?!?


「…あまりにも御社が期日が守れないようでしたら、こちらもそのように対応させていただきます」


絶っっっっっっっっっっっっ対に、AIHAと契約切ってやるんだから…!








「…今日の夏美さん、荒れてるね」


ランチ時に、宇佐美さんと遭遇して、そのまま捕まって、一緒にご飯を食べてるんだけど。


この人、知らぬ間に私に懐き始めてて、本当に読めない。


「…仕事で協力会社に手を焼いてるの」


「…最近の夏美さんって、結構キャリアウーマンって感じ。昔からこんな風だったっけ?」


「あーどうだろー、わかんない」


ちょっと、白々しかったかな。


本気で離れて欲しいって気持ちが出たかも。


「女の人だとそんなに出世だってしないし、生活できる程度だけ働けばいいとか思わないの?」


「……そう、だね」


そんなことを思ってたこともあった。


でも_______


プルルルルルルルルルル


「あ、ごめんね、電話だ」


私に電話したのは、部下の細川君だった。


『北川さん、言われた通り、いい感じの会社を3社ほど見つけました!


あと、そこと連絡を取ってみて、このプロジェクトの話の原案ですけど、話を聞いた所、どこもいい感じの返事が来ました』


でかした、流石信頼できる部下ね。


「ありがとう。すぐ行って、その足でAIHAの方も行くわ」


『承知しました、ありがとうございます』


そう細川君が言ったのを確認して、電話を切った。


「仕事の電話?」


「うん、宇佐美さん、ごめん、もう行かないと」


私がそう言って立ち上がると、私の腕を掴んで宇佐美さんは私の顔を見る。


「夏美さんのその仕事頑張る姿、素敵よ。


あと、華子って、呼んで」


お、おう…


「華子さん、じゃあさよなら」


何あの人…


いきなり距離縮めてきて、気味が悪いよ…








「ですから、この予算はおかしいでしょう、


前に提示した金額でできるはずです、どうしてその金額だと出来ないと仰るのか、私には理解しかねます」


AIHAに乗り込んでみると、他の問題まで出てきてることを知って、私、ブチギレ寸前。


予算を出来るだけ使わずに出来るし、こんな所で時間かけたくないのに!!!!


何なの、もう約半年経ってるのに、まだこんなことで詰まってるなんて…


アムコニ、GIST、類崎堂…


苛つきすぎて、細川君の見つけてくれた会社の名前が頭の中グルグルしてるっての。


「すいません、弊社で今、中間決算に向けて整理してるのですが…」


「山内!余計なこと言うな!」


…何か、あるのね。


たけぽんにあとから聞いてみよう。


「どちらにせよ、この予算でしたら弊社ではプロジェクトを進めることができませんので、この話は無しにすることに…」


「はぁ!?その話は君の上司が決めることなんだよな?上司がお前の独断を許すとでも思ったのか?」


はぁ…。


これ、もしかしなくても…


でも、証拠を手に入れないと…


「弊社の方でまた話し合ってきます。では、今日はここまでということで…」


こんなことしてられないわ!!!!!


と、私が息巻いていると、私のスマホにチャットが入る。


『たけぽん』…。


私はたけぽんの方を見て、目配せした。








「はぁ!?!?賄賂!?!?」


その日の夜、私とたけぽんはお互いの家に近くて会社から遠い居酒屋に来ていた。


このこと、龍也さんに言ったら、めっちゃ怒られそうだけど、これは仕事関係で聞きたいことが山ほどあったから、仕方ないんだよな。


ごめんね、龍也さん。


「なっちゃん、声大きい…」


「あ、ごめん」


あまりにもびっくりするようなこと言うもんだから、ついね。


「もしかしなくても、今回の予算も、誰かの取り分があるから額面上膨らんでるってこと?」


「ビンゴ」


あんまりにも思い当たる人がいて、ちょっと困るくらいだけど…


「大脇さんだよね、その賄賂を貰ってるの…」


「僕はわからないけど、DRWの人なのは間違い無いよ」


こんな簡単にわかるとは…


「それならさ、たけぽん、ちょっと一肌脱いでくれない?


あのハゲ、早く居なくなればいいとか、思ってるでしょ?


間違いなくあのハゲが関わってるし」


責任者のハゲに関しては、あれからも何度か(会議の後とかだけだけど)愚痴ってたし、お互い嫌いなんだからさ、WIN-WINでは?


「…それなんだけどさ、


ちょっとなっちゃんに相談があるんだ」


え、何、


そんなに真面目な顔されても…


「どうしたのよ」


「あのさ、僕、アムコニから引き抜きの誘いが来てて」


えっ


アムコニって_____


私の頭を高速で回転させて、思い出す。


そうじゃん、今私達が次の共同開発の相手として考えてる会社じゃん。


かなりホワイト企業だけど、唯一問題がDRWの子会社じゃないから情報の共有とか問題だった、あそこ?


「え、そっちに行けば良くない?」


「でもさ、AIHAにまだいるわけだし…会社を裏切るみたいな感じになるし…


僕の今やってる仕事だって、僕が突然居なくなったら困るだろうし…」


あ、いいこと思いついた!


「ならさ、余計私の手伝いしてよ!


実はさ、あのプロジェクトさ、もう契約切ろうかと思ってて、その足がかりとしてその汚職とか進行具合の実態とかの証拠集めてるんだよね」


そうすれば、


① 私達は快くアムコニとかと契約し直せる


② 上司が変わることで職場の空気も良くなる


③ たけぽんは気持ちよく引き抜きの方へ行ける


さらに、うちらがアムコニと契約して、たけぽんがまた私達のプロジェクトに参加してくれれば、


唯一と言っていいほどのAIHAの良心付きで、情報共有も上手くいくし、最高では????


「そうだね…


いいよ、手助けしてあげる」


「たけぽん、神!!!!」


「悪いことを暴くのとか、怖いけどね…」


小心者だな、たけぽんは。


「いいじゃん、ヒーローになれるんだし、美味しい話だし」


「うん…」


煮え切らないな…


「それより、なっちゃんは彼氏とうまくいってるの?というか、彼氏は今日のこと知ってるの?」


む。話変えたな。


「話すり替えるな〜〜!


…言っちゃうと、今日のこと、彼氏には言ってない…


それはそれとして、彼氏とは上手くいってるよ?たけぽんは?」


「…傷を抉るなよ…」


「ごめんて」


私に振られてから、結局まだ新しい恋には進めてないらしい。


ごめんよ。


「だから、私が可愛い後輩ちゃんを紹介するって、何度言ったか」


「だから、なっちゃんの紹介っていうのが心に刺さる…


…ま、そろそろ諦め良くないとな」


お?これは?


「じゃあ、今回のことが落ち着いたら、後輩ちゃんを紹介していい???」


「はぁ…わかったよ」


やったぜ!!!!沙菜ちゃんとたけぽんは相性良さそうだと思うもん!!!!


そんなことを思いながら、日本酒をあおった。








「はぁ…全く。どんだけストレス溜めてたんだよなっちゃん…


沢渡さん、でしたっけ?すいません、わざわざ来ていただいて…」


…あれ?


私_____


「夏美と君は、今でも仲良いの?こんだけ俺が外でたくさん飲むなって言ってても飲むくらい、気を許してるってこと?」


「彼氏さんには申し訳ないです…ですが、今日は完全に仕事関連の話しかしてません。うちの会社の上司の愚痴が溜まってたみたいで…


僕はもう帰りますね」


たけぽんの声が遠ざかるなぁ…


「夏美、起きて」


あれ、龍也さんの声____?


なんか、車に乗って______


「はっ!?」


「あ、起きた」


頭がはっきりしてきたぞ…?


そうだ、たけぽんと飲んでて、日本酒とビールとワインと…


何杯飲んだっけ?


ってか、なんで、龍也さんがいるんだ!?


「夏美の携帯から、さっきまでいた彼が夏美の回収を頼まれたんだ」


うわ、マジか…


「ごめん…」


「何で俺に黙ってたの?」


「…だって、止められそうだったし。


今日の話はちょっと龍也さんとだと話せない話だったもん」


「…彼との関係は?未だに連絡とってるの?」


うわ、激おこ…


「今のプロジェクトの共同開発してる会社の社員なの。それで、向こうの上司のことを話してて、ちょっと協力関係になってもらうように頼んだり…して…た…」


オーラが怖いって、龍也さん!!!


「俺じゃどうしようもなかったのはわかったけど、そこまで俺、物分かり悪い訳じゃないからな?」


運転してる龍也さんは、拗ねてる。


「うん…これからはちゃんと言うね」


「約束だからね」


そんなことを言われてるうちに、私達は龍也さんのマンションに着いた。








「そういえば、夏美ってさ、昔は定時帰宅が当たり前だったよな?


最近、やけに頑張ってるけど、何かあったの?」


龍也さんの家でお風呂から上がると、龍也さんはそう私に不思議そうに聞いてきた。


宇佐美さんにも言われたけど、そうなんだよね。


「あのね、私、今まで、どんだけやっても正当に評価してくれないし、女だからさ、出世出来ないってことでね、


自分のできる範囲だけ、最低限の仕事だけやろうってスタンスだったの」


私がインターンの時に行った部署。


そこにいた、完全に仕事バリバリ系の女の人。


憧れて、初めて話した時に行った居酒屋で言われたことを、多分一生忘れない。


『私なんてね、こんだけこの会社に尽くしてるのにさ、その頑張りなんて見ちゃくれない。


出世は諦めろって、初めに遠まわしに言われた時、本当に手を抜こうかなって、何度も思った。


でも、それでも、いつかは仕事で自分が認められるチャンスが出てくるかも知れないって、そう信じて頑張ってるの』


そう言った約1年後、入社した時に訪ねたら、その人は結婚して会社を辞めたことを知った。


多分、もう認められないって、悟って。


『寿退社』という言い訳に、会社から逃げたんだと思う。


「でも、私に認められるチャンスが回ってきたの。


自分じゃないとできないことが、本当に奇跡的に、私の前に現れた。


それなら、もうやりたいように仕事に打ち込もうって」


由香さんとか狸な上司とかに恵まれて、私の頑張りが認められるようになった。


このチャンスを掴めば、仕事をする意味、


お金以外の何かが、私には得られるのかもって。


「だから、このプロジェクト、多分5年はかかるんだけど、これを疎かにするつもりはないんだ」


「…そうなんだ」


私の言葉に裏の意味を感じたのか、龍也さんは苦笑いした。


「夏美ならできるよ。応援してる」


「…ありがと」








いたたたたた…


二日酔いが今になってきた。


「おい北川!!!!!!」


何ですか、大声出してキレて…


大脇さんは私の方にズカズカとやってくる。


おっと、大脇さん対策の準備をしないと…


「何でしょう」


「AIHAの契約打ち切りにするって、お前、誰の権限があってそんなこと言えると思ってんだ!!!!」


あー…そのことか…


「あまりにも態度が悪くて、期日も守れないような会社と共同開発していても資金の無駄ですので、公的な措置を取って契約解除が一番妥当かと」


「女如きがそんなこと言うのかよ!?!?俺に通せってんだ!!!!」


_______“女如き”、ですって…?


「大脇さん、落ち着いて…」


「おい細川、お前はこの下っ端のクソアマの方を支持するのか?あ?」


_______“クソアマ”?


…あー、仕事の時は沸点自体が上がって、余程のことが無ければ態度に出ることまでないと思ってたけど。


沸点が800℃だとしたら、今の私の温度は750℃だ。


…大丈夫、まだ50℃分、我慢できる。


「ってかよ、北川だって女なんだから早く結婚してやめればいいじゃねーか。


彼氏に泣きついて結婚を頼んでみたらどうなんだよ?まさか、断られてるのか?


どうせ結婚して仕事辞めるなら、今のうちだぞ」


_____は?


「出世とか、俺よりできる訳ねーじゃん。何か勘違いしてね?」


「_____この老害が」


「あ?」


しまった、声に漏れてた。


周りのメンバーは、私に哀れみの視線が集まってる。


基本的に私が仕切って、計画から割り振りまで担ってるのは、私の直属の部下たちはわかってる。


___これが、力の差、なんだろうね、老害が。


798℃。


「流石に言い過ぎなのは理解してますか?


それに、私は今の仕事が好きでやってるので結婚の予定はありませんし、


結婚したとしても辞めるつもりはありませんから」


「あ?」


「それでは私は仕事に戻りますので」


そして無視した。


「上司に向かってなんつう態度なんだーーーー!!!」


キレてる老害を無視して、ただただ証拠探しを進めることにした。

次回の更新は6月12日です。

久しぶりに宇佐美さんを出せて、満足です。

夏美の体質は、色んな種類の酒を飲むと酔いやすくなるタイプですが、本人は気付いてません。

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